第21話 作家少女とオネエ男子

「…早乙女くん」


校庭の片隅、特別に解放されている遊具のブランコで一人揺れていた。


「…ひなちゃん、私ね」

「言わなくていい。…まだ、いい。だから」


ひなちゃんが私の前に来る。ブランコに乗っているから、背の低い彼女と視線が合う。


「…今は、泣いてくれ」


控え目に頭を撫でられる。

私は、何も知らされていなかった。

わかってる。どうしようもない事だって。応援しなきゃいけないのに。兄だった者として。

謙也は、頑張ろうとしてるのよ。前を向いて、自分の道を。

なのに、私が引き留めてどうするのよ。


「…行かないで…」

「ああ」

「私は…家族で、いたかったの…」


ひなちゃんはずっと私の頭を撫でていてくれる。

もう、終わりなのよ。

私も、前を向かなきゃ。


「…さよなら、謙也」


あの子はもう、私の弟じゃないの。


「兄ちゃん!!」


玄関から、謙也が上履きのまま出てきて、叫ぶ。


「兄ちゃんは! ずっと、ずっと、俺の兄ちゃんだから!!」


あの子は、私がこんな口調になっても、兄ちゃんと呼んでくれた。何も言わずに、純粋に兄と慕ってくれた。


「帰って来たら、真っ先に兄ちゃんと母さんに会いに行く! だから…兄ちゃんも、いつきさんと仲良くしてよ!」


涙は止まらない。

ブランコまで走って来た謙也を抱き締める。


「…うん。ありがとう。…頑張るのよ、謙也」

「うん。兄ちゃんもね」


_____


「おはよう、早乙女くん」

「あら、おはようひなちゃん。昨日はありがとう」

「何、大したことない」


翌日、朝からひなちゃんに会えてラッキーな私はルンルンで授業を受けられた。

そして、放課後。

最早恒例となった私のお菓子。今回もチョコチップクッキーよ。ひなちゃんが好きって言ってたからね!


「…昨日、ひとつ違和感があったんだ」


クッキーを咥えた東条さんが何? と反応する。私の隣の二階堂は、無言でクッキーを頬張っていた。


「何か足りなかった。ずっとわからなかったが、今ようやくわかったよ、早乙女くん」


ひなちゃんがにっこり笑う。


「私は早乙女くんが好きだ」

「…はい!?」

「ひな待って、考え直してお願い」


東条さんがひなちゃんの肩を掴む。そして、「本当に? 本気で?」と繰り返し問いかけていた。ちょっとそれは酷いんじゃないかしら?


「話変わるけど、再婚相手とは会ったのか?」


赤面してる私に、二階堂はクッキーを齧りながら問い掛ける。

一旦心を落ち着けるために、そちらの事を考えることにした。


「ええ。ちゃんと会ったわ。…まだ、親しくなったわけではないけれど」

「まーゆっくりでいいだろ。謙也は?」

「絵葉書送るって張り切ってるわ。大量購入した判子の写真が送られて来たの」


判子買ったのかと苦笑いする。私もなんで判子? って思ったけど、謙也が嬉しそうだったからいいわ。


「ひな、何でだ。なんで早乙女なんだ!?」

「奈々、よく考えろ。こんな美味しいお菓子が作れる男子、そうそういないぞ」


私は好きだ、と再度口にされる。

引いて来たと思われた熱が、また集中する。


「早乙女くんは、迷惑だったか…?」

「そ、そんなことないわよ! 私だってす」


突如、ドゴォと音を立てて私たちが使っている隣の机が粉砕した。

冷や汗を流して、犯人を見る。


「奈々、机を壊すなと何度…」

「ふふふ…早乙女、ひなの彼氏になるってことは、それ相応の覚悟があるってことよねぇ…?」

「ひい!?」

「ま、がんばれ」


暴走する東条さんを宥めるひなちゃん。私の隣で、椅子に跨りながらクッキーを食べる二階堂。そして、ひなちゃんの告白に嬉しいが東条さんが怖くて顔面蒼白の私。

オネエとはいえ、私も男よ。女の子にばっかり言わせないわ。例え鬼が横にいても。


「…ひなちゃん、私も好きです。良ければ、お付き合いしてください!」

「ああ。…嬉しい。こちらこそ、よろしく頼む」


作家少女とオネエ男子。

晴れて恋仲となった二人と、恋人未満のヤンキーと美少女と一緒に、青春を過ごす。

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