第2話 羽川①

羽川様


拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。

先日は弊社の一次面接へ足をお運び頂きまして、誠に有り難うございました。

さて選考の結果、誠に遺憾ではございますが、次の選考にお進み頂くことを

見合わせることとなりました。

悪しからずご了承下さい。


羽川様の今後のご健康とご活躍を心よりお祈り申し上げます。


                                  敬具

 テンプレートの『お祈りメール』を見たのは何通目だろうか。その数がついに二桁に乗ったと、十通目まではカウントしていた事を覚えている。しかし、その後からは数える事を止めていた。だから、これが何通目のそれなのかはわからない。しかし、ただ一つ言える確かな事は、今度の面接の結果も「ダメ」だったという事だった。

 僕の気持ちはというと不思議と平静だった。何度も何度も面接で落とされた事で気持ちが鈍磨していたのかもしれないし、もしかしたら、心のどこかで最初からダメだと悟っていたのかもしれない。

 就職活動はまさに氷河期という他なかった。大学生の新卒の就職率は半分よりは少し上といったところ。逆に言えば、誰しもがほんの少しばかりの差の少数派に所属させられる可能性を持っていると言える。

 毎日エントリーシートに型通りの文言を書きこみ、面接でがちがちになりながら愛想笑いを浮かべ、面接の結果に一喜一憂する。そんな生活に、僕は疲れ果てていた。

 この世界は醜い。

 そんな考えが芽生えたのはいつの頃からだっただろう。別に就職活動に嫌気がさして、初めて生まれた感情というわけではなかったと思う。少なくとも物心ついた頃から言葉にはできないまでも、漠然と抱いていた感情だった。

 戦争、テロ、破壊活動。醜い争いがなくなる事は決してない。戦いは有史以来の人間の常であり、決して拭い去るこのできない業であった。

 どうして争いがこの世界から無くならないのか。それはきっと争いこそが人間の本質だからだろう。

 穿った中学生のような考え方だなと、シニカルに自己分析する自分も居る。しかし、僕がこんな風な思想を持ってしまうのには理由がある。

 僕は目を瞑ってもう一つの世界に思いを馳せた。

 どこまでも美しい、夢の世界に。

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