○更に5年後
「じゃあねクロス、父さん、学園に行ってくるよ。
正月とかは帰ってくるようにするよ」
今日から兄は学園に行く。
全寮制のため、ほとんどの時間学園で過ごすことになるそうだ。
「ああ、ダーク家の次期当主はお前なのだ。
わかっているな?」
「はい」
父はいつも兄に厳しい。
僕ほどじゃないけど、僕とは違う種の厳しさだ。
兄が家を出て行くのを見送った後、僕の修行が始まった。
しかし僕は魔力を出すことが出来るようになるまで約半年かかり、今現在は魔法も何故か全く出来ないでいた。
せっかく魔力がほぼ無限なのに意味がなく、疫病神がくるまでのタイムリミットも近くなっているのでかなり焦る。
あの父は僕を昔の兄と同じ、いや落差がある分それ以上に酷いと感じる扱いをしてきた。
まあ魔法がいつまで経っても使えない僕が悪いんだけど。
だけど体術は5歳からイメージトレーニングを毎日欠かさずやっていたからか、かなり自信がある。
父は匙を投げたのか僕とマンツーマンで修行することはなくなり、ブラウトさんと体術の修行だけ2日に1回行っている。
休憩は大事との理由でブラウトさんが来る日以外修行部屋を使うことは出来なくなった。
魔法の練習も念のため禁止されている。
食事を終えた僕は今日はブラウトさんが来ないのでハンモックで日向ぼっこをしながらイメージトレーニングをしていた。こんな日はいつもなら兄達と遊んでいたが今日からそれもない。
「兄さんがいないと少しだけさみ「あっ見つけた!」……はぁ」
「クーロースーあーそーぼー!」
兄達の『達』は兄の友『達』だ。
僕も一緒に遊んでいるなら僕も友達だって?
精神年齢の低すぎる子供と対等になれると思う?
それに僕は彼らに嫌われてるよ。
だから、もうこれから一緒に遊ぶことはないと思っていたんだが……
めんどくさいことに僕の名前を呼んだ彼女は兄と一緒に僕と友達の仲を取り持とうと奮闘した子だ。
何がめんどくさいかと言うと既にうるさいのに無視したらよりうるさくなるからだ。
「ねーえー!クーロースーあーそーぼー!
あれれぇ?もしかして聞こえないのかなあ?
クーロースー!」
「うるさいなあ!僕は日向ぼっこの最中なんだ!」
「プフッちゃんと聞こえてるじゃん!それに日向ぼっこって暇ってことでしょ?なら遊ぼうよ!」
「もう兄さんは学園にいっていないぞ!
なら、僕が行く必要はないじゃないか!
お前は早く友達のとこに行ったらどうだ!」
「え?レイトが今日から一緒に遊べないのは知ってるよ?
そ れ と!私の名前はルーチェだよ!お前なんかじゃないよ!あっルーって呼んでくれてもいいんだよ?」
本当にめんどくさい。
こんなのが僕の許婚なんて……
僕は清楚で物静かな人がいいのに……
というか、精神年齢的に本当に結婚しちゃったら僕って相当なロリコンってことじゃん。
「とにかく僕は日向ぼっこで忙しいから、さっさと友達のところに行けよ」
「クーロースー」
声が近づいて来たのを感じ、声の方を向くと木をよじ登り片手で掴んでいるアホがいた。
「って!何勝手にハンモックに入って来ようとしてるんだよ!1人用だから危な「きゃあっ!」言わんこっちゃない」
ハンモックが壊れ落ちていく僕とアホ、僕は仕方なく手を引っ張り抱きつき背中から地面に落ちた。
「あれ?痛くない?」
「早くどいてくれない?」
アホは自分の状況を理解し赤面して僕から離れた。アホのくせにませてんな。
「あ、ごめんクロス!助けてくれたんだ!ありがと!大丈夫?傷ない?」
「大丈夫」
「じゃあ一緒に遊ぼう!」
「なんでそうなる!」
「だってハンモック壊れちゃったじゃん!
これで日向ぼっこも出来なくなったしいいでしょ?」
色々断る理由を考えたが、もう何を言っても無駄だと思った。
「わかったよ遊んでやるよ」
「やったあ!」
はあっこいつと話すと誰にも晒してない素の自分というものが出て口調も荒くなってしまう。
子供相手になんてざまだ。
「じゃあ行こっか!」
アホは僕の手を引っ張って走りだした。
僕は引っ張られるがままに移動した。
◇◆◇◆◇
少し時は遡り王城から徒歩10分の公園に赤、茶、青、緑と色とりどりの髪色をした子供達がいた。
全員が七大貴族で件のレイトの友達だ。
年齢は奇跡的に全員近いので誕生日パーティーなどで仲良くなった。
ちなみにクロスも参加してない。一度行ったときに媚へつらえが酷くて、もう行きたくないといったのが聞き入れられたからだ。
もちろん、それを快く思わない貴族は沢山いるが七大貴族で王族との婚約が決められているため何も言えない。
「なんでルーチェはあんなやつを呼びに行ったんだ!
レイトが学園に行ったんだからワザワザ一緒に遊ぶことはないだろう!」
「ゴ、ゴウ君そんなに怒鳴らないでよ」
「なんだよアリア!」
「ひっ!」
「こらゴウ!アリアが驚いちゃったじゃない!
それにクロスはルーチェの許婚だし、仲間外れは良くないわ!確かに変に大人びてて嫌なやつだけど」
「クソ!なんであんなやつがルーチェの許婚なんだよ!」
「あーゴウが嫉妬してるー。
そんなにルーチェが好きならー告白でもすればいいのにー」
「な、なな何を言ってるんだウィル!?」
「あははー動揺しすぎだよー」
「このやろう!」
「ははっここまでおいでー」
「2人とも止めなさい」
「ダ、ダイヤちゃんもみんな待ってよぉ」
こうして4人は子供らしく走り出した。
◇◆◇◆◇
「ついた!ってあれ?
ねえアーちゃん何で鬼ごっこやってるの?」
「え、えっとね。そ、そのぉ」
「ねえ、なにがあったの?」
僕をチラチラ見るアリア。
なるほど、大方僕を呼びにきたアホの話でもしてくだらない言い争いにでもなって今に至ったのだろう。
「はあっ、どうせ僕が原因で喧嘩でもあったからこうなってるんだろ?」
「そうなのアーちゃん?」
「う、うん」
「じゃあ私が止めなきゃね!」
それを言ったアホは3人に近づき何か言い合った後、4人仲良く戻ってきた。アホでも王族なんだと感心した。
「じゃあ今日は何して遊ぶ?」
そして何事もなかったかのように遊ぼうとする能天気さも流石だ。
「あっそういえば俺魔法を覚えたんだぜ!」
そう高々に言い手を前に出すゴウ。
その手の先にはアホが……
「見てろよ!『ファイアボール』発動!」
ボッと火の玉がアホを襲う。
「あっしまった!」
「馬鹿か!」
僕はアホの腕を掴み自分に引き寄せ何とか避けさせた。
「きゃっ!あ、ありがとうクロス!」
そのままファイアボールは公園外に出そうになったと思ったら消滅した。魔力が足りなかったからだろう。
「コントロール出来ないなら魔法を使うな。
というか考えなさすぎ、僕がいなかったらコイツの顔に一生治らない傷を作ってたかもしれないんだぞ。
それに魔法はむやみやたらに国内で使うなと教育は受けなかったのか?指定された場所以外での魔法発動は緊急時を除き立派な違法行為だぞ。
まだ子供だからって許されると思うなよ?
確かに子供だと罰は軽くなるが、軽くなるだけだ。懲役1週間だ。いや、最悪王族であるコイツを傷つけるとこだったんだ。もっと罪は重k「待ってクロス!」……なんだ?」
僕の説教をアホが止めた。
「グスッグスッ俺だってぇ俺だってぇ……」
子供相手に少し周りが見えてなかったな。
ゴウは既に鼻水ダラダラで汚く泣いていて、なぜだかアリアもふるえてる。それと他の2人は何故かニヤニヤしててむかついた。
アホは……アホらしく顔を少し赤らめ僕を見ていた。
「もう、もういいよ!ゴウは十分反省してるよ!
それに私達が何も言わなければ違法にもならないし私はクロスのおかげで無事だったから全然気にしてないよ!
そ、それよりクロス本当にありがとね!
私のためにそんなに怒ってくれて!」
「なっ!誰がお前みたいなアホのために!?」
「そうかそうかークロスは私のためならあんなに
「だから誰がお前のために!
それとアホにアホと言って何が悪い!」
「クロス嘘ついてるのバレバレだよ嘘つく時に癖があるもん!そ れ と、残念でしたあ!私はクロスがさっき言った通り王族だから不敬罪に出来るんだよ!悔しかったら訂正しなさい!」
「なっ!」
こういうことだけ頭が回るから、このアホは苦手だ。
「でも大丈夫!ゴウの事を何もなかった事にしてくれるなら私は何も言わないよ!」
「ちっ、わかったよ」
「うむ!よろしい!
よかったねゴウ!」
そうしてゴウに近づくアホ。
しかし急にゴウは僕に指をさしてきた。
「うるさい!俺だっていっぱいいっぱい頑張ったんだ!
お前なんかに負けないぞ!」
そう捨て台詞を吐きゴウは走ってどっかへ行った。
「あれ?どこ行っちゃうんだろ?」
「あんなもの見せつけられたらねぇ」
「う、うん」
「ゴウのことは気にしないで5人遊ぼー」
「え?んーまあいいや、じゃあ何する?」
「じゃーかくれんぼでもしよー。
鬼はクロスねー」
「うん、いいね!
でもクロスは鬼でいいの?」
「うん、別にいいよ」
それから様々な遊びをして日が暮れた。
「あれ?もう暗くなってきたから帰ろうか!」
「そうだな」
帰り道を少し歩くと交差点に出た。
「じゃあ私達はコッチだからまたね」
「ま、またね」
「ルーチェまたねー」
「うん!またね!」
と、ダイヤ、アリア、ウィルは僕とアホとは別の方向へ歩いていった。
「あー今日はゴウがいなかったけど楽しかったね!」
「そうか?僕としては力加減をしないと遊びにもならないからあまり楽しいとは思わなかったな」
「そうかクロスは私達が遊んでる間も修行してるもんね!ご苦労様です!」
「そんな労いはいらないよ」
「素直じゃないなー……言ってなかったけど今日からクロスと遊べなくなるんだ」
「……へぇ」
急に空気が変わり反応が少し遅れてしまった。
「私ね明後日から修行が始まるの」
「そうか王族といえども自分を守るためにも力が必要だからな」
「それでね、修行が始まってから学園に入るまでクロスみたいに2日に1回しか休みが取れなくてね。
丁度重なっちゃうんだ」
「僕としては今後遊びの誘いがなくなることはいいことだな」
「だめだよ!みんなと遊ばなきゃ!」
「今日遊んだ時間だって修行に使えたんだ」
それにまだ疫病神を殺す方法を思いついてない。普通にやっても主人公補正で返り討ちだ。
「……本当にクロスは修行が好きなんだね」
「別に好きじゃないよ」
「そうなの?じゃあ何のために?」
「特に理由はないよ」
疫病神を殺せるほどに強くなりたい。
ただ、これは誰にも言うつもりはない。
「えーそうなのー?
私は目的あるよ?それがあるからクロスと遊べなくなっても修行を頑張れるんだと思うんだ!」
「じゃあ精々その目的のために頑張るんだな」
「うん!クロスの横にずっと居られるように頑張るね!」
「えっ?」
「城についたからバイバイ!
次に会えるのは多分学園の入学式かな?
それまで頑張るからじゃあね!」
そういってアホは走っていった。
「それと家から離れてるのにここまで来てくれてありがとうね!」
僕も帰ろうと踵を返し少し歩くと後ろから、そんな声が聞こえた気がしたが無視して僕は進んだ。
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