第4話 いい子なヤンキー
「ひーなーちゃんっ」
「やあ、早乙女くん」
「ちっ…また来たの」
東条さん舌打ち聞こえてるからね?
最近、放課後の教室に集まるのが自然となっている私たち。
まぁ、私がお菓子を渡しに来て、二人の会話に乗っかってるだけなんだけどねえ。
「今回はー…。じゃーんっ!チョコチップクッキーよ!」
「…!」
ひなちゃんの顔が、薄くぱあっと輝いた。
もしかして、好物?
「食べていいか?」
「ええ!いーっぱい作ってきたから、どんどん食べてちょうだい!東条さんも食べて!」
「…ふんっ」
そっぽを向きながら、クッキーに手を伸ばす東条さん。
これが巷で噂のツンデレってやつね。納得。
「とおおおおおおじょおおおおおお!!」
教室の扉が、壊れたかと思うほど歪な音を立てて開かれた。
立っていたのは、肩を怒らせた男子。
金髪の所々跳ねた髪に、ぴょこっと立っているアホ毛。耳にはドクロの飾りと、一見首から上は不良っぽいが服はそうでもない。ちゃんとネクタイは締めている。
東条さんなんて、リボン首に掛けただけだものね。
「奈々、知り合いか?」
「…いや、わからない」
「てめえふざけんな! この間のこと忘れたのかよ!? 借りはきっちり返させて貰うぜ!」
え…東条さん、喧嘩でもしたのかしら…。
不良くんは、ドスドスこちらに近づいて来て東条さんの目の前で止まった。
え、え? ここで喧嘩起きちゃうの!?
「…まじで覚えてねぇのかよ?」
「覚えてないって言ったじゃない。ひなに手を出すんなら、容赦しないけど?」
東条さんが殺気を帯び始めた。
ひなちゃんは、クッキーを手にこちらに避難。
「ふむ…彼は面白いな。」
「あら、怖くない?」
「全く?」
ひ、ひなちゃん強いわね…。
「よく見たまえ、早乙女くん。耳飾り、あれはイヤリングだ。あと、あの髪の傷み方から見て十中八九ブリーチだろうな。」
ひなちゃん、あの男の子唖然としてるわ。
ていうか、観察眼すご…。
「な、何だとてめえ! 俺はれっきとした不良だ!」
「因みに、不良って宣言する奴程不良じゃなかったりするんだ。覚えておくといい。」
あらら。完全に火に油を注いだわ。
ワナワナ震え始めちゃって。
「て、め…! ふざけた事抜かすんじゃねえ!」
「ちょっと!? 危ないじゃない!」
横殴りに振られた腕が、クッキーの山すれすれを通り過ぎていく。
「あんた、東条さんに用があるんでしょ!? こっちにまで被害飛ばさないでちょうだい!」
ひなちゃんを庇うように引き寄せ、文句を言う。
彼は、うっと唸って東条さんと向き合った。
「早乙女くん、これうまいな」
「あら、本当!? 嬉しいわ! でもひなちゃんもう少し危機感持ちましょうか」
カリカリとメモを取りながらクッキーを咀嚼する。小動物みたいで可愛いわ…。
「あ、その、だから…!」
突然挙動不審になる見た目不良くん。
ん?もしかして、これって…。
「ね、ねえひなちゃん。もしかして彼って…」
「奈々と決闘しに来たと見た。」
え、違うでしょ! あれ、多分恋の症状よ!?
「え? 恋?」
「えええええ!? どっからどう見てもそうじゃない! そりゃあ、最初は決闘しに来たのかと思ったけど!」
顔真っ赤だし挙動不審だし! 東条さんと目も合わせようとしない!
私は恋と見たわ!
「あの、だな」
「さっさと言ってよ」
東条さん随分通常運転ね。
見た目不良くんは遂に決心したのか、ビシッと指差し、ヤケクソのように叫んだ。
「この間暴走族から助けてくれてありがとな!! 別に俺強いけど!? あいつら妙に運が良かったみたいで俺の本気が出せなかっただけだからな!」
ごめんなさい状況が読み取れないわ。
「つまり…、暴走族に囲まれた彼を奈々が助けたと。彼曰く、相手の運が良くて本気が出せずに殴られかけていた、と。」
ひなちゃん仕事熱心ねえ。一から全部メモ取ってる。
「別にかっこいいとか思ってないからな!ただ、助けられっぱなしは嫌だから言いに来ただけだからな勘違いするなよ!」
東条さんより彼の方がツンデレだわ。
「…そう。あんた、名前は?」
「に、
東条さんは僅かに俯いた後。不気味に、笑った。
「そう。二階堂、ね。覚えたわ」
二階堂くん、貴方東条さんの地雷踏んだわ。
大方、ひなちゃんに喧嘩売ったからでしょうけど。
前途多難の恋ねえ。がんばって。
「早乙女くん、顔から表情という表情が全て抜け落ちているがどうしたんだ?」
「あれ? そ、そう?やーねえ。何でもないわ」
あはは…と笑って誤魔化す。
彼…どこか、弟に似てるのよね。不良ぶってる所とか。
「…早乙女くん。無理に聞こうとは思わないが、あまり溜め込み過ぎると後で大変だぞ?」
「んー? 優しいのねえ、ひなちゃんは」
でも、これは家の問題だわ。
親の再婚っていう、この世にありふれた問題。
母親に引き取られた私と、父親に引き取られた弟。もう会えない、ただ一人の弟。
「…何かあったら話したまえ。愚痴なら聞くぞ」
「ふふっ…ありがとう、ひなちゃん」
少しだけ、距離が縮まった気がして。でも、その日はずっと、心が晴れることはなかった。
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