ネクロリマンサー

考え事をしていたせいか、沈黙が場を支配していたが、しばらくして俺に興味を失った目を偽ラピスがする。


「つまらん 奴じゃったか…」

そう吐き捨てて右手を振り上げ、俺を殺そうとしているのでしょう。


「俺を殺しても本当にいいのかな?」

最後になるかもしれないので、ドヤ顔で悔いが無いように言ってみた。

正直一度は言ってみたかった台詞だ。


偽ラピスの右腕がピタリと動きが止まり、目を吊り上げながら俺の質問に答えてくれる。

「世辞の句はそれでいいのかのぅ?」


「ネクロリマンサー」

観念してぽつりと呟く。

意外にもこの単語に興味を示してくれたのか偽ラピスが右腕を下して、顎で続きを話せと煽ってくる。


「なんじゃ それは?」

腕を組ながら俺を見下た様子で質問してくる。

正直俺が一番分からないよ。


「俺の職業がネクロリマンサーってだけ

予想だけど、ネクロマンサーの誤字か、派生職だと思うけど効果とか不明だよ」


偽ラピスの顔が段々と険しい物に代わっていく。

フラグ選択を間違えたのだろうか?

「命乞いでそんな意味の分からぬ事しか言えぬとは、殺す価値もない奴じゃ…」

偽ラピスがそう、小さく呟くと同時に踵を返して今度こそ去ろうとする。


「俺はそのっ 神様に会って、異世界からこの世界へ飛ばされた人間なんだっ!」

自分でも何を言っているか分からなかった、ただ、悔しかったのだ、殺す価値の無い人間と呼ばれて。


偽ラピスの足取りが止まり、後姿のまま考える素振りを見せる。

「異世界から来たとな… だが… 見た事の無い黒髪に顔立ち、奇妙な服装、服の生地すら

よく分からぬものを付けていたの…」


偽ラピスが興味を示してくれたのか、振り向き、再度俺によって来る。

「おぬしを一応信じよう、まずは、異世界とやらを聞かせてもらおうか」


俺は偽ラピスに今まで起こった事を話した。

「一応話の筋は通るかの… まあ異世界とかおぬしの事情などはまあそれで

納得しよう、最初におぬしが言ったネクロリマンサーとはなんじゃ?」


神様の部屋で見た時も文字化けしてして読めなかった代物だが、ある程度予測してみる。

「ネクロリマンサーは推測だけど、死霊術を扱う人だと思う それも、ロリ専門の…

ショタだったらネクショタマンサーがあると思うが…」

後半の台詞は関係がないので小声になる。


「死霊術か… 初めて聞いたが、何となくは分かるが、ロリとはなんじゃ

なぜか、胸がムカムカするわ」

何か苛立たしいのか、ロリと言う言葉に反応する幼女。


そのまま言うと偽ラピスが怒りそうなので俺主観の真実で語る。

「綺麗、または可愛らしい女の子の事を俺の世界ではそう、呼ぶ

ロリータを略してそう、呼んでる」


少し笑顔になる偽ラピス。

やはり女、正確には幼女だが、綺麗、可愛いには素直に賞賛と受け取るらしい。

「そうなのか、まあ、私の為にあるような言葉じゃの

先ほどのムカムカは気のせいじゃったか」


偽ラピスが俺に説明を続けるよう促してきたので、続きを話す。

「死霊術ってのは確か、死体を操る術だった気がする

特に死んだ直後とかじゃないと術は失敗するとかなんとか。

操れるのも少しの間だけだし、生前の記憶とか無く、思考能力も欠如していて

単純な命令しか出来ないという粗悪な術って扱いだったよ

漫画とか小説とかでは」


「おぬしも死霊術について詳しくは知らぬのか?」

少し落胆した様子の偽ラピス。


もしかするとだが、俺を吸血中に偽ラピスは多分絶命したと話していたが、

この時に俺のネクロリマンサーが発動したのではないだろうか?

そう仮定すれば、筋は通る。

偽ラピスに思いついた仮定の話をしてみる。


「それじゃな 多分…

おぬしのネクロリマンサーが発動して私の傷が回復、

吸血鬼で無くなったから、銀の毒が効かぬ様になったか…

それで、リビングデッド吸血鬼に種族が変わっていたとすれば理屈は通るな」


異世界に来た時、すでに瀕死だった偽ラピスが俺を吸血中に絶命。

この時、偽ラピスのミスで俺が不死者になるとほぼ同時にHPが1しかない俺も偽ラピスの吸血行為によるダメージで絶命してしまう。

多分だが、吸血鬼による不死者の従属は俺が不死者として覚醒する前に死んだのでキャンセルされたか、もしくは死霊術の効果で競合するので相殺されたのではないだろうか。

多分後者の説が当りだと思う、両者の効果に、従属の属性があるので、

自分は相手に従属して、相手は自分に従属と言うのは意味が分からないからね。


俺も絶命寸前に僅差で絶命していた偽ラピスにネクロリマンサー、死霊術が発動して偽ラピスが生き返る。

偽ラピスの回復によって俺も不死者として生き返ったという事か。


よくよく考えると凄い話だが、これでほぼ当りだと思う、タイミングとかミスが無ければ、どちらも死んでいるし、良くて何方か片方しか生きていない状況の出来上がりだったとは。


俺と偽ラピスの台詞が重なる。

「ありえないな…」


そう、二人とも思うが、現実問題として生きているのが何よりもの証拠である。

結局、俺と偽ラピスは先のトンデモな仮定の説を信じるしかなかった。


先に口を開いたのは偽ラピスだった。

「では、おぬしに私はやはり、助けられたということかの…

特に銀が効かぬ様になった点などもか...

色々疑って悪かったの…

おぬしが何者なのか分からぬし、不死者なのに従属が効かぬ点など不審な点が多すぎて

警戒していたからな」


態度が柔らかくなり、以外にも素直に謝る偽ラピス。

「こちらも色々とすまなかったよ

俺自身分からない事だらけだから」

こちらも、色々含めて謝っておく。


「一応は私の恩人じゃし、私が吸血鬼だと知られておるし、ラピスの身の安全の為にも…

それに加えて、異世界からやって来た、それも不明な点が多い職業…

監視の意味も含め、おぬしと居ると退屈はしなさそうじゃな」

偽ラピスがそう言いつつ右手で握手を求めて来たので俺は自然と握手をしようとするが、

ふと疑問に思った事がある。

偽ラピスをどう呼べば良いのだろう 名はあるのだろうか?


「ラピスちゃんじゃない、君自身の名前を教えてくれないか?」


偽ラピスは少し困惑した表情をしたので、地雷を踏み抜いたと感じた。

握手しようとした手を下しながら、偽ラピスが答える。

「んっ… 私に名は無いのじゃ… まあ…好きに呼んでくれ…」

かなりションボリした様子の偽ラピス。

名前を考えよう、特徴的なのが燃えるような赤い瞳… これだ! ラピスちゃんとも繋がりがあるし

とてもいいと思う。


「ルビー ルビーって呼ぶよこれから」

ルビーがハッと顔を上げ、名前が気に入ったのか笑顔になる。

「ルビー… ルビーか… 私の名前はルビー うんっ 良い名前じゃ おぬしよ

名を付けてくれて、ありがとう 私はうれしいぞ」

確か、ラピスちゃんは瞳が蒼色だったからその蒼色の宝石であるラピスラズリ、

ルビーは瞳が燃えるような赤色、それだけでは無く、吸血鬼要素も合わせ、宝石のルビーの色の種類に

ピジョン・ブラッド(鳩の血の色)を思い出したのもこの名前にしたのが大きい。


「おぬしの名はなんと言うのじゃ?」


ドヤ顔をして、答える。

「鈴木 幼一、幼いが一番と書いて幼一と読む!」

自己紹介の決め台詞を吐く。


偽ラピスが笑いながら

「ふふっ おぬしの名は幼一と言うのか、では幼一よ

これからラピスとこのルビーを改めてよろしく頼むぞ?」


腰に手を当て、無い胸を張りながら、ルビーと俺は握手を交わす。


「これからもよろしくな、ルビー」


そういえば、先ほどルビーから、ラピスちゃんとルビー自身の事をよろしく頼むと言われましたが

あれですかね? 俺とラピスちゃんの仲を認めてくれたとかですか!?

親公認の恋人が二人誕生って事ですね。

ルビーが改めて増えた…と言うのでしょうか… これで私の周りにはラピスちゃんとルビーの二人が居るので

念願のロリハーレム要員が増えたと思います。


安心すると、今度は宿をどうするかが疑問になって来ました…。

完全に忘れてましたが、教会の神父、彼は気絶したまま放置していた気がします。

さすがにラピスちゃんを保護してくれた彼に悪いのでどうにかしようと思います。

「そういえば、ルビー この教会の神父さんは?」


ルビーも今更思い出した模様。

「うん? 神父? あやつか… 幼一が棺桶の中から出て来た時点で

神よ とか短く呟いて気絶しておったの…」


「教会へ戻ろう」

二人で教会へ戻ると、俺の露天火葬していた場所は燃えカスだけがチロチロと赤い光を放っており、その隣で普通に神父さんが気絶したままであった。

とにかく俺は神父さんを背中に抱え、教会の中へ運び込む。

ルビーは俺の後ろを 絵面が悪いの とか呟きながら付いてくる。


おっさんをおっさんが背負ってベッドへ連れ込むという絵面的に最悪だが流石に放置は

俺の良心が痛むし、俺が盗賊と遭遇した後の事、特にラピスちゃんの事をこの神父から聞く必要性が

ある為だ。

なぜ叩き起こさないかと言うと、俺が生き返ったのを目撃した人だから、寝てる状態から起きれば夢の出来事だと誤解してくれると考えたからだ。


教会の奥手に人の生活空間が広がっており、そこに備え付けられていた質素なベッドに神父さんを

横たえさせ、布団を掛ける。

ルビーと言えば、ラピスちゃんが寝かされていただろうもう一つの簡素なベッドに入る。

「幼一よ 私はもう寝る ラピスとやらにも寝ないと悪いからの…

おやすみじゃ」


「おやすみー ルビー」

幼女とおやすみの挨拶を交わすことが出来た…。

とてもじゃないが前の世界では出来なかったであろう出来事に俺はとても喜んだ。


色々と落ち着いたので自分の様子を見てみる…と驚きが、忘れていたが、ルビーに俺手刀で腹に穴を

開けられたのだった… せっかくのスーツとYシャツが血だらけで穴が開いてる… 俺の世界だとへそ出しルックスーとか言い訳は通じただろうがこれは駄目だ、血も付いてるし…。

他の持ち物は大丈夫そうだ…。


しばらく俺はする事が無い、それに神父のおっさんがいつ目覚めるか分からないのでベッドの近くにあった

椅子を手繰り寄せ、その椅子に座りながら軽く仮眠を取ろうと考えた。

以外にも寝つきが良いのかルビーはすぐに寝息を立ていた。


ごくり、と自分の生唾を飲む音がする。

それはそうだ、可愛らしい幼女が目の前で寝ているのだ ロリコンさんな俺が何もしない訳が無い。

「今なら多少バレない程度に悪戯出来る、幼女に… 少しシーツを捲って… ぐふふっ」

黙ってれば良いのになぜか声に出してしまう俺。


じりじりとルビーに迫る俺、だがそのタイミングでルビーが普通に寝返りを打ったので俺は慌てて

椅子戻ると、座ってるフリをする。

心臓がバクバク鳴っている… 。

「ふーっ あぶない あぶないっ」

一度冷静になった為か、ルビーの体はよく考えれば天使ちゃんなラピスちゃんの物でもあるのだった…

そう考えると以外にもヨコシマな考えが引いて行った。

親父とロリコンさんの勝負 親父の勝ち!


「寝よう」

そう呟いて仮眠を取る俺…。


「きみっ 大丈夫か?」

声を掛けられた気がするので目を開けると、神父さんが起きており、目の前で困り顔で居た。


「あっ えーっ」

仮眠のつもりが、普通に寝ていたらしい、多分だが環境が違う異世界や、死にそうになったりと

忙しかったのが原因だと思う。

普通に朝になっていた。

「大丈夫です 神父さん すみません」


そう言うが、椅子で寝たためか、体のあちこちが痛いので軽くストレッチしておく。

動いたためか、俺の腹がグウッと鳴る…。


「ははっ 事情とかは後にして、まずは朝ご飯を食べてからにしょうか

彼女の分も用意しておこう」

神父さんは気さくに笑い、寝ているラピスちゃんを少し見ながら言う。


「神父さん 色々すみません」


「気にしなくて良いよ

それと、ついでに水を汲んできてくれないか?

教会の裏手に井戸があるからね」

神父さんはそう言い俺に木製の桶を渡すと、朝食の準備に取り掛かった。


昨日のルビーと会話した付近で井戸を発見することができた。

井戸の水なんて汲んだ事は無いが、上の方に滑車とハンドルが付いていて

多分ハンドルを回すのだろうと回してみるが、予想外に重いし、かなり回さないと駄目だ。

「ふっ ふっ ふっ ふーっ」

キコキコとハンドルを回す、ようやく、水の入ったバケツが見えたがどうすればいいのだろう。

手を離すとバケツが井戸の底に落ちそうなので、重いハンドルを持ったまま、神父さんが渡してくれた桶に移し替えたいのだけど

片手では井戸の桶の水を、持って来た桶に入れるのは手の長さ的にも色々難しいぞ?


試行錯誤してみるが、上手く行かないく、どうしようかと悩んでいると、ハンドルから手が離れてまう。

「うわっと… あれ?」

ハンドルから手を離すと、桶が井戸の底へ落ちて行く物だと思っていたが、以外にも落ちない…。

何故かと思い、ハンドル付近を見ると、木の歯車があり、逆回りに落ちない仕組みになっているようだ…。

それは確かに落ちると不便だよね そうだよね… 一人落ち込む。


無事、井戸の水を桶に移し替えることに成功した俺は水を神父のもとへ運ぶ。

「水を汲んできてくれてありがとう」

神父さんがお礼を言ってくれる。

大したことではないし、朝食まで用意してくれるのだからと説明したが、

神父さんが首を横に振る。


「違うよ 事の大なり小なり、裏に何かある、それに成功、失敗も含め、そういうのは関係ないよ 誰かの為に何かしてくれた事、その行為自体が感謝されるべき事なのだから」

流石は本物の神父さんである。

そのような事を話していると、料理のスープが完成したらしく、神父さんに頼みごとをされる。


「まだ寝ていると思う彼女を起こしてきてはくれないか?

手間を掛けさせて、すまないね」

俺はラピスちゃんを起こしに行くがラピスちゃんに声を掛けようとしたタイミングでラピスちゃんが

ご飯の匂いに釣られてかモソモソと起きだした。


「うーんっ いい匂いがするー」

寝ぼけ眼を擦りながら、伸びをするラピスちゃん…

朝から色々とラピスちゃんの可愛い姿を見れて俺は大変満足です!


ラピスちゃんが俺に気が付いた。

「おっ お兄ちゃん!? 怪我は大丈夫だったの!?

あれ? でも…」

抱き付こうとしたラピスちゃんが何かを思い出したのか、悩みだす。


「まあ、まずは朝食にしようか?」

神父さんが優しく俺たちに声を掛けてくれる。

見ると、テーブルには、パンと簡単なサラダ、先ほどの野菜スープが3つ並べられており、

そこに俺とラピスちゃんは座る。


神父さんは俺とラピスちゃんが席に着くと、神父さんが胸に手を当てながら祈りをささげるポーズを取る。

「この日々の食事に感謝を…」

お決まりのようなセリフを告げるが、途中で止める。

神父さんが少しバツの悪そうな顔をして、話す。

「各々の好きなように感謝とかしてもらって

食べて頂いて結構ですよ?

色々ありそうですし…

私はいつものようにさせてもらいますが」


神父さんに好きなようにと言われたので

「いただきます」

手を合わせて朝食に手を付けた。


ラピスちゃんも静かに目を瞑り何か短くお祈りを呟いてから朝食に手を付ける。

最後に神父さんが朝食を食べだす。


異世界の野菜とかは普通においしく、見た目は見た事の無い物が大半だが。

パンも黒いパンでは無いが、フランスパンの様に硬いので、野菜スープに浸してみる、そうやって食べると一段と美味しい。

この時のご飯の一番のおいしさの要因は多分幼女と一緒に食べたこと、それに、軽く一日ぶりの食事だからだろう涙が出て来た…。


朝食を食べ終わるのが以外にも最後に食べだした神父さんが一番、次にラピスちゃん、最後に俺と言う順番になった、多分俺は異世界の食事に一喜一憂していたからだと思うが。


「ごちそうさまです」

俺は最後に手をお合わせて、そう言う。


それを待っていたかのように神父さんが口を開く。

「では、少々お話をしてもいいかな?」


俺とラピスちゃんが神父さんに向き合い、頷く。

「そうそう、忘れていたが自己紹介をしよう、私の事は神父と呼んでほしいな

それで君の名は?」


神父さんが俺に顔を向けるので自己紹介をする。

「鈴木 幼一だ、幼いが一番と書いて幼一と言う」

いつもの自己紹介をする、幼女以外にも同じ自己紹介を俺はしている。


「幼一君か… それで君の名前は?」

次に神父さんはラピスちゃんに尋ねる。


「ラピス…ラズリって名前だけど、普通はラピスって呼ばれてる 神父さん」


「ありがとうね ラピス君」

安心させるように、笑いかける神父さん。


「では多分幼一君が気になって居る昨日の出来事の顛末を話そうか…

と言ってもある程度、それも又聞きに近い部分もあるから了承してね?」

神父さんが軽くウィンクをする。

以外に茶目っ気のある神父さんらしい。


「二人はどうやら、街の裏路地で迷っていた様子で、そこで運悪く武装した物取りと遭遇

そこで、幼一君が物取りに切られ、血を流して動かなくなったとこの辺りはラピスちゃんと

警備隊長に聞いた話だけどね」

ラピスちゃんをチラリと見ると、その通りと言う感じで頷いてくれる。

「うん… そのようなお話を駆け付けてくれた人にちょっとだけしたと思う…」


「警備隊長の話だと、巡回警備をしていたら、裏路地で悲鳴が聞こえたのでその現場に駆け付けると逃げる物取りと血だまりに沈む幼一君、その幼一君に泣き縋るラピス君が居たそうだ

ラピス君の保護と幼一君をそのままにしておけないので火葬する為に、この教会へ両名が運び込まれた」

簡単に説明するとだけどねと付け加える神父さん。


「この教会へ着くと、ラピス君は泣き疲れたのか、それか、別の理由か眠ってしまったので

そこのベッドに寝かしつけてから、幼一君を火葬する準備をしていたんだよ

しばらくすると、そこのラピス君に似た子がふらりとやって来て、その者の最後を見届けたいと言って葬儀に参加してくれたまでは良かったよ?

でも、いざ火を付けて火葬しようとすると、棺から幼一君が息を吹き返したのか飛び出してきた

その後の私は気絶して、朝まで私は起きなかったって所だね」


すまないね 私の早とちりで、葬儀を行ってと神父さんに俺が謝られる。

神父さんはラピスちゃんにも、大事な人を誤って火葬しようとしたので謝っている。

「大丈夫、お兄ちゃんが平気なら私もいい」


思い出したが、ルビーの奴、俺が燃やされて 熱い熱い 言いながら飛び出してきた俺を笑っていたな…

完全に機会を狙っていたのだろう… わざわざ見に来るぐらいだからな… 案外性格が悪い奴だ。

だが、いくら俺が不死者だと知っていても火葬を避けるのは難しいか… 一応本当に死んでいたんだし。


「俺の知りたい経緯を説明してくれて、それに、

ラピスちゃんの介抱の件と一夜の宿と朝食まで、なにから何まで世話になりました。

ありがとうございます、神父さん」


静かに首を縦に振る神父さん。

「私がしたいと思った事だからしただけだよ、そこまで気に病む必要は無いよ?

それで、幼一君とラピス君はこれからどうするんだい?

二人とも悪い人間では無いと思うけどね


見た所、ただの旅人では無さそうだけど… 幼一君の独特な見た目、服装… それにラピス君の身なりのいい服、少し破れたり、穴が開いてるけどね」


それは気になるか… どうするか…

何かいい言い訳はあるか… ラピスちゃんとの関係は街に入る前に従妹と言う設定でとは

話したけど 無理があるか?

「それは… ラピスちゃんとは…い」


設定を語ろうとした所で急に突然、神父さんが手を叩いたのか、乾いた破裂音が鳴る。

「そうだっ! 完全に忘れていたよ

一応、幼一君とラピス君はジャックに挨拶ぐらいはした方が良いよ

昨日の事件でラピス君を保護して、幼一君をここまで運んでくれた警備隊長の名前だよ

ジャックは多分、大通りの 酷命館 って名前の酒場兼宿屋で飲んでると思うから行っておいで」


そうそうとか言いながら神父さんが立ち上がり箪笥を探り始める。

完全に放置される俺とラピスちゃん。

そして服を、俺とラピスちゃん分、渡してくる神父さん。

「幼一君はこの服と、フードで頭を隠すと良い

ラピス君もこのローブで服を隠すがいいよ 身なりが良いと盗賊や物取りに会うからね」


「そこまでしてもらうのは…」


神父さんが首を横に振る。

「少しとは言え、縁のあった者が悲しい出来事に遭う事態を避けたいと思う

私自身の我がままだよ

どうか私の我がままを聞いてはくれないか?」


そう言われては拒否が出来ないので俺とラピスちゃんは服をありがたく頂戴して上に羽織る。


「大通りの酷命館って店ですね? 名前はジャックさんで合ってますね?」


「そうだよ

彼を警備隊長と呼んだ方が分かりやすいと思うよ

気を付けてね」


「では、神父さん 行ってきます」

「神父さん ありがとう」

ラピスちゃんも神父さんに挨拶を交わす。


そう言ってラピスちゃんの手を取り、神父さんと別れる。

「行こうか、ラピスちゃん」

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