第9話 本音
「いただきまーすっ」
「いただきます」
ぱちんと手を合わせ、カレーを食べ始める。
程よい辛さでとても美味しいわ! 寮のご飯ってどういうのか不安だったけど、バランスも彩りもいいし、最高ね。
「…早乙女くん、あの、話してくれるか?」
食べ終わった頃、控えめにひなちゃんが問いかけてきた。
東条さんも二階堂も、同意するように食べる手を止める。
「…うん。そうね、話しましょうか」
これは、私が私の思いを整理する為。
私の思いが、他人から見ておかしい物なのか知る為の。もしおかしいのなら、私は母さんの再婚にもう反対しない。弟の事も、諦める。
とりあえず、もう一人で抱え込むのは辛いの。
「私の両親ね、数年前に離婚してて。私は母さんの方に、弟は父さんの方に引き取られたの」
私と弟は、すごく仲が良くて。弟は、私がこんななのに慕ってくれて、兄ちゃんは自分を貫けて凄いよって言ってくれた。
母さんも父さんも、私の趣味がお菓子作りだって言うことは知っていたけど、私が全てを話せたのは弟だけだったの。
「すっごいブラコンでしょ? …五歳も離れてたからかしらね」
自嘲気味に笑って、指先でスプーンを弄ぶ。
母さんと父さんが離婚した理由は知らない。聞いても、母さんは頑なに口を噤んで教えてくれない。
だから私たち兄弟は、納得しなかった。
兄ちゃんと離れるのは嫌だ、弟と離れたくないと、首を振り続けた。
言う事を聞けって、何回も怒られた。
でもあの時、弟は完全にグレてたし、両親の言うことなんて毛ほども聞かなかった。夜遊びはなかったけど、学校でも態度がよろしくなかったらしく、先生から電話が来て母さんがひたすら謝っていたのを見たことがある。
「…二人は言う事を聞かなかったのに、離れ離れになってしまったのか?」
「ええ。…父さん達がね、寝てる間に弟を運び出したの。全く、無理矢理にも程があるわよねぇ」
起きた時、弟はいなかった。弟の私物も、殆ど無かった。完全に、家から弟と父さんがいなくなった。
それ以来、弟とは会えていない。勿論、父さんとも。弟は携帯を持たされていなかったし、父さんに連絡するのも気が引けてしまって。
「…それで最近、母さんが男の人と会うようになったの。再婚したいんですって」
樹さん。一度会ったことはある。挨拶した程度だけど、私が帰宅した時、家にいた。私にとっては好印象ではなかったけれど、母さんと同じくらいの歳で、物腰柔らかな人だったわ。素っ気ない態度取った私にも、笑顔で挨拶してくれた。
「嫌よ、私。母さんが再婚しちゃったら、私と弟はどうなるの? 本当に…兄弟じゃ無くなっちゃうじゃない…っ」
樹さんが嫌なんじゃない。母さんに幸せになって欲しくないんじゃない。母さんが樹さんと一緒になって幸せになれるなら、それでもいい。
でも、私達は? 私達兄弟は、どうなるの?
私と弟は、もう二度と会えないの?
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