第10話 我儘でいいんだよ

「…君は、我儘だな」


ひなちゃんが呟くように言う。

すうと背筋が冷えた気がして、私は俯いた。

わかって、もらえなかった…。


「そ、う…よね…。私、我儘よ…ね…。うん、ごめんなさい、もう大丈」

「だけど、君の本音はよくわかる。私だって、早乙女くんの立場だったら親を責めると思う」


腕を組んで頷く。

二階堂が、頬杖をついて軽く笑った。


「この時期の奴なんか、親に反抗するのが習性みたくなって来てんだ。どんなに親孝行したいと思ってたって、本能で親を避けるんだよ」


俺みたいにな、と。


「俺さ、小さい頃病気がちで親に凄い迷惑かけたし、負担もかけたんだ。だから、大きくなって体が強くなったら親孝行しようって思ってたんだ」


そして、ふっと目を伏せる。

小さく、口が動きはじめた。


「なのに、口から出るのは暴言。言いたい事と真逆の事が口から出やがる」


はは、と乾いた笑いを零し頬杖をつく。

そうだったの…どうりで、見た目と中身がこんなにも違っているわけだわ。

本心では親孝行したいのに、本能からそれができない。

だって私達、反抗期真っ盛りだもの。


「…私は、いいと思うよ。親ってのは、子供の為にいるものなんだ。親が望んだから私達がいる。親が、子供に振り回されるのは仕方ない事なんだよ」


東条さんが枝毛を探しながらぼそりと言う。

そして、毛先から目を離さずに続けた。

笑顔とは言えない笑顔で、笑いながら。


「だから私は生きている。お母さんとお父さんと、ひなが必要としてくれるなら、他の誰が何と言おうと、何をして来ようと、私は我慢できる」


早乙女くん、とひなちゃんが呼ぶ。


「君が弟に会いたい気持ちはよくわかる。だから、私達も協力させてもらう」


小さな手を拳に握り、私の方へ突き出す。


「全て、早乙女くんの思う通りに動けばいいんだ」


ガヤガヤとした食堂で、ひなちゃんの声だけがクリアに私の耳へと入ってきた。

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