第10話 羽川⑤

 どうしてあんな事をしてしまったのだろうか。一時の気の迷い。若気の至り。どんな言葉を選ぼうとも愚にもつかない言い訳以外の何物でもないことだという分別くらいは残っていた。いっそ狂気に身を委ねられれば、どれだけ楽だろうかと思う。

 もう終わりだった。僕の人生という名の道は、今目の前で崩れ落ちた。この先にはもう闇しかない。

 身の破滅だった。

 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 これは夢だ。

 きっと、そうだ。

 「夢世界」の方が現実だったんだ。

 そうだったんだ! 

 そう考えれば、すべてが納得できる。羽川秀一なる人物はただの夢の存在に過ぎなかったのだ。冷静に考えれば、こんなにも酷く、醜いものが現実のはずが無いじゃないか。

 世界はもっと美しい。

 偽りの世界よ。さあ、滅んでくれ。役目を果たした古城が打ち壊されるように、その欠片も残さず、塵と消えろ。夢の世界には、ただ、空虚だけが残ればいい。

 僕は自分を慰めて、無理矢理に眠りについた。

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