二章 師匠
師匠 01
木漏れ日一家との邂逅後、俺は秘密基地の椅子にもたれ掛かりながら深いため息をついていた。
今回は完全に俺の失態だった……たまたま相手に敵意が無かったから良かったものの、もし相手が悪い魔法少女ユニットだったら幼馴染三人の身の安全も、思い出の秘密基地も、全てが破壊されていたかもしれない。
軽く指先に残る震えを静めながら、俺は今から川の方へ行ってあいつらの無事を確認するべきだろうかと思案する。しかし、すぐさま俺は自分のアホさ加減に気がつくのだった。
「くそっ……本当に俺はアホだな。俺達には『テレパシー』があるじゃねぇか」
そう、テレパシーを使えば川まで行かなくても全員の無事くらいは確認できる。それどころか、あいつらに隠れているようにと伝達することだって出来たのだ。幾ら焦っていたとはいえ、あまりに自分の頭の回らなさに苛立ちさえ覚える。
だが、今は自分を責めてもしょうがない。まずはあいつらに連絡するのが先だ。
俺は意識を研ぎ澄まして、クウに向けてテレパシーを送った。
「クウ……聞こえるか?」
俺の呼びかけに、数秒ほど間を空けてからクウが応答した。
「……うん、聞こえるわよ。どうしたの隊長? ――きゃっ!」
「どうした?」
「ううん、ヒナタが水をかけてきたの。もうっ」
どうやらあちらは無事なようだ。
楽しそうなクウの声色を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「クウ、そちらは何も変わった事はないんだな?」
「変わった事? うん、特に無いけど……どうしたの?」
「三人とも、早めに秘密基地に戻ってきてもらっていいか? 詳しい事は帰ってきてから話すけど、さっき来客があったんだよ」
「来客……? まさか秘密基地に?」
「秘密基地までは来ていないが、高台と秘密基地の分岐点まで来てたぜ。もう帰ったけどな」
「へぇ。何だかよく分からないけど、ツキコとヒナタを連れて今から帰るわね」
「おう、よろしく頼む」
クウとの交信を終えた俺は、次に変身端末のモニターを覗き込んだ。
さて、あいつらに経緯を説明する前に、木漏れ日一家が公開している情報について確認しておこう。確かログに表示されているユニット名をタップすれば、そのユニットが公開している情報を閲覧できたはずだ。
「えっと、最新ログは……」
ログを確認すると、すぐに木漏れ日一家の名前を確認することが出来た。最新ログには以下のように記されていたからだ。
・木漏れ日一家とチェルシー×2が、ゴルディゴールを撃破しました。
ログの詳細を見ると、日時は1時間くらい前。
恐らく木漏れ日一家は、ここに来る直前にチェルシー×2というユニットと共に宇宙生物と戦っていたのだろう。
「姫結衣市内しか宇宙生物の発生を監視していなかったけど、今後は市外の宇宙生物についても気を払った方がいいのかもしれねぇな……。敵が宇宙生物だけとは限らない訳だし」
そう一人で呟きながら、俺は木漏れ日一家と書かれた箇所をタップする。
すると、新しいウインドウが開いて以下のように表示された。
ユニット名 『木漏れ日一家』 結成16年
管理者
リーダー
メンバー
目的 人類保護 指導 鍛錬 遺物収集 広域交流 蓄財
方針 本ユニットは、人類保護と魔法少女の育成を優先とする。
人類保護を目的とした救援要請や教練依頼については、管理者へ連絡を。
強力な宇宙生物の討伐には各地域のユニット同士の連携が不可欠となるの
で、広域交流や個別会談も積極的に継続していく予定。
他ユニットの目的や理念は可能な限り尊重するが、故意に我々と敵対する
ユニットに対しては、メンバーの殺害を含めた厳しい処置を取る。
結成16年……魔法少女の数は三人か。『方針』の項目を読む限りでは、木漏れ日一家は自分達の力に相当な自信があるようだ。それにしても、俺達が生まれる前からこのユニットは宇宙生物と戦い続けてきたんだな。ほんの少し前までは、俺達のすぐ傍でこんな世界が広がっているなんて、想像だにしていなかったというのに……。
次に俺は、木漏れ日一家と共闘しているように見える、『チェルシー×2』というユニット名をタップしてみた。木漏れ日一家がどういうユニットと交流を持っているのかを確認したかったのだ。
ユニット名 『チェルシー×2』 結成3年
管理者
リーダー
メンバー
目的 狭域交流 鍛錬 人類保護 遺物収集 蓄財
方針 おかげ様でチェルシー×2も結成3周年!
まだまだ未熟なユニットですがよろしくお願いします!
食事会やカラオケなど、気軽にお誘いください!
宇宙生物退治は星4以下なら参加可能。国外や星5以上は要相談。
よく聞かれますが、ユニット名はチェルシー・チェルシーと読みます。
リーダーが大好きなお菓子の名前から(ジャイケンで)決定しました。
皆さんよろしく!
ふむ……。
木漏れ日一家の方針文章に比べると、随分軽いノリのようだ。どうやら二人組みの魔法少女ユニットらしい。
この目的という項目は、ユニットが何を目的に活動しているのかを示すタグみたいなものだろうか。『遺物収集』は
そんなことを考えていると、小屋の外で笑い声が聞こえてきた。どうやらあいつらが帰ってきたらしい。俺は椅子から立ち上がり、秘密基地のドアを開いて幼馴染三人を出迎えることにした。
「あっ、たいちょー!」
遠目から俺の存在に気づいたヒナタが、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「隊長っ! 沢蟹を沢山見つけました!」
「そいつは良かったな。でも、持って帰ってきてないだろうな?」
「はいっ、ちゃーんとリリースしてきましたよ! お魚も!」
「よし、いいぞ。それじゃ、手を洗ってから中に入りな」
「はい!」
気持ちの良い返事をした後でヒナタは振り返り、クウに向けて手を振りながら尋ねた。
「おーい、クウちゃーん。洗剤とお水どこにあるー?」
「ドア開けてすぐ横に一緒にあるわよ」
会話を聞いたツキコも、パタパタと走ってドアの前に駆け寄ってきた。
「あーっ、ヒナタちゃん待って待ってー。一緒に洗いっこしよー」
「洗いっこ?」
「うん。ほら、こうしてぇ……お互いの手に水と洗剤をつけてー。こうするのっ!」
「あはははっ、ちょっと、くすぐったいよっ!」
「ほれほれー」
「あははははっ!」
緊張状態から一変。
楽しげな声が、再び秘密基地に戻ってきたようだ。
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