あとがき 2

 プレゼントのあとがき。後編は、ネタ元やこぼれ話を中心に。もうちょいお付き合いください。


◇ ◇ ◇


 わたしが短編を仕込む場合、頭からではなくラストから仕込むことが多いんです。オチが決まってて、それに向かって盛り上げるっていう方法ですね。本話も、そういう書き方をしました。見ての通り、オチの元ネタはユーミンの『恋人がサンタクロース』ですが、本話はそれへのオマージュではなく、単なる素材の一つとしてしか使っていません。


 あくまでもテーマは、プレゼント。そして、そこにいろんなものをごちゃごちゃ突っ込みました。中には、おやあ?っていうものも入っていたかもしれません。でも、エピローグのところでルーテスに毒づかせたように、誰にでもぴったりの万能のプレゼントなんかありゃしませんがな。それよりも。プレゼントという、自分を切り取って人に贈るという行為がどういうことか、その意味を読者のみなさんにちびっと考えて欲しかったんです。

 もちろん、べき論が大嫌いなわたしですから、偉そうに何かを主張するつもりはありません。わたしは、神様でもサンタクロースでもありませんので。べき論はぶちかましませんでしたが、その代わり飾りつけは派手派手にしました。


 どういうことか?


 『プレゼント』という単語には、本当はいくつもの意味があるんです。たとえば……。


 贈る、もしくは贈り物という意味。

 在る、存在するという意味。

 何かを示す、提示するという意味。

 そして、過去と未来の間に挟まっている『現在』という意味。


 わたしは、プレゼントという言葉の持つ多重性を逆手に取って、ツリーにそれらをこれでもかとぶら下げたんです。

 贈るもの、贈られるものの形とその意味。自己の存在、独立性の意味。意思や信念の表現、自己主張と自己犠牲の意味。過去と未来を照らし合わせ、現在の自分をどう見るか、考えるか。それぞれに、個性のあるオーナメントになっていたんじゃないかと思います。


 話中でプレゼントという言葉をたくさん使いましたが、その意味も中身もどれ一つとして同じものはない。わたしは、そう思っていますし、みなさんにもそう思っていただければ嬉しいなあと。

 言葉は、そのまま伝わらない。コミュニケーションの道具としてはひ弱で、制限が多い。確かにその通りなんですが、その一方で『プレゼント』というたった一つの言葉が、これほどの想像力を連れてきてくれるんです。わたしは、そういう想像の力を信じたい。大事にしたい。想像の楽しさ、おもしろさを、このお話の中で存分に解き放ったつもりです。


◇ ◇ ◇


 本話では、いろいろな要素を組み合わせるために伏線をたくさん仕込みました。


 最初の空のギフトボックスは言うに及ばずですが、それ以外にもいっぱいね。読み終えたあとで、わたしが話中にこっそり仕掛けたものを探して、その役回りを考えてみてください。二度、三度、楽しめると思います。


 そして、巧、いおり、中瀬さんと工場の職人さん、ルーテス、マスター……。彼らが、どんなプレゼントを誰にどのような想いで贈ったのかを、もう一度確かめてくださると嬉しいです。もしかしたら。みなさんの想像の力によって、そこからわたしが仕込んだ以上の大きなプレゼントが現れるかもしれません。


◇ ◇ ◇


 最後になりましたが、本話を最後まで読んでくださったみなさんに、あつくあつくお礼申し上げます。


 みなさんに読んでいただくこと。それが……間違いなくわたしにとって最大で、もっとも嬉しいプレゼントですから。


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