Bloody cross

~別視点 現在、街外れの教会~


これで一応は大丈夫なはずです。

床の入口に家具を置いてすぐには侵入できないようにしました。

正直防戦は自信が無いので、二人には逃げてもらいましたが… なんの因果でしょうか…。


この私の罪に対する懺悔の機会がやってこようとは。

「では忌々しいですが…」

そう言って私は床の隠し戸を開くとそこにある服と装備を手に取ります。

さすがに時が経っている為に埃がすごいですが中身はそれなりに大丈夫そうです。


「さあ 私の罪滅ぼしを始めましょうか…

マクドネル神父、どうか見ていてください」

そう言ってくすんだ色の十字架に口づけを交わす。


~別視点 現在、街外れの教会 終了~


~別視点 10年前 どこかの村はずれ~


「作戦はまず、村の西側より火矢による攻撃を弓矢部隊が行い、そのまま村に火を放つ

ここまではいいな?」


「はい」

何人かの返事が木霊する。


「反対側の防備が薄くなると思われる東側より本隊が強襲を仕掛ける

だが絶対に深追いはするな ただ釣るだけだ」


「ええっ 了解です」


「うむ その両脇である南側と北側に敵が逃れてきた場合それを鉄砲隊が攻撃を行う」


「わかりました」


「本隊がある程度敵を引き付ける間にこのカノン砲を準備する

準備が出来次第カノン砲で本体が引き付けた敵陣に対して集中砲撃を食らわす」


「その後素早く鉄砲隊は村への進軍を行うと同時に一度引き返した本隊も再度進行する」


「はい・・・」


「カノン砲でどれだけの敵戦力を殲滅出来るかがカギだ

そのためには本隊が上手く敵陣の本丸をうまく釣れるかに掛かっている」


「任せてくださいよ 隊長…」


「うまくいけばこちらの損耗は軽微で済むはずだ

では… 作戦は以上だ」


「了解です 隊長」

各部隊の部隊長が返事をする。


「では化け物共に正義の鉄槌を!

またその哀れな死ねぬ者に安らぎを!」


「おおおおっ!!!」


そう、これは10年前の出来事です。

私が元武装神父のエリート部隊である ”フェンリル” に在籍し、それも ”デッドエンジェル” と呼ばれ恐れられていた頃の話です。


今の世間ではおとぎ話と呼ばれていますが100年ほど前には世界は吸血鬼の恐怖に怯えていた時代がありました。

吸血鬼は高い身体能力、ほぼ不死身なほどの再生能力を持ち、さらには我々人類を汚らわしい者に変えてしまう力を持つそんな恐ろしい化け物ですが、それに唯一対抗できる手段として銀が有効で、彼らの持つ強力な再生能力を阻害出来るのです。


ですがそんな強靭な彼らも100年ほど前に開発された銃器や、砲などの前には歯が立たないようでごく少数のみの残党が生き残っている状態になっていました。


ですがその生き残りが再度勢力を増すと危険である、それに汚らわしい不死者が世界を闊歩するのは許せないということらしく100年経った今でもその残党、いえ、吸血鬼探しとその殲滅が繰り返されています…。

この先もずっと繰り返されるでしょう、世界中から吸血鬼が全滅したのどうかが分かるのは神だけでしょうから…。


生き残りの吸血鬼の村を今現在、焼き払っています。

汚らわしき吸血鬼どもが断末魔や命乞い、それに雄叫びを上げていますが、ですが我々にはその声は届きません。

何故かというと虫やブタなどの鳴き声は聞えますが何を言ってるか分からないですよねそれと同じです、奴が我々人と同じ言葉を喋るはずなどありえません、それゆえに何も聞こえないのです…。


そうして、体を燃やしつつ家から飛び出してくる吸血鬼を銀製のバヨネットで切り伏せますが、そのままでは再生するので心臓を確実に潰します。


カノン砲での支援攻撃が始まりました、物凄い爆発音と衝撃に伴い恐ろしい断末魔も聞こえてきます。

そこらじゅうに肉片や臓物がまき散らされ、まるで血の雨のように降ってきます。

そんな中を歩きながら私は確実に生き残った吸血鬼を処理していきます。


その時です、親子だと思うのですが母親とそれに抱きしめられたまま焼けただれた家から飛び出してきたのでそのまま母親を切り捨て、呼吸をするように自然と心臓を潰します。

その勢いで下半身が無いがまだ生きている子供の心臓を潰そうとバヨネットを振りかぶった時に胸元にあるあるものに私は目を奪われました。


その吸血鬼が血まみれですが十字架を掛けており、なんと聖句の一部を口走っているのです。

汚らわしい、化け物と教会に教えられたいた吸血鬼、そんなものが十字架を付けさらには聖句を述べ、神に祈りを捧げ、神の助けを乞うているのです…。


今まで聞こえていなかった声が聞こえます。

「神様… 助けて…」


カランと乾いた音をたててバヨネットが地面に落ちます。

この時に私の信じていたものの全てが崩れ去った瞬間でした。


「おいっ 大丈夫か?」

近くにいた仲間が放心状態である私を見かね介抱しつつ、先ほどの子供の心臓を確実にバヨネットで貫きます。

私はその子の最後の顔を一生忘れないでしょう。

その子が付けていた血まみれの十字架を乱暴に引きちぎるとそれを手に握りしめ、初めて私は涙を流しました…。


その後は、同胞である他の武装神父に攻撃を辞めるよう説得をしてみましたが、それは到底叶わぬ願いでした。

他の武装神父たちは私が吸血鬼の支配下であると認識し、先ほどまで同胞であった私に対し刃を向けてきました、その様子はまるで人ではなく殺戮の為の道具、そう、我々がこれまで化け物だと思っていた吸血鬼の方が人らしく我々こそが ”化け物” だと改めて思わせる出来事でした。


その後のことはあまり覚えていません、他の武装神父と剣を交え、体中から血を流しながら、必死で逃げ続け…。


~別視点 10年前  どこかの村はずれ 終了~


~別視点 10年前のセンチネル ~


元より生きる場所が教会しかなかった私はごく自然と、この街 ”センチネル” の教会へとたどり着いていました。

そこで、”マクドネル神父”と出会ったのは。

マクドネル神父は、血みどろでそれも武器を持った怪しい私に対して何も聞かず、疑問も抱かず治療を施してくれたのです。

「おやおや、大変だ すぐさま傷の手当てをしよう」


そう言ってマクドネル神父が私を介抱しようとした時です。

私を始末しようと追跡してきたかつての同胞である武装神父が入ってきました…。


するとマクドネル神父が一言

「君たちは神の身の前、それも教会で血を流すのかい?」


そういうと追跡してきた武装神父は無表情のまま、何も語らず姿を消したのです。

次に街の警備隊の人間が到着したようです。

「マクドネル神父! なんだか武器の持った怪しい奴が…」


「ジャック… ここには怪我人しか居ないですよ?」


マクドネル神父がそう釈明すると警備隊の人間は武器を下ろします。

「はあ… マクドネル神父がそういうのであればそうなんでしょう…

では私たちは他に入ってきた武器を持った奴らを追います」


「あんた…」

私はこの神父に話しかけます。


「何かな?

私の勝手だが、どのような人間、存在であれ教会に助けを求めたのであれば

私は全力で助けるそれだけだよ?」


それから私はマクドネル神父の元で人間らしく暮らすことになり、今に至る。


~別視点 10年前のセンチネル 終了~


どうやら入口に置いたテーブルが破壊されたようで、ゾロゾロと無法者が5人ほど入ってきました…。

「ここは教会ですよ?」

にこやかに私は告げます。


「知っている

ところで先ほど見た子供は何処だ?」

リーダー格の人間がそう答えます。

彼は先ほど私の元を訪れ吸血鬼狩りの部隊に参加してほしいと言っていた人間です。


「さあ? 無法者に答える口は持ち合わせていませんよ?」


「それにアンタがどんな人間かも分かっているが、この人数に敵うと思うのか?」

周りにいた無法者達が剣を構えます。


「私を本当に知っているのであれば、無駄であると分かっていると思いますが…ねっ」

身体能力の強化された吸血鬼を場合によれば複数相手にする私を知っていればもう少し考えた事でしょう。


話しながら剣を構えた相手に低い体勢で走り突撃を噛まします。

構えられた剣に向かうなど自殺行為だと思ったのでしょうその一瞬のスキを使います。


私は素早く構えたバヨネットの柄を回転さると、無法者の一人の腹に柄の部分で深く殴りつけます。

「シッ」


「ぐえぁぁっ…」

声にならない声を上げつつ床に沈む無法者。


「まず一人」

わざと言うことで恐怖心を煽り、冷静さを失わせます。


恐慌状態に陥った両脇にいた無法者が荒い剣筋でそのまま切りかかってくるので

両手に持っているバヨネットで受け止めそのまま力のを受け流します。


剣を受け流され、下に完全に振り下ろした状態の無防備な二人の内一人の頭を目掛け、回し蹴りを食らわし、吹き飛ばします。

「ふっ」


「ぎゃ…っ」


「二人目…」


「チッ」

リーダー格の人間が突きを私に浴びせようとしてきます。

受け流した二人の内の無事な方の一人が体制を整え、私を切ろうとして来ます。


そこそこいい挟撃ですね。


ですが無駄ですよ。

バヨネットをクロスに合わせると、私を切ろうと、剣を上段に振りかぶっている方の剣を受け止め、跳ね除けると同時にその無防備な腹に膝を打ち込みます。

「はっ」


「ぼえっ… ぐっ…」

腹を抱え崩れ落ちる無法者。


そのまま突撃してくるリーダー格の無法者の足元に素早くバヨネットを投げつけます。

その動作にリーダー格の者は一瞬怯みことで体勢を崩したので無防備な側面を蹴りつけますが以外にも

腕で防御されたようですが、ダメージは確実に入っているようです。


「ぐっ…」


「しばらくは痛みで片腕が動か無いでしょう?

ここは諦めて下さい」


「わかった… これ以上は割にあわねぇ…」


「ええ・・・ 賢明だと思いますよ」

リーダー格である無法者が戦意が無くなった証拠に剣を床に投げ落としたので私も構えを解きます。

周りに倒れている無法者達のうめき声が部屋に響きます。


「まあ、依頼は神父さん、アンタを仲間に引き入れるが目的だからな…

だが、アンタに攻撃されたから反射的に攻撃してしまったけどな…」


「私を脅して無理やり仲間にすると言う発想自体間違っていると思いますが…」


「そりゃあ 確かにな…

だが、それは少し別だ

神父さん、アンタを勧誘に来た帰り際見た女のガキだが、”アイツ” はちょっと特別でなそいつを

見つけたら殺す事になってんだ…」


「彼女ですか…」


「神父さん、アンタ… その顔何かやっぱり知ってるのか…

”アイツ” は吸血鬼の村の偉い奴の娘だ… 顔も服装も一致したからな

村の奴は一人残らず殺すのが契約だし…

それに俺の仲間もあの村では壊滅寸前にさせられた意趣返しもあるがな…」


「あなたがこうして色々話すということは…

ただの時間稼ぎですか?」


「それもあるね…

一応教会の周りにも人員は配置しておいたさ

たぶん上手く教会の外に逃げたとしても今頃は捕まっているだろうさ…」


「ではすぐさま助けに行かないとダメですね…」

そのまま、私は教会の外へ走り出します。


「神父さん、アンタ面白いね…」


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