初めてのおつかい

どうやら、教会の場所は街の外れの方にあったのようで少し歩いたが今度は何事もなく無事にラピスちゃんと街の大通りに着いた。


話で出てきた酒場を探す… ラピスちゃんもキョロキョロしつつ、一緒に探してくれる。

「あったよ お兄ちゃん」

クイクイと服の袖をラピスちゃんに引っ張られる。

「ありがとう、ラピスちゃん

ここか、入ろうか」


石造りの厳格な感じのする屋敷のような見た目の酒場に木製の扉を開けて入る。

「いらっしゃ… い…」

酒場の店主だろう人物が挨拶をしてくるが、隣に居るラピスちゃんを見て落胆する。


「お客さん… ここは酒場ですぜ?

子供を連れて入る場所はここでないぞ」

店主が俺たちを追い返そうと手でシッシッと追い出すポーズをする。


「すまない、人を探しているんだ

警備隊長さんだ」


店主が無言で顎を店の奥で飲んだ暮れて、テーブルに足を乗せている態度の悪そうな人物を示す。


「ありがとう」

店主に礼を言い、警備隊長さんの席に向かう。


「待て、何か用か?」

酔い潰れていて、それも後ろから近付いたのに気が付くとは流石は警備隊長なのだろうか。


こちらを振り向く警備隊長さん。

「てめえは確か… 昨日教会まで運んだ死体さんと横に居た嬢ちゃんじゃねえか?

ついに酒で幻覚を見れるようになっちまったか? ははっ」


「ちゃんと生きていますよ? こうして足も生えてますし…

警備隊長さんにお話が有ってここに来ました」

トントンと、足が生えてるアピールをする。


急に佇まいを直す、警備隊長さん。

「んっ 失礼した! 私はここ、センチネルの警備を任されてる警備隊長だ

昨日の出来事は治安維持が完璧でない我ら、警備隊の失態である、旅人の両名に大変なご不便を

おかけした事を街の代表に代わりお詫び申す

こうして、両人に無事に会えたことを喜ばしく思います」


先ほどの呑み助は何処え消えたのか、立派な警備隊長さんがそこに居た。

警備隊長さんの態度に驚いたので、俺も態度を改める。

「丁寧にありがとうございます

昨日、私と隣に居るラピスちゃんの保護をしてくださり、ありがとうございます

そのお礼を言いに来たのです」


「それはご丁寧に、こうして人に少しでも感謝されれば我ら警備隊も報われます


ですが、昨日の犯人は捕まえる事は出来ませんでした。

予想外に、足が速く逃げられるという失態です。」

一呼吸置く警備隊長。


「実はいうと、街の門の所でお二人の姿を少し見かけまして、特に隣にいるお嬢さんの身なりがよかったので盗賊等に注意をと声を掛けようとしたのですがね、お二人をすぐに見失ったのです。

声を掛けていればこのような事態は起きなかったのに残念です。」

警備隊長が心底残念そうに肩を落とす。

門の所でこちらをチラッと見てた兵士がこの警備隊長だったのか… 怪しんでいたわけでは無くて安心したよ。


「私はこうして生きていますし、ラピスちゃんに怪我は無かったようですし、

何も取られてませんから大丈夫ですよ?」


警備隊長さんが可愛そうなのでフォローを入れておく、実際助かったのは事実だし。

「そう言ってもらえると助かります、ですが、罪を犯した犯人は捕まえますよ

皆が安心して暮らせる街を目指していますので」


そうだ、警備隊長とかなら地理とか様々な噂にも詳しいと思うから何かお金を稼ぐ方法が無いか聞いてみよう。

「警備隊長さん… すみませんが、この辺りでお金を即日で稼げる場所などありますか?」


警備隊長さんはすぐに思い当たったのか ギルドだと教えてくれて、場所等も丁寧に教えてくれた。

「警備隊長さん、色々とありがとうございます。

では、何かまた機会があれば」


「二人とも、盗賊等に気を付けて」

振り返ると、警備隊長さんはまただだの呑み助に戻っていた… 公私の切り替えが極端な人だ。

「アルデバランー 酒の追加だー」

酒場の店主の名前のようだ。

「隊長さんそれぐらいで止めときなよ」

二人が酒の追加で揉める声を後に酒場を出て、大通りにラピスちゃんと舞い戻る。


この通りを北に進めば突き当りにある建物がギルドの建物らしい。

ギルド、システム的には俺の想像しているギルドと同じで街での困りごとや簡単な仕事から危険な仕事等様々な依頼を紹介する場所だそうだ。

お金を稼いで、服に食費、宿代を確保するぞ!

「お兄ちゃん、お兄ちゃん 私も頑張って働くよ?」

クイクイと袖を引っ張りながらそんな健気な事を言うラピスちゃん。


お兄ちゃんそんな事を言われると精一杯がんばっちゃうぞっ!

どんなクエストでも完了させてやる自信が出て来た、たとえドラゴン退治とか、魔王を倒すとかでもやってやる。

金を沢山稼いで、ラピスちゃんの為に家を建ててやるんだ!

親父とロリコンさんの勝負 親父の勝ち!


「ラピスちゃんは良いよ? 俺は大人だから頑張るよ」


ふるふると首を振るラピスちゃん、頭を振った為か、髪の毛からいい匂いがしてくる。

「私もお兄ちゃんの為に一緒に何かしたい、それもダメ?」

首を少し横に傾けながらお願いしてくるラピスちゃん、それに俺の身長がラピスちゃんより高い為自然とラピスちゃんは上目扱いになる、なんて卑怯なんだ これに勝てるロリコンは居ないだろう。


ああっ ラピスちゃんの髪に顔を突っ込んでクンカクンカ、スハースハーしたいっ でも、

ラピスちゃんが何かしたいっと言ってる、その意思を無視しは出来ない。

父親とロリコンさんの勝負 親父の勝ち!


「じゃあ、ラピスちゃんと一緒に出来そうなお仕事を探すよ」


ラピスちゃんが笑顔になる。

「うんっ 私もお兄ちゃんと出来る仕事を探す」


ギルドの文字が書かれた大きく看板のある建物に到着した。

中に入ると正面に受付、ホテルのロビーのような感じの待合室がその奥に続いており、多くの冒険者や一般市民のような人まで様々な人で溢れかえっていた。


まず、警備隊長さんに教えてもらったように受付でギルドカードの登録という作業をしなければならないらしいので早速カードの作成をお願いする。

カード自体の発行、および登録に金銭は必要なく、年齢の制限も無いようだ。

「すみません、俺とこの子のギルドカードの登録をしたいのですがよろしいですか?」


受付のお姉さんがニコニコ笑顔で応対してくれる。

「大丈夫ですよ 登録ですね?

まず、後ろの方にある机にペンがございますのでそこで

この洋紙に記入をお願いします、ご記入が終わりましたら

登録の作業に入らせていただきます。」

そう言って受け付けのお姉さんより登録の為の洋紙を二枚貰った。


受付のお姉さんが先ほどの説明で言い忘れた事があったようで。

「もし、字が書けないのであれば、代筆も可能ですが、大丈夫でしょうか?」


洋紙の文字は読めるので多分書くのも大丈夫だと推測出来るので断ることにした。

「大丈夫です 一応書けると思うので」

この世界で文字を書いた事が無いので不明な点が多いが、



登録洋紙の内容は名前から始まり、年齢、住所、職歴、自己紹介文、備考欄等の項目があり、履歴書に近いフォーマットだった。


住所は無いので不定、職歴は営業勤務と、備考欄に住込み、もしくは社宅希望と従妹であるラピスちゃんと住みたいと書いておく。

ラピスちゃんの方を見るとほとんどの項目を既に埋めていたが、ラピスちゃんに住所は不定と書いて置いてとお願いする。

もし、何かの事情で吸血鬼の村の出身者とバレると大変な事態に発展しそうなのでそれを予防するためであり、実際、村は無くなったと思うので住所は不定扱いなので嘘では無いはず。


二人とも洋紙に記入が終わったので、受付のお姉さんにまずは俺から紙を渡す。

「名前は幼一さんで構わないですね?

こちらの魔障石に手を触れた状態で、魔力を放出して少々お待ちください。」


魔障石とか、魔力とか謎の単語が急に出てきたのですが、どうしましょう?

この世界の常識名のでしょうか? 魔力放出とか分からないのですがどうすればいいのですか?

正直に受付のお姉さんに聞くべきでしょうか、怪しまれては大変ですが…。


ここは正直に魔障石と呼ばれる物と、魔力とかその放出とかど田舎出身なので分からないと言って聞きましょう。

「すみません、私はここより遠い所のど田舎より旅をする為、出てきたのは良いのですが、常識に疎い状態で

こちら来たので、色々と分からない事が多いのですが説明してはもらえないでしょうか?」

色々ぼかしながら、自分の状況を説明する。


意外にもそういう人間が多いのか普通に様々な事を教えてくれる。

魔障石とは ましょうせき と読む これは半透明の石の中に魔法回路を組み込む事が可能で、複雑な事が可能な石だそうだ。

魔法回路とは俺のもと居た世界の電子回路と非常に性質が似ているために、すぐに理解が出来た。


吸血鬼が居るし、神様である有瑠ちゃんが言ってたけどこの世界には魔法が存在するのだった、完全に忘れてたよ。

魔力、これは己の精神力という事らしく、ステータスで確認した時に見たMP(Magic Pointの略)だそうだ。

以前ルビーとの会話時に心の中で念じる事で使用したステータスだがこれは自分の分しか表示されないし、見れないとの事。

確か自分のステータスを見た時全て1だった思い出があるので俺の精神力は1と言う事か、そりゃあ何か起きたらパニックになるわけだ、このステータス値の上限は不明らしいが、普通の子供で全部のステータスの値が10前後、大人だと、100を超えているのが普通らしいので俺の現在のステータス値は子供の十分の一の能力らしい。

魔力の放出に関しては出来ない者もたくさん居るみたいなので、言ってもらえば、魔法陣より吸い上げるという方法で登録を行うみたいだ。

受付のお姉さんから色々と説明を受けて、ある程度の事は分かったので、登録の作業に戻る。


「よしっ」

何が よしっ なのか分からないがとにかく初めての事に気合を入れてしまう。

魔障石と呼ばれる半透明で中に赤色の回路と、魔法陣の様なものが刻まれている大きめの石に手を当てながら

しばらく待ってみる。


「ぐおっーー おおっ」

なんだか体の中から何かが吸い出されてる気がする… 吸引力の変わらないただ一つの とかいう家電製品のCMを思い出す。

味わった事の無い感覚に凄く戸惑う…。


なんだか意識が… 真っ暗になって…。

何か大きなものが床に倒れた音だけが耳に残った。



「うっ… ううんっ?」

次に目を覚ますと、知らない天井だった、まあ異世界に来たのでほぼ全て知らない天井ばかりですが。


なんだか頭の所に低反発枕のような柔らかくて、温かく包み込む感触を受けるのですが何事でしょうか?

すぐ近くにラピスちゃんが俺を覗き込む形で居るようでそのままの状態で声を掛けます。

「ラピス…ちゃん…?」


「起きたの? お兄ちゃん… 大丈夫?」

ラピスちゃんにこれ以上心配を掛けることは出来ませんので私は飛び起きます。

飛び起きてから私は非常に後悔する羽目になります。

どうやら私はラピスちゃんに膝枕をされていたようで、なんと勿体ない事をしたのだろう、しばらくの間自責の念に囚われますが、ラピスちゃんの負担を早めに取り除いたと考えれば悔しさも半減しました。


「俺はどうして… 確かギルドで登録作業の最中だったはず」


「お兄ちゃんは水晶に手を当てて作業中にそのまま気絶しちゃったの

すると、周りに居る親切な冒険者とかの人がこのロビーまでお兄ちゃんを運んでくれたの

そこに受付のお姉さんがやって来て、たまに魔力が少なく気絶してしまう人が居るけどすぐに回復して

目を覚しますよって教えてくれたの

でもベンチで寝ているとお兄ちゃんの頭が痛そうなので… 私が… その… 膝枕してたの…」

最後の一行は凄く恥ずかしいのか顔を伏せた状態で耳まで赤くなり、凄くか細い声になっている。


おうっ… ラピスさん 君は天使ちゃんマジ天使状態ですよ。

ナデナデしてあげよう、なでなで ラピスちゃんの頭をなでなでしてあげる。


「ありがとう、ラピスちゃん ありがとう本当に」

感涙の涙を流しながら、幼女の頭を撫でるロリコンのおっさん… 異様な光景な気がしたが、気にしては負けだ。

今度機会があれば、ラピスちゃんに膝枕をお願いしよう、そうしよう!

親父とロリコンさんの勝負 ロリコンさんの勝ち!


俺が起きたのを確認したのか受付のお姉さんがこちらまでやって来た。

「幼一さん、申しわけありません、先にMPの総量をお伺いしておくべきでした」

受付のお姉さんが頭を下げて謝ってくれる。


俺は慌てて、受付のお姉さんに頭を上げてくれと頼む。

「いえいえ 頭を上げてください、自分の力量が低いのが原因なんですから」


頭を上げてくれた受付のお姉さんは、水晶のような小さな石に簡単な紐が付いた代物を渡してくれる。

「これが、先ほどの登録で出来上がったギルドカードです、無くさないように注意してくださいね?」


早速無くしたりしないように首に掛けて置く。

「ラピスちゃんは登録はまだですよね?」

ラピスちゃんの方を向いて聞いてみる。


「うんっ まだだよ

でもお兄ちゃんが倒れちゃったから少し怖いの」

ラピスちゃんの手を優しく握りながら話す。


「平気だよ? お兄ちゃんの魔力が低かったから気絶しただけだから

ラピスちゃんなら余裕だよ」

ラピスちゃんのステータスを聞いた事が無いが大丈夫だと自信はある側面で気絶してほしいとの気持ちもある。

気絶した場合は今度は俺がラピスちゃんに膝枕したいと言う思惑も大きい。


ラピスちゃんが意を決したのか少し小走りで受付のお姉さんの所へ行き、登録作業を始める。

その後を追う俺。

やはりと言うかラピスちゃんの場合には何も問題は起きなかった。


受付のお姉さんに俺とラピスちゃんは従妹と思われているようで、一緒にクエストをこなすのであればパーティ登録をお勧めすると言われたので登録してみる。

パーティじゃないと出来ないクエスト等もあるらしいので、ソロよりもその方が融通が利くらしい。


パーティ名をどうするか悩むが、ここはラピスちゃんの意見も聞いておくべきだ、彼女もパーティの一員なのだし。

「ラピスちゃん 何か名前の案はあるかい?」


考え込むしぐさをするラピスちゃん。

「うーんっ お兄ちゃん大好き同盟は… 駄目だよね…

私しか居ないし… ライバルが…」

なんだか小声でブツブツ言いだすラピスちゃん、少しほんの少しだけだけどその様子が怖い。


「えっと そのラピスちゃん? 難しく考えないで良いよ?」

一応そう、声を掛けてると、ラピスちゃん はっ とした顔をして顔を上げた。


「じゃあ、お兄ちゃん 何々ハンターズとか何々バスターズとかにする?

そういう名前のパーティ名が多いから」

そう、ラピスちゃんに言われてパーティ名を見るとバスターズとかハンターズが多く、

何々団とかも多く、単純な名前の方が良いようだ。


「決めた これだ! サラサラさらーと」

登録洋紙に必要事項を埋めていく。

パーティの特徴とかも適当に埋めて置く、正直こういうのは全項目を出来る限り埋めた方が、スカスカより良いはず、履歴書とかそうだからね。


受付のお姉さんにパーティの登録洋紙を渡す。

「はいっ ロリロリハンターズですね?

これで登録しておきます」


この伝説の始まりである、ロリロリハンターズが誕生した瞬間でした と心の中でナレーションを入れておきます。

いつどこで何があるか分からない世の中ですし、普通に私よく死んでしまいますので。


パーティ登録まで済んだので、次は本題であり、今後の生活に必要な賃金を得るために発行されてるクエストを見に行く。


ある程度難易度で張り出される掲示板が区分されているらしく、俺が見ている初心者向けの掲示板では

猫探しとか犬探し、人探しなどの個人の簡単な依頼が多いようだ。

特に気になったのは動物探し系だ、これは依頼料が少ないが依頼主である飼い主が子供、幼女ぽい名前がそこそこあるので俺はペットが突然居なくなり、夜な夜な枕を涙で濡らして、寂しい思いをしているであろう、幼女に思いを寄せてしまう。


幾つか依頼がある中でここは依頼料で優劣を決めさせてもらったが、このローゼンタール・ユーディちゃんの報酬が抜群に高く、依頼の文章と言い凄く寂しがっている幼女感が漂っていたのでこれに決めた。


張り出されている紙を取り、受付のお姉さんに渡す。

「この依頼を受けたいのですが」


「はい… これは… その… よろしいのですか?

この依頼で?」

なんだか受付のお姉さんの様子がおかしいが、初めてクエストを受けるだろう俺達を心配してくれてるのだろうか?


「漢に二言はありませんよ?

どんな依頼でも頑張ってこなして見せますよ」

安心させるためと自分を鼓舞する為に、大見得を切っておく。


「了解です… 登録作業があるのでしばしお待ちを」

そう言って受付のお姉さんが作業を始める。


横に居るラピスちゃんが話しかけてくれる。

「初めてのクエスト、頑張ろうね

この子も家族であるペットを無くして寂しいだろうから…」


家族を亡くしたばかりなのに、他の子を気遣えるこのラピスちゃんの人間の出来た事よ。

優しく頭を撫でてあげる。

「よしよし 頑張ろうね ラピスちゃん」


「うん」


こうして俺とラピスちゃんの初めての共同作業である、ある意味、初めてのおつかい が始まったのであった。

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