Hello, world!


次に意識が覚めると、どうやら俺は草むらで寝ているらしい。

ゆっくりと、目を開けて、周りを見回してみると、薄暗い森の中に居た。

大の字に寝ている状態から胡坐へ体勢を変えながら、今後の行動を考えてみる。


「どうするかな?」

呟いてみるがいい案が思いつかない。

と言うか、俺のつぶやき以外音がしない不気味な森だ。

転生して異世界に居るのだから。これがある意味本当の「Hello, world!」なのだろう。

よくよく考えると、ただの森に放置とはサバイバル経験の無い俺には拷問に近しいぞ?

転生前の状態のまま、この世界へ来たようなので、

赤子からの出発じゃないから色々とこの世界の常識を勉強しなければならないのがそうとう面倒だ。



時間が経つにつれて、強烈に嫌な予感がしてきた。

薄暗く、不気味に静まった森を再度見回してみるが、特に何もない。

「これ、魔の森とか魔界の森とかかな?」

俺の30年あまりの人生で見た事の無い、樹木と、草だ。


時間的に黄昏時に入ろうとしているらしく、段々と暗くなっていく。

こんな時に昔、授業で聞いた「薄暗くなって向こうにいる人が識別しにくくなった時分」を

誰そ彼と呼ぶ、等と言うわりと、どうでもいい事を思い出した。


とりあえず、このままでは危険そうなので、スーツの中を探ってみると、

まあ、あるのは金属製の名刺入れに名刺、財布、スマートフォン、手回し式のモバイルバッテリー、腕時計、ハンカチ、ボールペン

、メモ帳、テッシュ、煙草にオイルライターぐらいか。

なんとも不安な装備だ、ナイフがあれば、ナイフが… ナイフ一本でなんでも出来ると聞いたのに。

せめてもの救いはオイルライターぐらいなものか… サバイバル的に使えそうなのは。


食料とか水はどうしよう?

そもそもこの世界の食料は食べれるのだろうか?

疑問は尽きないな。


オイルライターを取り出す。

明かりを灯すことが出来るので探索とか獣除けぐらいに使えるかもしれない。


とにかく何か行動を起こそうと、オイルライターを点けながら森の中へと向かって

行く事にした。


草木を掻き分け、不気味な森を歩いていく。

周りはほぼ、暗闇に包まれ、俺の周りだけが明るい状態だ。


異世界転生って小説の話だと森に転送はあるけど、さすがに

魔の森(俺が命名)は無いだろうと思う。

うーん 敵と言うかモンスターにすら出会わないぞ?


出会いたくないが。


そんな事を考えて居たからだろうか目の前の茂みが揺れ、

燃えるような、赤い瞳の大きな何かが暗闇より、飛び掛かって来た。

その時の驚きでオイルライターを落としてしまう。


「うおっ おおおおっ」

あまりの驚きにパニックになりつつ、現状を把握しようと努力はしてみるが、

さすがにただの平凡な30才になるサラリーマンのおっさんが何か出来るわけがない。


目の前まで来た、燃えるような赤い瞳が叫ぶ。

「ガアアアアッ」

ああっ 異世界転生して、数時間も経たずに獣だろうかに喰われて死ぬのかとこの一瞬だけは

冷静になった。


恐怖に苛まれた俺は、動けずその身に牙を突き立てられ、体に死ぬほどの激痛が走る。

「ひぎっ…っ」

痛みのあまり声も出ないし、視界が赤色と黒色の交互に点滅する。

一度死んだ身なので死に至る痛みは分かる、これは死ぬ痛みだ。


俺は心の中で 死にたくない、まだ生きて居たい、誰か助けてと強く願いながら意識を失った…。

その時の俺は、意識を失うまでの一瞬だが、生涯の中で感じた事の無い幸福感を感じながら意識が消えて行った。




暗闇の奥底から意識が浮かび上がってくると瞼越しにでも、目の前が眩しい気がする…。

目を焼かれないようにゆっくりと恐る恐ると、目を開けてみる。

太陽が二つある… 異世界だなーと感心してみる。

どの位こうして倒れていたのか、分からないが意識が覚醒してくる。


よくよく思い返してみれば、俺は夜の森で謎の襲撃を受けて死んだような気がするが…。

気のせいだったのか?


首を動かして周りを見回してみると、自分の近くに、近くに!

銀髪ストレートで、黒を基調としたゴスロリドレスに身を包んだ小学5年生ぐらいの大きさの

幼女が女の子座りしながら、すやすやと寝息を立ててるのですが…。


顔は、鼻筋がすらっと通っており、まるでフランス人形のような綺麗な作り。

なんのご褒美なのでしょうか?

驚きのあまり、声を出しそうになりましたが、ここは幼女命の紳士なので

寝ている幼女を起こす事は出来ません ハイッ。


私、気が付きました、頭の位置を少し下の方へ這いずって移動するだけで、銀髪のゴスロリ幼女の両足にある

魅惑の三角領域が見れそうです。

忍者のように音を立てず、気配を悟られぬように少しずつ芋虫の様に全身を使いながら、体を動かしていきます。


私のなにがいけなかったのでしょうか? 神様、いえ、有瑠ちゃん…。

銀髪のゴスロリ幼女が目を覚ましたので偉大なるミッションは失敗です。


その、銀髪のゴスロリ幼女と目が遭いました。

非常に綺麗な青目で、くりくりと大きくて愛らしいお目目です。


「目が… 覚めたの? 大丈夫…?」

銀髪のゴスロリ幼女が目をぱちくりさせながら、小声ながら、俺の事を気遣ってくれる言葉を掛けてくれる。

幼女に心配される、これだけで、死ねるよ。


「ありがとう、大丈夫だよ」

たとえ、瀕死の重傷であっても幼女に心配されれば、こう答える自身がある。

答えながら自分の体の様子を探ったがこれと言って怪我は無いが、Yシャツの首筋辺りが

破れていて、血が付着しているぐらいだ。

記憶が正しければ、致命的な攻撃を受けた個所と符合するが、怪我は見当たらないし、

腕は動く。

ちらりと腕時計を見てみる、何日も経っていた場合はあれだが、持ち物を確認した時に腕時計で時刻を見たが

おおよそ半日12時間ほど経っているらしい。


立ち上がりながら、銀髪のゴスロリ幼女に声を掛ける。

周りを見渡すと、夜に謎の襲撃を受けた場所と同じ場所のようだ。

この銀髪のゴスロリ幼女をこの場所より移動させねばならない、ここには俺を攻撃してきた、危険な存在が居るのだ。


「ここは凄く危険だから移動しよう」

自然と手を出しながら銀髪のゴスロリ幼女に向かって手を差し伸べる。

銀髪のゴスロリ幼女の黒のゴスロリドレスをよく見ると、一部が破れたり、穴が開いていたりするのだがどういう理由だろう?

森の中で引っ掛けて破いたとかだろうか?

今気が付いたが、このラピスちゃんと言葉が通じてる?

ラピスちゃんが日本語を喋ってる雰囲気は無いというか口の動きが違うので多分異世界転生の能力だろうと納得しておく。


銀髪のゴスロリ幼女は恐る恐るといった感じで手を取ってくれた。

幼女の手はマシュマロの様に柔らかく、とても温かいです。

都合は良いのですが、この銀髪のゴスロリ幼女は人を疑う事を知らなさそうな気がしてきました。

この子の誘拐とか簡単に出来そうです。


不気味な森(魔の森)を二人、手を繋ぎながら歩く。

「君のお父さんとか、お母さんは何処に居るのかな?」

目線を低くして、優しく問いかけつつ、異世界なのに言葉が通じてるに喜びつつ、銀髪のゴスロリ幼女の返答を待つ。

彼女の両親に会えれば、街へのルートとか分かるかもしれないし。


先ほどの質問が原因なのだろうか、銀髪のゴスロリ幼女の目から涙が…。

「お父さまと、お母さまは…っ うっ…っ ううぅぅぅっ…」

泣き出ししてしまった。


泣き顔もかわいいとか思っている場合ではないと思いつつ、しばらく二人森の中で呆然と立ち尽くしてしまう。

どうすればいいのだろうと困惑していると、銀髪のゴスロリ幼女が泣き声ながら、理由を話をしてくれた。


「お父さまは… 館に急に入って来た者に、戦いを…っ 挑んだけど…っ …っ 胸を…っ 長い棒のような物で貫かれて… うっ 動かなくなって…」

これはあれだっ うんっ 盗賊の集団とかが村を襲ったとか言う話だ、改めて異世界に来たことを痛感する。

俺は銀髪のゴスロリ幼女を優しく抱き込んだ。

「もういいよっ 無理しなくてっ ごめん、俺が変な事を聞いたね 本当にごめんね」

俺は彼女に他の事を話そうと提案しようと考えて居た時だ。


銀髪のゴスロリ幼女は俺の胸の中で首を横に振る。

彼女は泣きながらではあるが、強い意志を感じる目でこう答えた。

「だめっ… なの…っ 私がお父さま…っ とお母さまの…っ 最後を…っ 見届けたんだから…っ」

俺は黙って彼女の話を聞いた。


「私が三人の…っ 死を認めて…っ ないと…っ 安心して…っ ヴァルハラへ…っ 行けない… から…っ」

涙ながらに語っているが、彼女の芯の強さに驚きが隠せない。

ヴァルハラはたしか… 北欧神話で戦死者が招かれる場所だったと記憶している。


俺がもし、彼女ぐらいの歳で両親を殺されたら、多分心を閉じて人と話せない人間になって居ると思う。

それでだろうか、銀髪のゴスロリ幼女のゴスロリドレスが破れたり、穴が開いている理由は…。

怪我等は回復魔法とか、ポーションとか薬草類で直したんだろう。


「私が殺され…っ そうになった所を庇って…っ お母さまも…っ」

俺はただ黙って胸に彼女を抱きながら、彼女の話を聞いた。


「お母さまは…っ いっぱい…っ 血を流して…っ 最後の力で…っ 私を森の方へ…っ 突き飛ばして…っ

一緒に逃げてた…っ 爺やと…っ 私は森に逃げたの…っ でもっ 爺やも森に入った所で…っ

爺やが言ったの…っ お嬢様私は少々やり残したことが…っ あるって…っ このまま…っ 後ろを振り返らず…っ

走ってくださいと…っ すぐに追いつきます…っ と言い残して…っ」

そこまで言うと彼女は乱れた呼吸を正す。


「それで、私は…っ 走ったの…っ でも… 爺やが心配で…っ 森でいつも遊んでる場所で

隠れて…っ 待ってたの…っ でも…っ でもっ 来たのがっ 皆…っを殺した奴らだった…

奴らは…私も殺そうと…してきたの…」

恐怖を思い出したのだろう、震えだした彼女を俺は、強く抱きしめ、頭を優しく撫でる。


「でも…奴らは私が… 子供だからだろうと思う…けど 遊んでたと思う…

逃げ惑う私が… 死なない… 程度に…攻撃してきたもの… 体中が痛かったし… 悔しかった…っ 色な所が切られたり、

刺されたり、したの… でもそれも長くは続かなかった…私が地面に躓いて… 動けなると…

奴らは落胆した顔になり、私に止めを刺そうと… 剣を振り下ろしてきたのを覚えてる」

あまりに酷い出来事に俺は怒りを覚えた。

多分盗賊とかの類だと思うが、ここまでする必要があったのだろうか、こんな子供まで殺そうと

するなんて、それも、痛めつけて、弱いもの苛めの様に…。


「そのあとの事は何も覚えてないの… 気が付いたら、まだ私は生きていて、

お兄ちゃんが目の前で倒れてたの… 驚いたけど、動く気力も無くて、

お兄ちゃんは安心する匂いがしたから… そのまま、寝ちゃったの…」

幼女にお兄ちゃんと呼ばれてとても、とてもうれしかったが、彼女の話を

聞いた後ではとても喜べる状態ではない。


しばらく、彼女の頭を優しく撫でた。

「お兄ちゃん 私はもう…っ 大丈夫、ここで臥せっていても、皆に合わせる顔が無いもの!

生きているんだから、皆の分まで頑張るもんっ!」


俺を見ながら不安そうに声を掛けてくる。

「でも… これからどうするの?」

彼女にそう言われて俺はこの不気味な森を抜けて、街を目指すという当初の目的を思い出した。

それによく考えれば、俺は色々と異世界転生とかで状況把握に一杯で、忘れていたが、銀髪のゴスロリ幼女と自己紹介をしていなかったぞ?


「自己紹介を忘れてたけど、俺の名前は鈴木 幼一、苗字はただの鈴木、名前は幼いが一番と書いて

幼一だっ 歳は30になるが、体力に自信はあるぞ? 生まれ故郷は多分凄く遠い所でもう戻れないと思うがな

、友達と彼女は今は居なくて寂しい独身だから、友達と彼女は常に募集中だよ」

いつもの様に自己紹介をする。

ついでに少し茶化す事で先ほどまでのシリアスな雰囲気を和まそうとしてみる。


「くすっ… えっと… 私は、青い瞳が綺麗だから、ラピスラズリと言う名前を貰ったの、普通にはラピスと呼ばれてるから、

お兄ちゃんも私の事はラピスって呼んでほしいな、友達はあまり多くは無いけど居るよ、家はあっちにあるお屋敷なの」

ラピスちゃんはそう言って反対側の森を指す。

指した方向で黒煙が立ってる… 多分盗賊がラピスちゃんのお屋敷に火を放ったのだろう。

「お兄ちゃん… 私のお家燃やされちゃったよ…。

帰る場所が無くなっちゃった…。」

これで、家無しのホームレスが二人誕生した瞬間であった。


ラピスちゃんに街のある方角を聞いてみようと思う。

「ラピスちゃん 街のある方角とか分かる?」

「うんっ 向こうの方だよ でもお父さまも、お母さまも危ないから行っては駄目って言うの」

お金持ちだから街に行ったら誘拐の危険があるからとか言う理由か、それか、単純にこの不気味で、危険な森を抜けないと駄目だから

だろうか?

それに、街でラピスちゃんの洋服を買わないと駄目だな、いつまでも破れたりしてる服を着ているのはかわいそうだからね。


色々と疑問を抱きつつも、ラピスちゃんと手を繋ぎながら、指の刺された方角に森の中を歩いて行く。

正直お腹も空いてきた。

「大丈夫、ラピスちゃんは俺が何があっても守るからね 安心して」

自然と頭を撫でつつそう言ってラピスちゃんを安心させる。


YES!ロリータ! YES!タッチ!な俺でも、家族と家を失ったラピスちゃんの話を聞いた後では、

出来る限り、彼女の父親であろうと決心した瞬間であった。


2、3時間ほど森を歩いただろうか、ようやく森を抜け、少し遠くの方に道が見えた。

「よしっ 道が見えたよ ラピスちゃんは大丈夫?」

さすがに子供の体力でそれも、森を2、3時間ほど歩いたのだから疲れているだろうと

声を掛けたが意外な返答が帰って来た。


「お兄ちゃんっ 私は大丈夫だよ 街に行かないと、駄目なんでしょう?」

予想外にラピスちゃんは元気そうだ 無理している可能性も否定は出来ないが。

お嬢様なのだが、森で遊んでいたと言う事で体力が以外にあるようだが、実は

俺の方が不慣れな森を歩いたと言う事で疲れていて休憩したい。


顔を上に向けて二つある太陽で時間を確認してみると頂上ぐらいの位置なので

多分推測だが、お昼時ぐらいだろう。

ついでに腕時計を確認してみると、12時20分となって居たので推測だが、

時間の流れは多分地球と同じなのだろうと判明した。

「ラピスちゃん 少し休もう 道も見えたから大丈夫だと思うから」

俺は、少し休めそうな場所を探す。


「うーんっ」

可愛らしい声を出しながらラピスちゃんが体を伸ばしている。

やはり、疲れていたようだ。


「ふうっ もし、街が見つからないと、水と食べ物を探さないと駄目だな…」

森の境界辺りで木の陰に入り、二人して腰を落ち着ける。


「そういえば、お兄ちゃんはどうしてあの森の中に居たの?」

ラピスちゃんが可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。


異世界に来たらあそこに居たと言っても良いが信じれないだろうし、

何かの拍子で異世界から来た人間だと周りにバレると厄介そうなので、幼女に嘘を付くのは忍びないが嘘を付こう。

「旅をしていたんだが、道に迷ってしまって、いつの間にか森の中に居たんだ」

正直俺の服装とか、旅人が街道ではなく、森に入ってるというのもおかしいのだが、ラピスちゃんは

意外にも信じてくれたようだ。


「大変だったね お兄ちゃん でも、そのおかげでお兄ちゃんと会えたから良かったと

思うよ」

幼女が俺と会えて嬉しかったと答えてくれた、また、自然とラピスちゃんの頭を撫でていた。

俺、ロリコンでラピスちゃんの見た目とか色々とドストライクなんだが、父性が目覚めたののだろうか

頭を撫でても今までの様にあまり興奮しないし、自然と頭を撫でてしまう。


父親とロリコンさんの勝負! 父親の勝ち


悲しいような、うれしい現実のような。


「頭撫でてくれてありがとう、お兄ちゃん

私はもう、元気になったよ?」

二人で話していると、そこそこの時間が経過していた模様。

ラピスちゃんは疲れが取れたようで声が先ほどとは違い元気になってる。

俺の方も大方疲れは取れたので、道に向かい歩き出そうと立ち上がる。


「行こうか ラピスちゃん」

自然と手を繋ぎ、街道へ向かい歩いて行く二人

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