第15話 幼馴染

奈々は、昔から容姿が整っていて、小学生の時点でファンクラブが出来るほどモテた。

でも奈々は空手一筋で、そんなこと気にもしていないみたいだ。


「あかりー、帰ろ」

「うん! 奈々ちゃん、今日は空手ないの?」

「今日は師匠が来られないからお休み」


あの頃、奈々と私は違うグループにいた。

幼馴染なんてあまり意味をなさない言葉で、私も奈々も、相手のことは『小さい頃はよく遊んだ近所の子』程度の認識だった。

そんな認識が、一転した日。

小学校六年の、ある夏の日。


「…ひな…、ちゃん?」


私は一人飼育小屋の影で蹲る奈々を見つけた。


「ど、どうしたんだ!? こんな所で…」

「…んーん。大丈夫だよ」


力なく笑う奈々は、どこか苦しんでいるようで。それでも、詮索するなというオーラが滲み出ていた。

だから聞けなかった。その時は。


「…っ、奈々ちゃん、また…」

「あぁ、ひなちゃん…」


毎日毎日、放課後になると奈々は飼育小屋の影で蹲っていた。

ただ、蹲っているだけ。私が来るとぱっと顔を上げていつもの表情に戻っていたし、その後も何事もなかったように去っていく。

おかしいと思った。

クラスの中心部にいる奈々が、こんな所で一人蹲っているなんて。

彼女には友達がいて、好意を寄せる男子だって沢山いる。なのに、誰一人奈々の様子がおかしいと口にした事はなかった。

というか、クラスの全員が奈々と話す事を避けていた。


「…奈々ちゃん、君はここで、何をしているんだ?」

「…大丈夫だよ、私は」


奈々を見つけて一週間が経った頃、私は彼女が一人でいる理由を知った。


「なぁ、お前ら何で東条と一緒にいねーの?」

「だってあの子、あたしの好きな子盗ったんだよ!」


まあ小学生らしい理由だった。

奈々の友達…あかりちゃんの好きな子が、奈々の事を好きになってしまい、怒ったあかりちゃんが周りに有る事無い事言いふらし、奈々は孤立。

そんな事したって、その好きな子が振り向くわけ無いのに。


「…奈々ちゃん、一緒に帰ろう。あ、今日は空手か?」


それ以来、私は奈々に声をかけるようになった。

そして、奈々は私以外と話さないようになった。


「…私、ひながいればいいや」


誰も手を差し伸べなかった。

奈々のファンクラブを名乗っていた男子も、他の女子達も、誰も。

孤立した彼女に、手を差し伸べたのは、幼馴染である私だけだったから。

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