第十七話 怒り(樅山由香里)
そっか。そういうことだったのか。
絶対に音沼だけじゃこんなことは出来ない。ってか、音沼には出来ないことだったんだ。郵便配達のバイトをやってる三村が間に入らないと、そうはならなかったんだ。
あたしは。そのカードがなんであたしの手元に来たのかは分かった。でも、三村が純粋に善意で音沼の背中を押したって思えないところがすっごい引っかかってた。
音沼のカードを畳んであたしの前に戻した三村が、今度は一回り小さいクリスマスカードを出した。それを開いて、あたしと音沼に見せる。
『あなたに、わたしの分まで幸せが訪れますように』
「おまえらさ、買ったケーキの箱開けてこれが入ってたら、まじでヤバいと思わね?」
「げっ!」
ちょ、ちょっと! しゃれになんないよ、それ! 音沼も青ざめてる。
「って、それ、鈴野が書いたの?」
「そう!」
三村が見る見る顔を紅潮させた。
「ばっかやろおっ!」
三村が鈴野に手を出しそうだったから、慌てて止める。
「ちょ、三村ぁ、落ち着けってー」
三村の隣に座っていた鈴野が、縮こまってべそをかいた。
「ご……ごめん……なさいぃ」
「いっか! 知らないやつがそれ見たらって、それはまだいんだよ!」
いいのか? うーん。
「自分から自分のチャンス放り捨ててどうすんだっ!!」
あ……。三村の怒り。さっきの三村の話を聞いてたから、その怒りはストレートに伝わったし、それがなぜかも分かった。
自殺を臭わす人騒がせなメッセ。確かにそれは頭に来る。でも三村はそれよりも、自分を粗末にする鈴野の投げやりな姿勢がとことん気に食わなかったんでしょ。時間がある。お金がある。理解者がいる。それ以外に何が必要だって言うんだ! 自分でチャンスをぶん投げるようなやつに、チャンスなんざ絶対に来ない! 絶対に!
ものすごくストレートで、強いメッセだ。
あたしは、鈴野のことなんか言えない。自分の好きなことだけ集めてって言っても、あたしには好きなことがない。とことんそれに突っ込めるような、あたしがそこできらきら出来るようなものは何にもなかった。光が来るのを待ってるくせに、そのチャンスは自分からどんどんぶん投げてたんだ。
あたしは……。音沼のアプローチは気持ち悪い。自己完結してて、なんの意味もないじゃん。まるで、自分が知らない間にオナドルにされてるみたいなきしょさ。でも。それでも音沼は自分で何とかしようとした。それがすっごいみっともない方法でも、自分で何とかしようとしたんだ。三村には、あのカードからそれが見えたんだ。
三村には、あたしと音沼をくっつけようなんて意図はない。さっきあたしが感じた奇妙な感覚。それは、あくまでも音沼にチャンスを作っただけって、すっごい乾いたアクションだったからだ。
三村。不思議なやつ。
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