ハロウィン短編

作家少女とオネエ男子のHalloween

「ひーなちゃん!」

「早乙女くんか。今日は初めて会うな」


放課後の教室。一人きりで本を読むひなちゃんの、前の席に座る。


「今日は、東条さんはいないの?」

「いや…部活もないはずだし、委員会でもないし…何処だろうな?」


本に栞を挟み、顔を上げる。

前は本から目を離してくれなかったのに、今はちゃんと顔を見てくれるのよ!

何でかしら、カレカノ効果? ううん何でもいいわ! ひなちゃんとおしゃべりできるなら何でも!


「早乙女くん? 何で一人でくねくねしてるんだ? 何かあったか?」

「い、いえ! 何でもないわ」


危ない危ない。

気を取り直して、本題に入ろうと鞄を漁る。


「あった! ひなちゃん、今日は何の日だか知ってる?」

「今日? …ああ、ハロウィンか」


黒板の日付を見て納得するように頷くひなちゃん。

さあ、あのセリフを言って! 準備は万端よ!

一週間前から、この日の為に準備したわ。ひなちゃんの好きなチョコチップクッキーを、どうハロウィン風にデコレーションするか…包装はどうするか…勉強そっちのけで悩んだわ。

そして昨日! 遂に完成したの、ハロウィンチョコチップクッキー!


「ところで早乙女くん、君、ハロウィンの起源は知っているか?」

「え? ハロウィンの起源?」

「ああ。古代ケルト人が秋の収穫を祝い、悪霊を追い出すための祭りが起源と考えられているらしい。次の小説、ファンタジーにしようと思ってな。参考にしようと少し調べてみた」

「そうなの? じゃあ、昔は仮装とかもしなかったって事?」

「それに関しては、諸説あるらしい。悪霊を誤魔化すために仮装したとか、仮装まではいかないが仮面を被った、とか」

「へええ。今は、ハロウィンといえば仮装して『トリックオアトリート』って…」


はっ、話がズレてる!?


「…違うわ! その話とても面白いけど、今は違うのよひなちゃん! セリフ! ハロウィンの常套句を!」

「…と、トリックオアトリート?」


びっくりしたように目を丸くしながら、ひなちゃんは言ってくれた。


「はい! ハッピーハロウィン!」

「…凄いな」


かぼちゃの形をした袋に入った沢山のクッキー。おばけ、猫、かぼちゃ、あとお姫様の形も入れたわ! なんだか袋がかぼちゃの馬車みたいだったから!


「…ありがとう。大切に食べる」

「いいえ! ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ」

「何かお返しをしたいな。ううん…、すまない、チョコしかないんだが」


そう言って、ポケットから出てきた小包のチョコレート。

ひなちゃんはそれを、私の手に乗せた。


「ハッピーハロウィン、早乙女くん」

「ありがとうひなちゃん!」


そんなやりとりをしているうちに、先生が見回る旨の放送がかかった。


「帰りましょひなちゃん。寮まで送るわ」

「ああ。…結局、今日は奈々も来なかったし、二階堂も来なかったな」

「ねー? 二人の分のお菓子も、用意したのに…」

「渡しておこうか?」

「うん、お願いするわ」


本当に、二人は今日どうしたのかしら?

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