理解者が現れました。 前編?

そう、長くはない地下道を進むと突き当りにたどり着きました。

「ここが終わりか…」


「なにかあるの? お兄ちゃん」


何か壁にある縄梯子を見つけたので上のほうを見てみると、出入り口と思われる床式の扉を見つけたのでこれで外に出れるはずです。


さすがに何があるか分からないのでラピスちゃんでは無く、私が先頭で登ろうと思います。

ラピスちゃんの力で床式の扉を開けるのは大変でしょうし…。


別に、本当はラピスちゃんが先に上ってくれると、パンツが見放題だー うれしいなーとか言う ”ヨコシマ” な気持ちはありませんよ!? ええ!


親父とロリコンさん勝負 親父の勝ち!


床式の扉を開けて地下道の外に出てみると小さい物置小屋に繋がっていたようです。

「大丈夫? お兄ちゃん?」

下で待っているラピスちゃんに合図を送ると部屋まで登ってきました。


一応警戒しながら鳶をそっと開きます。

どうやら、教会の裏手にある墓地付近に作られた菜園に出たようです。


「きゅ きゅ きゅ」

アンバーが顔を出して泣いていますが、今は外に出ることが最優先です。


「人通りの多い場所へ行こうか」


「うんっ」

ラピスちゃんと手を繋ぐと、人通りの多い場所まで行って誰かに助けを呼ぼうと思います。


ですがそんな思惑はさっそく崩れます。

「おいっ…」

少し離れた場所から声を掛けられます。


なんだろうと思い、振り向くと武器を手にした人が居ました…。

「まてっ そのガキを置いていけ!」


「きゅ きゅー」

アンバーが明らかに警戒してます…。

あっ… ダメな奴だ…。 警備隊の服装と違うし… 神父さんが言ってた無法者の仲間でしょう。

待てと言われて待つ奴が何処にいるのでしょう、人間追われると逃げたくなりますから…。


「ラピスちゃん、走って!」


「うっ うん」

そのまま反対側へ走ります。


反対側なので、結局、逃げてきた? 教会の方に戻されます。

色々とマズイなと思いますが今は逃げることが優先です。


だんだんと追いかけてくる追跡者と私たちの距離が縮まってきます。

もう、ダメだと思っていると、前の方から神父さんが走って来るでは無いですか…。


服装とか変わってませんか? 神父さん?


「ラピス君に、幼一君 こちらに!」


神父さんの後ろに引っ張られる感じで倒れこみます。


私は咳き込みながらも、神父さんに相手は武器を持っていると伝えようとしましたが…。

その心配は無用だったようです。


「神父さん… 相手…は…」


相手の腹に神父さんの拳が突き刺さっている状態でした。

崩れ落ちる先ほどまで追いかけてきた追跡者…。


なに? この神父さん…?


「幼一君、ラピス君 怪我は無かったかい?」


「はい… 私は…」


「わたしも… とくに…」


「まずは、… 一応警備隊に連絡を入れて少し教会で色々と話そうか…」

そうラピスちゃんを見ながら神父さんが言う。


警備隊の人と共に教会へ戻ると、そこには誰かが争った形跡だけが残っており、無法者達の姿は見えません。

そこへ、別の警備隊の人間がやってくると、警備隊の隊長さんと少し話を交わすと、先ほど怪しい武装集団を見つけたという情報が入ったからそれを追うと言い残して去っていきました。


デーブルとかを元に戻して出来る限り元の様子に部屋を戻します。

「すまないね 幼一君にラピス君」


「いえいえ」


「べつに…」


「少し…話したい事があるけど大丈夫かな?」

私とラピスちゃんの顔を見る神父さん。


確かに今のままでは納得行かない点が多すぎて夜も眠れないだろう…。


「お願いします…」


「私が… なんだか…狙われた…気がする…から…」

こくりとうなずくラピスちゃん。


「吸血鬼」

この単語を聞いた時私はかなり動揺してしまいました…。

反対にラピスちゃんは何その単語?という状態でした。


「そうか… 幼一君は”何か”知っているが、ラピス君は何も知らないといったところだね…」


「神父さん…」


いずれはラピスちゃんに話すかもしれない話だ… ラピスちゃんが吸血鬼のハーフであるという話、だが本当に話していいものなのか、ルビーに相談もなしで…。

「お兄ちゃん…」


そういってラピスちゃんが私の手を握ってくれます。


「私は少し前にも言ったよ? ”どんな相談でも悩みでも言って”と…」


確かにそうです、ここまで来ると話すという選択肢しかないように思えてきました。

正直言うと、ラピスちゃん自身にも知る権利はあるのですから。


「ラピスちゃん… これから話す事は嘘じゃない、それにラピスちゃん自身にかかわる話だけど大丈夫かい?」


「うん」

短いけどハッキリとした決意を感じる返事だ。


私とラピスちゃんのやり取りをただ黙って見てくれている神父さん。


「ラピスちゃん 黙っていたけど君は… うん

吸血鬼のハーフなんだ…」


「吸血鬼の…」


あれ? なんだか予想してたのと違うような?

もしかして吸血鬼事体を知らない?


「もしかして吸血鬼を知らない?」


「うん… それはなんなの?」


ある意味ラピスちゃんである、ルビーから聞かされた話を簡潔に話す。


「そう… なんだ… 私…」


ラピスちゃんの頭を撫でてあげる。

「どうあろうとも、ラピスちゃんはラピスちゃんだよ…」

今更ながらだけど、神父さんの前で色々話してしまったが大丈夫なのだろうか… 不安が募っていきます。



「ありがとう、お兄ちゃん

でも… ルビーちゃんが… かわいそう…」


ラピスちゃんの呟きに対する返事を私はまだ持っていない…。


「少し話をいいかな?」


「はい お願いします」


「おねがい…」

私とラピスちゃんが神父さんの話を聞こうと頷きます。


「先ほどの無法者たちはラピス君を標的にやって来た連中だよ」


「はい…」

やはりかという感じがする、追いかけてきた追跡者もラピスちゃんを目で追っていた気がするし。


「より正確に言うならば、ラピス君の居た吸血鬼の村を襲撃した集団の生き残りで

今なお、取り逃がした吸血鬼を追っていると言う事かな…」


「えっ…」

ラピスちゃんと私のセリフが重なる。


「… それと彼らがここに来た理由はもう一つある…


吸血鬼の村の襲撃で壊滅的な被害を受けたようで、元吸血鬼狩りの専門である

私を仲間にしようとやって来たのが理由だね…」


「… はい」

小さくしか私は返事が出来なかった。

神父さんの事を信頼はしているが、体が強張るのを感じた、たぶん当人であるラピスちゃんも似たような感じだろう。


「本当は先に私は君たちの味方だよと言いたかったけど、先に悪い方を話したほうが

信用を得れる気がしたからね…


少し昔話をしよう…」


そして神父さんの昔である、血にまみれた武装神父時代の話が語られた。


「信じてもらえるか分からないけどね…

今は、マクドネル神父の遺志を継いで、生きようと足掻く全ての者に手を貸そうと思っている…」

そう、自暴的に呟く神父さん。


「私は… 信じる… だっておいしいご飯を食べさせてくれたもん…」

御飯が… うん、ウソであれば、あんなに気持ちの籠った暖かいご飯を出せるわけがないと思います。


「ラピスちゃん… 私も神父さんを信じます!」


「ありがとう…」

声は小さいが神父さんがつぶやく。


こうして私とラピスちゃん、ルビーに ”理解者が現れた” 瞬間でした。


神父さんの話ではどうやら、私を火葬する準備をしている最中に現れた ”吸血鬼の特徴である赤い目の” ルビーを吸血鬼であると見抜いたが、その前に保護したラピスちゃんと容姿が同じであったため様子を見ていたそうだ。

そうすると案の定、火葬していた人間(この場合私ですが)が不死者として蘇ったので気絶したふりをして様子を伺っていたようです。

そのまま、朝になるまで何もされず、吸血鬼だったルビーはラピスちゃんに代わったので危険は無いと判断したのだという。


神父さんにいくつか注意を受けました、教会へ吸血鬼と共に訪れるなんて無謀もいいところだと。

まず、120年経っていても未だ、半数ぐらいの教会関係者には吸血鬼伝承が正しく伝わっている点(つまり、吸血鬼とそうで無い者の区別が付く)、一部の貴族も同じように知っている(それゆえに功績を上げようと躍起になっている人間も居る)などの情報を得ることができました。

ですがいい情報も頂けました、魔法と言っても万能でないらしく吸血鬼を見つける、探し出す魔法は知っている限り無いとの事です。


安心はダメですが、書物を基本的に読めない一般人などには普通に生活していれば、吸血鬼だと見破られる可能性は限りなく低いとの事。


無法者達ですが、先ほどの襲撃に失敗したからには、少なくともこの街で再度襲撃してくる可能性は低いとのこと、との神父さんの見立てですが、油断してると危険だそうで今後は注意が必要らしいです。


とくに目立つ服装であるラピスちゃんは、村で来ていた服を着ない方がよさげらしいです。


今日は散々な目にあったのと、ラピスちゃんに考える時間を与えたいがためにユーディちゃんのお屋敷の部屋に戻ります。


「ただいまー」

一応、屋敷に入るときに言いましたが、部屋に入る時も一応言っておきます。


「ただいま…」


部屋に帰ると時刻は夕方に差し掛かろうとしている時間です。

私はちょっと調べたいことや、前に出来なかったお屋敷の探索を行おうと思ったので、アンバーを部屋に置いてそのまま出ていきます。


「どこかにいくの? お兄ちゃん?」


「少し調べものとお屋敷の構造を覚えておこうと思って…

それと… ラピスちゃんも先ほどの件で一人で考えたい事があるだろうと思って…」


「うん… ありがとう… 少し考えるよ…」


私はそう言ってラピスちゃんを残し部屋を後にします。

「さてどうしたものですか…」


まずはエバンスさんかユーディちゃんに会って本を読ませてもらおう、そこでこの世界に関する基本的な常識、知識を手に入れよう…。

いつボロが出るか分からないし。


そう考えつつ屋敷を歩きます。

するとちょうど部屋から出てきたユーディちゃんと出会います。


「おっ ユーディちゃん こんにちわ」


「おおっ 幼一か ギルドへの報告から帰ってきたのだな」


「うん そうだよ」


「そうだ、こやつの名前が決まったぞ!」


ユーディちゃんの無い胸で幸せそうに抱かれているスノーラビットを掲げながら話します。


「そういえばこの子の名前決めてなかったね…」


「モフだ!」


「モフ?」

ユーディちゃんが胸に抱えていたスノーラビットを掲げながら言う。

モフと呼ばれたスノーラビットも名前を喜んでいるようだ…。

「みゅ!」


うん… あれだ当事者同士が喜んでいるなら私がとやかく言う筋合いは無いと言うもの。


ユーディちゃんの後ろよりエバンスさんが登場する。

通りががったエバンスさんにユーディちゃんが”モフ”の紹介をする。

たぶんそれだけ嬉しいのだろう、苦労? して捕獲して来た甲斐があるというもの。


エバンスさんがこちらに来る。

「幼一さん、お嬢様の名前等に関する… その、ネーミングセンスは壊滅的なのです…」


「エバンス、聞こえているぞ?」


「これは失礼しました、ユーディお嬢様」

どうやらユーディちゃんのネーミングセンスはすごく悪いという事が分かりました。


忘れないうちに当初の目的である本とかの事を聞いてみよう。

「エバンスさんにユーディちゃん 本を読める場所ってある?」


「うん? 本が読みたいのか? いいぞ」

ユーディちゃんに許可を頂けた。


「こちらの部屋にあります」

エバンスさんが案内してくれた部屋は先ほどユーディちゃんが出てきた部屋である。

ユーディちゃんの執務室らしい。


部屋の中には壁一面に様々な本が敷き詰められている。


幾つかの本を取り出し読む作業に入る…。

歴史、食文化、兵法など複数のジャンルを読んでいく。


「基本的にこの世界は、私の元居た世界に魔法と魔物、それに魔族が追加された感じの世界か…

共通点は多いが違う部分もあるのか… 難しいな…」

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