二章 魔法少女に大変身!
魔法少女に大変身! 01
何時、眠りに落ちたのか、ここが何処なのかさえまだ思い出せない。
だが、この目覚めの感覚は何度も経験した事がある。
「ほらっ、隊長っ、朝ですよっ!」
眠るのが早い分、起きるのも早いあいつの声。
「起きなさーいっ、朝ですよっ!」
いつも登校前に俺の家に勝手に入ってきて、馬乗りになって無理矢理起こそうとするあいつの柔らかくも張りのある尻の感触。
「もうっ、起きない隊長なんか、こうですっ!」
腹部に集中する体重。
そして――――。
『ドスンッ、ドスンッ』
「ぐはっ! 待て待て起きるから――ぐほっ! ちょっとヒナタ! ――げっほぉぃ!」
息を詰まらせて目を見開くと、俺の襟首を手綱のように持ったヒナタは、文字通り馬乗りのまま腹の上に尻餅をついている。
『ドスンッ、バスンッ!』
「やめっ、もう起きてるって――――ごっはぁっ! このっ、いい加減にしろっ!」
「――きゃぁ!」ペタン
俺は腹筋の要領で体を起こし、腹の上で暴れるヒナタを前方へと押し倒した。そして前のめりになって、顔も間近にクレームをつける。
「目覚めさせるのが目的なのか、永遠に眠らせるのが目的なのか、お前の行動はいっつも分からんっ!」
「もうっ、隊長ってば、じゃじゃ馬さんなんですからぁ」
「じゃじゃ馬はお前だっ!」
「えへへへへっ」
「……まったく……」
悪びれもせずに笑うヒナタに呆れながら俺が体を起こそうとすると、次にヒナタは仰向けのまま腕を伸ばしてきて、俺の首の後ろに手を組んだ。そして曇り一つない瞳で無言のまま、暫し俺の目の奥を見つめている。
「……何だよ?」
「たーいちょ」
「……おう」
見つめてくるヒナタに対して、俺も負けじとヒナタの目の奥を見つめ返す。するとヒナタは、まるで俺の存在を確認したかのように破顔して挨拶した。
「おはようございます」ニコッ
「……ああ、おはよう」
呆れたように俺はヒナタの挨拶に応える。どうしたものかと思っていると、部屋の入り口の方から声がした。
「お二人さん、朝っぱらから大変仲が宜しいようですけど、ここツキコの部屋ですから」
ハッとして顔を横に向けると、極めて不機嫌そうな表情をしたクウさんが立っておられた。
「いや、あのなクウ。毎日これで睡眠妨害されてたら、嬉しいとかそういう気持ちは全く無くなるからな」
「えーっ、毎日起きない隊長が悪いんですよー?」
下からヒナタが口を挟んでくる。
「分かったから離せ。ツキコが来たらもっと面倒になるだろ」
クウさんの顔がますます引きつっておられる。早急にこの状況を改善しなくては、取り返しのつかない事になるだろう。俺はヒナタの手を潜り抜け、布団から体を起こそうとした。しかし、その時だった――。
『ガチャリ』
突如、部屋のドアを開ける音がしたのだ。
「朝ごはんの準備出来たよー」
入ってきたのはツキコである。ギリギリセーフかと思われたが――。
「ああっ、ヒナタちゃんずるいっ! 私も隊長と遊ぶー!」
ツキコもヒナタに便乗するようにして、俺の背中に覆い被さってきた。
「おいっ、こらっ、重いだろ!」
「えーっ、私そんなに重くないよー?」
「いやっ、ほら当たってるからっ、背中っ」
「当たってないでーす。外れでーす。私は重くないんでーす」
背中で感じる二つの感触と、肩口からサラサラと垂れてくる長くて清爽な髪が、俺の好色性と鼻腔を絶妙に刺激してくる。眼下ではヒナタが、仰向けで笑いながら俺達を見上げていた。
相手が幼馴染とはいえ、俺も年頃の男だ。このままでは朝っぱらから色々まずい事になりかねない。幼馴染二人に挟まれた俺は、半ば助けを求めるようにして、クウの方へと素早く視線を移した。
「――クウっ、ヘルプだヘルプ」
テレパシーを使って俺は伝達する。クウは少しびっくりした様子で、その場をキョロキョロと見渡した。直ぐにテレパシーだと理解したクウは、目をぱちくりさせながら一人呟く。
「……そっか、テレパシー使えるんだったわね」
そして。
「はぁ」
とため息をついた後で、クウはこちらへ歩み寄って来た。
「ほらっ、ツキコっ、離れなさいっ」
「えーっ、ヒナタちゃんだけ昨日ずっとおんぶだったんだよー。今日は私もおんぶー」
「いいから離れなさい。もう朝食出来たんでしょ?」
「うん! 今日はスクランブルエッグだよー」
そう返事をしつつもなかなか離れようとしないツキコに向けて、俺は肩越しにこう言って説得を試みた。
「分かったよツキコ。リビングまでならおんぶしてやるから、今日はそれで我慢しろ」
「ほんとっ? おんぶしてくれるのっ? やったぁー」
こいつのおんぶへの執着は一体何なんだ? 返事を聞いた俺は、ツキコの成長著しい太ももに指を食い込ませながら、布団から立ち上がった。
「はぁ……。よいしょっとっ」
「わーいっ。それじゃあみなさん、リビングへ向かいましょー」
「おーっ!」
ツキコの嬉しそうな呼びかけに、立ち上がったヒナタが笑顔で応じる。
こうして俺達はリビングへ向かい、賑やかに朝食を取ったのだった。
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