第十八話 告白(音沼哲矢)
どっこまでも腹立つ! 三村が俺の気持ちを考えずに勝手にやったことで、俺は引っ込みがつかなくなった。ぼこぼこにぶん殴ってやりたいっ!
でも……。俺は何がしたかったんだ?
女々しい方法で、自分をごまかすためにカードを出した。あのカードが俺の手元にそのまま届いたら。俺はものすごく惨めな気持ちになっただろう。自分の不完全な想いだけが、不完全なセリフをまとって並んでる。それを見て俺に勇気が出るか? 入試を乗り切るガッツができるのか?
そんなわきゃない。俺はきっと自分自身に絶望しただろう。女の腐ったようなやつ。誰の方にも向かずに、壁に向かって聞こえないことをぶつぶつ言ってるきしょいやつ。俺は、それが俺だと思ってた。それが俺なんだからしょうがないと思ってた。
でも。三村は俺にチャンスをくれた。それがどんなに腹の立つお節介であっても、俺にはチャンスが来た。だから。俺がちゃんとがらくたを片付けて前へ進むためには、ここで言わないとなんないんだろう。きちんと言わないとなんないんだろう。
「あの」
三村は、きっちり鈴野を睨み続けてる。俺は、その視線にくさびを打つように声を出した。
「ん?」
三村の視線が鈴野から逸れた。
「モミ」
「なに?」
初めて、モミの視線が俺の真正面に来る。ああ、この一瞬を切り取って俺の中に一生ずうっと封印しておきたい。だけど俺の告白は、それをぶっ壊すだろう。でも。
「俺な。モミが……好きだ」
俺が抱えてた想い。絶対にモミの前では言えないだろうと諦めてた想い。それが……出た。モミは、俺をあざ笑うのかと思ったけど。じっと俯いてしまった。
しばらくして。小さな声が聞こえた。
「ごめん」
それは。テーブルの上でぽんと跳ね返って、俺の前にころころと転がってきた。
ああ。分かってる。分かってた。その返事が来るのは分かってた。それはすっごい悲しい。でも俺は安心した。ずっとずっとずっと言えなくて。腐りかけてた俺の想い。そのどろどろした想いを抱えたまま、泥沼の中でもがき苦しまなくても済む。それでいい。
「うん。ありがとな」
それを聞いたモミが、テーブルの上に突っ伏して。泣き始めた。
「う……うく……う……うっ……ううーっ」
押し殺すように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます