第6話 怪談じゃないんだよ

「ああ、わかっている。済まない、もっと早くに気づければ…!」

「ちょ、え? ひなちゃん?」

「早乙女。ひなは本気だぞ」


待って東条さん。話がわからないわ。


「済まない…無理矢理にでも、君の話を聞くべきだった」


だから何のことよ!?


「…あー、あれか」

「教えなさい二階堂」

「怖えよ! …お前も知ってるだろ?うちのクラスの怪談」


怪談? ああ…あの、窓際の前から三番目の席は呪われてるとか言う…あの…。


「窓際の前から三番目?」


あら、私の席だわ。呪われてたのね。

って言っても、そんなのは迷言。だって、あの席に座った子は過去に何人もいるわ。でもみんなピンピンしてる。


「君、取り憑かれていたんだろう? だから元気がなかったんだ。でも話せなかった。それは、現実にはありえないことだから」


真剣な表情で淡々と語るひなちゃん。

え、ひなちゃんってもしかして…。

オカルト的なもの、信じてる感じ?


「や、あのねひなちゃん? 私は疲れてただけよ」

「ああ、わかっている。憑かれていたから言い出せなかったんだろう?」


…駄目だわ、話が噛み合わない。


「ひな、もう帰らないと」

「でも早乙女くんが…」

「ひな」


ぴしゃりとひなちゃんの言葉を止める。


「これ以上ここにいてどうするの? ひなは今の早乙女に何かできるの?」


まあ、それもそうよね。


「ひなちゃん、私は大丈夫よ? だから、帰って休んで?」

「早乙女くんは…?」

「そうねぇ…、でも、大丈夫よ」


その時、ひなちゃんが、酷く辛そうな顔をした。


「早乙女くん、私言ったよな? 溜め込み過ぎると後が大変だぞって」


スカートを強く握り締め、ひなちゃんは続ける。


「…頼ってくれ早乙女くん。確かに、私に出来ることは少ない。それでも、話を聞いてやるくらいのことはできるんだ。だから」

「いいえひなちゃん。これは私の問題よ」


ひなちゃんは関わらなくていいの。これは、親の再婚話なんていうありふれた話。

それを、私が受け入れられれば済む話なの。

まあ、受け入れられそうになどないけどね。


「…っ、じゃあ何でそんなに辛そうな顔をするんだ! 大丈夫なら心配かけるな!」


彼女の瞳から、大粒の涙が溢れる。


「嫌なんだよ、これ以上、私の周りで友達が傷つくのは…! それを見ていることしかできない自分が、嫌なんだよ!」


ひなちゃんの後ろにいた東条さんが、小さく苦しそうに唇を噛んだ。

彼女も、何かを抱え込んでいるように。


「…二階堂って、寮生だったかしら?」

「え? ああ、寮だけど…」

「二人部屋?」

「ああ。…あ、いや今日あいつ親の誕生日で帰省してるわ。今日は一人部屋」

「寮って、許可取れば学生泊めていいのよね」

「ああ。許可っつっても報告程度だけどな」

「二階堂、今日泊めて」

「ああ。…え、いや、は?」


今朝の内に貰っておいた許可書にさらさらと必要事項を書き込む。


「はい二階堂、サイン」

「待て待て待て! わからない! 何が起きてるのかわからない!!」

「馬鹿だな二階堂。早乙女くんが泊めてって言ってるだけだろう」

「あれわかってないの俺だけ!?」


そうよあなただけよ。

私は、二階堂と東条さん、そしてひなちゃんを見て言った。


「私、みんなと仲良くなりたいわ。だから、お泊まり会みたいなことしましょ」


ぱちんと手を叩き、精一杯笑う。

ちゃんと、話そう。私は、きっと誰かにこの気持ちを共有して欲しかったんだ。

心の中で、本当はそう思っていたのかもしれないわね。


「…ったく、しょーがねえな! 理由はちゃんと話せよ!」


そう言って、許可書に自分の名前を殴り書く二階堂。

やっぱり、この子不良には向いてない気がするのよねぇ。

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