第3話 過剰防衛ミス戸根中
ある日の放課後。
私はいつも通り、ひなちゃんの元へと向かっていた。今回はチョコレートの焼き菓子を持って。
ひなちゃん、喜んでくれるかな…。
「こんにちはー!ひなちゃ…ん…?」
夕日に照らされた教室には、先客がいた。
ひなちゃんらしき小柄な影に寄り添う影。
「やあ、早乙女くん」
ひなちゃんが振り向くと、隣の子もこちらを見る。
艶やかな黒髪の長髪、すらりとした体躯がとても美しい、絵に描いたような美少女。
「ひな…。あの人、誰?」
この人、見たことがある。
「もしかして…
空手部の副主将で、全国でも上位の実力を擁する彼女。それだけではなく、今年の文化祭ではミスコンで優勝を果たしている。
『強さと美しさを併せ持った、最強美少女』なんて謳われていたわ。確か。
「まあ、君も流石に知っているよな。奈々は私の幼馴染なんだ。ついでに言うと、寮も隣部屋だ。」
ひなちゃん、道理で帰り一緒にならないと思ったわ。寮生だったのね。
「あ、そうだわ。ブラウニー作ってきたの。ひなちゃん食べるでしょう?」
「ああ、貰う。君のお菓子は美味しいからな」
ひなちゃんが微笑んで、ブラウニーに手を伸ばした瞬間。
ごしゃっ、と言う歪で震え上がってしまうような音が響いた。
止まるひなちゃんの手。
しかしその後、何事もなかったかのように唖然とする私の手からブラウニーを受け取り、隣を見る。
恐る恐る、私もそちらへ目をやった。
「奈々、机が可哀想だぞ」
ミス戸根中である東条さんが、瓦割りの要領で机を真っ二つに叩き割っていた。
「…早乙女、だったっけ?」
暗く、低い声。明らかなる殺気。
心の底から戦慄した。
「え、あ…そう…デス」
「随分…ひなと仲がいいのね。それ、手作り?」
怖っ!え、ちょ、私何したかしら!?
「やめないか、奈々。早乙女くんに殺気を向けるな。ほら見ろ。震え上がっているじゃないか」
ぴしっ、と空いている手で東条さんの額を指弾する。
東条さんはむすっと頬を膨らませた。
そして私を横目で眺めてふんっとそっぽを向く。
「すまないな。奈々は早乙女くんに敵意があるわけじゃないと思うんだが。」
いやひなちゃんよく見て。これ敵意どころの話じゃないわ。最早殺意よ。
「それにしても、早乙女くんは料理上手か?流石女子より女子力高いと謳われるだけあるな」
「そう?ひなちゃんチョコ好きみたいだったから、作ってみたの。簡単よ?教えてあげましょうか?」
ひなちゃんは渋面を作った後、恥ずかしそうに俯いた。
「やめておく。私は料理がてんで駄目でな。カレーを作れば異臭を放ち、カップ麺を作れば爆発する。遂には料理禁止令が出た」
照れたように笑うひなちゃん。
その笑顔は、とっても可愛くて、誰もが魅入ってしまうようなものだった。
隣の東条さんでさえ、幸せそうにひなちゃんを眺めている。
「じゃあ、料理教えてあげましょうか?私が付いてれば爆発騒ぎにはならな」
ぽんっと手を打って出した案は、二個目の机が真っ二つに裂ける音によって遮られた。
「じゃあ…私も、入れてもらおうかな。いいでしょ? 早乙女」
暗く微笑んだ東条さんに、私は少女漫画の主人公がライバルに向ける気持ちがわかった気がした。これは怖い。そして辛い。
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