細目で笑う人が開眼すると、とても怖い件について

はい…、目が覚めましたよ…。

予想通り頭の下に柔らかい感触があり、とても幸せな気分に包まれます。

寝ているフリを続けて頭を回転させたりして、ちょっと匂いとか柔らかさ等を存分に楽しもうと考えつきましたよ、前回は楽しむ暇もなかったのですから。


「うーんっ むにゃむにゃ…」

あくまで私は寝ているのですから、寝相で頭の位置を動かして服越しですが、ラピスちゃんの足の付け根にある大事な部分に顔が潜り込んでも仕方がないと思うのです。

ついでに人は起きる時とか寝ぼけているに手を動かす時がありますよね? それの応用でラピスちゃんの体を触りたい放題では無いのでしょうか!? こんなことを思いつく私は天才なのでしょうか?


親父とロリコンさんの勝負 ロリコンさんの勝利!


白々しいですが、適当に寝言を言いながら頭を回転させます。


「うん?」

なんだか感触が… あれです、柔らかいのですが何か違う柔らかさな気がします。


「あれ…?」

目を開けると、私の頭の下にあるのはラピスちゃんの為に買った服が入った袋でした。

なんということでしょう…。


絶望とはこの事を言うのでしょうか?


周りを見回してみると何時ぞやのギルドのロビーのようで、ラピスちゃんが居ません。

探してみると、どうやら受付で私と同じような作業をしていました。


「あっ」

普通に作業が終わったらしくこちらを振り向くと私が起きたことに気が付いたのか小走りに走ってくるラピスちゃん。


「ごめん、心配を掛けたね ラピスちゃん」


「もう、お兄ちゃんがまた、倒れたから、ビックリしたんだから!」


ごめんとばかりに頭を撫でてあげる。

「そうだっ お兄ちゃん 依頼達成おめでとうだって

それと5回依頼を連続達成すると、一つ上の難易度の依頼を受ける為の

昇格試験を受けれるんだって」


「おおっ それはいいな

お金もそれなりに必要だし、いずれは昇格試験を受けないとダメかもね…

いろいろな依頼を受けれるようにしておけば困らないと思うから、でもまあ、

この先も危険が少ないと思う簡単な依頼を受ける予定だけど」


「これでギルドの依頼報告は終わりだって

何か新しい依頼でも見てみるの お兄ちゃん?」


「うーん どうしようかな?

今は別にしたい事もあるし、ドラゴンさんの件もあるからあまり時間が掛かったり

長距離移動する系の依頼は無理だからね…

あっ 今思い出したけど ラピスちゃん

ドラゴンさんの件の話をしたっけ?」


「えっ?

ドっ ドラゴンさんって… その…っ」

トラウマになってるのかオロオロしだすラピスちゃんマジかわいい、ぺろぺろしたいです。


「あー ラピスちゃんはすぐ気絶してしまったからあんまり覚えてないだろうけど

あの後にアンバーが私のことを親だと勘違いしたのは話したと思うけど」


あの時の話を簡単にラピスちゃんに説明する。

「週に1回会いに行くことを条件に

ドラゴンさんは私達を無事に帰してくれたんだ…。」


「そうだったの… ごめんなさい…

わたし… お兄ちゃんにおんぶしてもらってたんだ…」

後半の呟きは小さく言っていたようでよく聞こえませんでしたが、まあいいでしょう。

ラピスちゃんの少し顔が赤いのですが、大丈夫でしょうか?


「ラピスちゃん、なんだか少し顔が赤いけど… 大丈夫?」


「えっ… ううんっ だいじょうぶだよ

お兄ちゃん

ほらっ げんきっ げんきっ」

その場でぴょんぴょん跳ねて元気アピールするラピスちゃん。


確かに元気そうで、風邪でもひいたのかと少し心配しましたがそうではなかったようで安心しましたよ。


今度は神父さんの居る街外れにある教会へ向かいます。

向かう途中に魔法関係のショップが無いか見てみますが、探し方が悪いのか意外にも見当たらず住宅街に入ったようでお店の類が無くなりました。


魔法関係以外に書籍関係のお店とかも探しましたがありませんでした。

もしかすると、時代によれば印刷技術と製本自体がまだまだ未熟で本自体が非常に珍しく高価であるという話を思い出したので一部の貴族とか存在するならば王都などの城下街じゃないと手に入らない可能性浮かび上がってきました。

この世界の常識、歴史を調べたかったのですが仕方がないです、お屋敷に帰ったらユーディちゃんに聞くかエバンスさんに書籍とか無いか聞くとしよう。


「神父さんが教会に居るといいけど」


「うん… 居なかったら少し待ってみる?」


「そうだね そうしようか」


ラピスちゃんと喋りながら歩くと時間の経過がすごく早いですよ、もう街外れにある教会に到着しましたよ。


「すみませーん 神父さん」

そう声を掛けながら教会の中へ入ります。


何やら中で話し声が聞こえます…。

先客がいるようなので入口の方にある椅子に座り待ちます。


しばらくすると、奥から二人組の若い男と神父さんが奥から出てきました。

二人組の若い男が通り過ぎる時にラピスちゃんを少し見て、表情が少し変わったのですが、まさかラピスちゃんが可愛すぎるのが原因か黒髪の珍しい東洋人である私と居るからでしょうか、それとも単純にロリコンの同志なのでしょうか…?


「二人とも久しぶりですね

どうしました?」


「いろいろ神父さんにお世話になったおかげで

この街で暮らせることになったのでその報告とお礼に来ました」


「お世話に なりました」

ラピスちゃんもしっかりとお礼を述べます。


「幼一君、ラピス君 それは、それは喜ばしいことで、

それのお礼に来てくださるとは、わざわざありがとうございます

何ですからお茶でも飲んでいかれますか?」

神父さんがにこやかな笑顔でお茶を進めてくれるのでごちそうになろうと思います。


「神父さん

それとこれを受け取って下さい」

そう言って神父さんに白いパンと黒いパンの両方を手渡す。

白いパンと黒いパンの両方を買ったのは訳があり、神父さんのような教会関係者は質素な暮らしを自らに課しているというのを聞いたことがあるので、本当はおいしい白いパンを贈りたかったのですが念のために以前出て来た黒いパンも買っておいたのです。


「これは…」


「お世話になったお礼の品です、初めての給料といいますか

得た報酬で買ったものです」


「ありがとうございます」

以外にも神父さんは両方のパンを素直に受け取ってくれた。


なんだか意外そうな顔を私がしているのを神父さんに見られたのか説明してくれます。

「幼一君、何だか不思議そうな顔をしていますね

私がお礼の品を素直に受けたったのを…

実はですね 教会では質素な暮らしをするという自らに枷をかしているのですが、

人々から物を貰うとかに対してはその制約が無いのですよ

まあ私の場合はせっかくの気持ちを断りたくないという気持ちも大きいですが」


日本のお坊さんや修行僧とかと違って意外に緩やかな制約だなと思います。

「そいうことだったのですね」


「どうぞ 幼一君にラピス君」

そう言って神父さんより席とお茶を進められる。


少し街を歩いた加減でのどが渇いていたのでちょうど良かったです。

「神父さん、ありがとうございます

ちょうど、のどが渇いていたのでありがたいです」


「ありがとう…」

ラピスちゃんもお礼を述べます。


「急に訪れたりしてすみません」


「幼一君、そんな大丈夫です、教会は何時でも開いてますので気を遣う必要は無いのですよ」


「きゅーーー」

少し弱弱しいですがアンバーの鳴き声が聞こえました。

たぶんですが長時間袋に入れられて暇になったのでしょう。


「幼一君、なんの声ですか?

なにかの生き物のようですが…」


「この子です」


アンバーをに見せると神父さんは驚いた顔をする。

「この子は… まさか!

ドラゴンの子では!? そんな…」


「そうです、ドラゴンの子でいろいろと訳があり

私を親と勘違いしたようで一緒に居るのです…

それと、この子の名前はアンバーって言います」

さすがは神父さんです、書物とかでドラゴンを見たことがあるのでしょう、ユーディちゃんも書物で見たとか言っていた記憶があるので。


「アンバー君か… 幼一君、この子の分も何か用意しよう!

それで何が食べれるのかな?」


「それが何が食べれるかわからなくて普通の動物のように

人肌程度に温めたミルクを与えているのですが、それが正解なのかわかりません」


「ミルクか… 少しあったと思うから温めて持ってくるね」


「催促したようで、すみません」


「大丈夫だよ 幼一君

もう一人居たお客さんに気が付かない私のほうが悪いのですから…」


そう言って神父さんは奥に置いてあった牛乳の入った瓶を取り出す。

「あったあった… 少し待っててくださいね」


「ラピスちゃん この後どうする?」


「うん? 私はもう少し街を見て回りたいかな?

来た時はいろいろ大変だったから どんな施設とかあるのか分からないから」


「そうだね… 私も街の地理を入れておいて損はないと思うからね…

それに少し調べものをしたいからちょうど良かった…

まあ調べ物の件はユーディちゃんかエバンスさんに聞く方が良いかもしれないけども」

ルビーの件を何とかしたいので吸血鬼伝承に関係する資料とか有瑠ちゃんに言われたように魔法や錬金術に関する資料を調べたいのだ。


「調べものだと私も手伝うよ?」


「ありがとう、でも少し大変かもしれないし

見つかっても… その…」

今更ながら気が付いた、私が勝手にルビーの事をかわいそうだと思っていたがルビー本人の意思を確認していないし、一番大事な点であるラピスちゃんがルビーの存在を知らないし点だ。


昨日の夜にルビーの件を何とかしたいと思ったがその時は "何とかしてあげたいという考え" だけが思いつたおかげか興奮してラピスちゃんの意思、ルビーの意思の事を完全に失念していた…。


ラピスちゃんの両親は吸血鬼のハーフである点をラピスちゃんに話したのだろうか… たぶん今までの様子を見る限り話していなかったと思う。


今のラピスちゃんに君は本当は吸血鬼のハーフで別人格といいますか別種族?として ”ルビー” という名の子が存在すると言っても通じるだろうか… 仮に信じたとしてラピスちゃんはどうなる?


話していい真実と優しい嘘はあるが… この場合何が正解なのだ、ルビーは一生涯、一番本当に身近な存在であるラピスちゃんの影として生きていくのか… 私の勝手だがそんなのは嫌だっ


でも、私の勝手で… ラピスちゃんの今を壊すことは…。

思考が途中で中断させられる。


「お兄ちゃん… そんなに思いつめた顔をしてどうしたの?」

いつの間にかラピスちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「…うん 妖一君、何か悩みがあるのであれば私が相談に乗るよ

それに相談では無く話をするだけでも十分悩みは軽くなると思うけどね…

無理にとは言わないよ?」

神父さんはそう言いながらアンバー用に用意したミルクをアンバーの前に置いてくれる。


「ラピスちゃんに… 神父さん…

ありがとうございます… もう少しっ もう少しだけ待ってください

私だけの問題では無いので」


「お兄ちゃん… ”また” 一人で何かで悩んでるの?」


「ラピスちゃん ごめん これだけは本当に私一人では言えない問題なんだ…」

本来であれば今まで一緒にいたラピスちゃんに ”私一人の問題ではない” と言うことすら本来であれば駄目であるハズなのだ、ある意味当人であるから…。


「じゃあ いつか話してくれる…?

それにどんな相談だって私は… 大丈夫だから…」


そうは言ってくれるがルビーの意思もあるゆえに容易に約束すら出来ない。

あまりの悔しさに涙が出そうです。


「それも… ごめん」

ラピスちゃんが明らかに落胆した顔をしてますがここは心を鬼にして耐えます。


「お兄ちゃんに… 相談されないのが…

一番… 悲し…いよ…」

私の独り善がりの勝手な思いがこの状況を生み出した、なんて愚かなのでしょう。

後悔しますがそれはもう遅いです。


その後、しばしの沈黙が場を包み、せっかく神父さんの入れてくれたお茶を啜りますがその味も今はわかりません。


神父さんも先ほど私に待ってくれと言われた手前上手く声を掛ける事が出来ず困った表情をしている。

ですが、この沈黙を破ったのは神父さんでした。

「んっ…」


神父さんが突如顔を上げ、入り口の方を見ます。

来客でしょうか…? 見ると扉は開いてませんが…。


「幼一君にラピス君、どうやら無作法なお客さんが来たようだ…

少しすまないね…」

そう言って神父さんはテーブルを蹴り上げてひっくり返す。


神父さんの顔を見るといつもは細目だが笑顔の似合う人だと思っていましたが、

その ”細目で笑う人が開眼すると、とても怖い件について” というのを私は身をもって知りました。


「うわっ」


「きゃっ なに!?」


テーブルを神父さんの居住区である出入り口の方に素早く持っていくとバリケードのようにする。

私とラピスちゃん、それにアンバーを抱えてしゃがむ。

「二人ともしゃがんでなさい」


「どっ どういう…」


「きゃっ… えっ…」


「きゅーっ きゅーっ」

三者三様で反応するがそれに構わず神父さんは行動を続ける。


そういって神父さんはテーブルのあった床から隠された取っ手を引っ張り地下への入り口を開けるとここに入るように言う。


「良いから ここに二人とも入るんだ… 壁に魔光石があるからそれを手に、暗いけどまっすぐ行けば教会のはずれにある出口に出られるからそうしたら

そのまま振り向かず街のほうへ行くんだ いいね!」

非常に焦った感じでそのまま入口を閉めてしまう。

すぐさま何か重たいものでも乗せられたのか入口が開かない…。


仕方がないのでアンバーを抱えたまま、片手で儚げながら光っている魔光石を手に取る。

さすがに地下道なのかくらいがこの魔光石の明かりのおかげで見えないこともない。


「まずは出ようかラピスちゃん…」


「うん… 何だったんだろう…?」


「きゅーう」


「無作法なお客さんと神父さんは言っていたけど… 賊とかかな?

でも壁があるし…」


「でも裏路地で…」


「あー… うん 確かに居たね」

そう言いながら私とラピスちゃんは暗い地下道を歩いていく。


神父さん無事で居てください、ただそれだけを願いつつ道を急ぐ。

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