第12話 ファーストコンタクト

「ひな…ちゃん」

「おい私もいるぞ」


廊下に立っていた、ひなちゃんと東条さん。

…え? お流れになったんじゃ?


「すまない二階堂。コンセント貸してくれないか。推敲する」

「はあ!?」


ひなちゃんはパタパタ部屋に入るなり、コンセントに持っていたノートパソコンのプラグを差し込みカタカタと作業し始める。

東条さんは、当然のような顔をしてひなちゃんの隣に体育座りした。


「少しの間だけ三人で話していてくれ。終わり次第合流する」


そう言ってひなちゃんは、真剣な目をしてパソコンとにらめっこを始めてしまった。

三人で話していてくれ!? この三人で!?


「…じゃ、じゃあ何から話しましょうかっ?」

「お前の話だろ。取り敢えず、弟くんの名前」


東条さんがぴしっと私を指差す。

やめて! 指差さないで! 駄目でしょ人を指差しちゃ!


「弟の名前は、早乙女謙也さおとめ けんや。利根小学校に通っていたわ。今は…どうか、わからないけれど」

「謙也?」


二階堂が訝しげな声をあげた。

そして首を傾げ、眉間に皺を寄せる。


「なあ、その謙也って、…けんやか?」

「知ってるの?」

「いや…わかんねーけど、この間の文化祭来てたぞ。俺、学年の部屋で受付やってたんだけどよ、小学生くらいのチビが一人でいたから声をかけたんだ」


名前を聞いたら、けんやですとだけ。

お父さんと逸れたと言っていたから、本部に連れて行った、と。


「…え?」

「本部までの道中で、すげー話があってさ。携帯の番号交換したわ、そう言えば」

「それを早く言いなさいよこのヤンキー被れ!!!!!」


つい声を荒げてしまった。

何、何!? つまりどういう事!?


「…あぁ、迷子のけんやくんって、早乙女の弟だったの」

「東条さんも知ってるの!?」

「うるさい…。でも、知ってるよ。空手部って、本部で手伝いしてることが多いんだ。これといった出し物もしないし。…そうそう、二階堂が連れて来たんだっけ」


二階堂が、ぽっと顔を赤くする。

あぁ…もしかしてファーストコンタクトそれだったの…。


「まあ、弟くんとの連絡手段は取れたわけだ。二階堂、連絡は取ってるんだろうな?」

「あ、ああ…ちょいちょい連絡して来てくれるよ」

「なら、今すぐ早乙女の事聞いて。そんで、早乙女兄弟が会えるよう橋渡しして」

「なんで俺がそこまで…」


しなくちゃならねーんだよ、という前に、東条さんが床を殴る。


「早乙女の家族問題が落ち着かなきゃ、ひなが心配するのよ。ひなの執筆に影響を及ぼすんなら…今ここで、再起不能にする」


重く響く声に、二階堂が冷や汗をかいて敬礼した。

怖っ…。東条さん怖。ひなちゃん絡むと一層怖い。


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