あとがき 1
プレゼントをお読みいただき、ありがとうございます。わたしのプレゼントは、いかがでしたでしょうか? わたしの書いたものの中では、比較的甘めで直球系だったと思いますが。え? ウソつくな? これのどこが直球だって? いひ。
読後の余韻を損なわないようにあっさりのあとがきにしようと思ったんですが、このお話を書いてる間すっごい楽しかったので、ちょいとメイキングを余興で載せとこうと思います。わたし自身の備忘録を兼ねた余興なので、お時間のない方はスルーして下さってかまいません。
本話。わたしは執筆前に一切紙ベースのプロット(あらすじ、筋立て)を作りませんでした。伏線張りまくりでありながら、一発どん!……だったんです。でも、決して筆任せの書きなぐりにはしなかったつもりです。そのあたりのことを、つらつらと。あとがきと言っても、書きたいことがいっぱいあるので前後編として二回に分けます。前編は、本話のコンセプトのお話です。
◇ ◇ ◇
まず。本話の構想は、とんでもないサンタがいたら面白いだろうなあというところからスタートしました。現実に、とんでもないサンタ……いやサンタ服を着たろくでなしは実在しますが、そういうことじゃなくて。プレゼントを配るサンタが、その仕事の意義に疑問を抱いたらどうするだろう? わたしの発想は、そこからするすると羽を伸ばし始めました。ですから、本話のカギは実は巧ではなくルーテスなんです。きゃつは、最後の最後にちょろっと出てきただけなのにね。
読者のみなさんが巧一人だと思って見ていた人物像が、実はルーテスとの二人羽織だったと分かれば、巧の会話、行動、思考の意味が違って来ます。イブのでっかい爆弾は、そのためのものなんですよ。
プロローグのところで書いたように。プレゼントは、あげて当然も、もらって当然もありません。それじゃあ、プレゼントってなに? 何のために贈るの? ルーテスの抱いた疑問も、最初はそういう小さなものだったはずです。それが徐々に、プレゼントを配るだけで内容に関われないことへの不満にまで膨らみました。
そして自己犠牲や奉仕の意識の低いルーテスは、サンタとしては明らかに落第生。でも、あげたのに見合う分だけ自分も欲しいっていうルーテスの感覚は、人間としてはとても当たり前のことだと思うんです。自分を削って捧げても、必ずしもプレゼントとして受け取ってもらえない。いや、それだけじゃありません。プレゼントがもらえることをまるで権利のようにふりかざし、好意を雑巾のように扱う人が大勢いることも悲しいかな事実です。そういう現実があるということを、ルーテスはしっかり見据えているんです。
でもルーテスは、サンタというものを固定観念で捉えません。通り一遍のサンタなんか嫌だと言っても、だからと言ってサンタになるのを諦めるってことにはならないんです。どうしても自分が理想とするサンタになりたい。そういうサンタ像を創りたい。だから何度落第してもトライを繰り返します。その頑固さに呆れているマスターも、ルーテスの姿勢を全否定はしていません。それはエピローグで分かるかと。
無償の好意や善意をプレゼントとして与え続けることで、人間の良心を引き出そうとするのがマスターだとすれば。与えた分だけもらえるんだよっていう現実論を正直に主張するのがルーテス。そのどちらかだけが正しいというわけではないでしょう。
ただ。ただ、ですね。ルーテスは下界に落ちてから、勉強をサボって『作る』ことだけに熱中しちゃいました。国語や算数の授業中に工作やってるようなもんだわさ。そらあ、おもちゃで無邪気に遊んでるこどもと一緒です。マスターが雷を落とすのは当然のことでしょう。そういう強いエゴと無邪気さの同居が行き過ぎると、社会不適合者への道をまっしぐら。中瀬さんの巧への警告通りで、みんなに疎まれて破綻してしまいます。
ですが、巧は決してルーテスそのものではないんです。巧はルーテスの影響を受けて作ることにこだわる一方で、周囲の人たちからの好意や愛情を素直に受け取り、コミュニケーション能力や社会性をきちんと備えてきました。感情表現にサンタならではのリミットがかかってるだけですね。いおりとのことがあってもなくても、いずれは感情表現の幅を広げてルーテスの支配から逃れたんじゃないかと思います。
でも、巧がルーテスから自立した途端に独りきりになってしまうのは、あまりにもかわいそう。いおりは、ルーテスからの卒業祝いのためにマスターが用意した、巧にぴったりのプレゼントだったのかもしれません。
◇ ◇ ◇
舞台設定について少し。
本話の主要な舞台となったのは二か所。巧の勤めている
頑固なルーテスの支配下にある巧は、何もかも『作る』ことで自分を駆動しようとします。そのアクションがあまりに不自然に映る勤務環境だと、最初からネタがばれてしまうんです。ごく普通の会社員をモデルにして巧を描くのは、とってもしんどいんですよ。作ることが不自然でない職場であればそれを回避できます。だから巧は工員であり、工場勤務だったんです。
そして本話では、製造業の現場風景やトラブル、職場内でのベタなやり取りをみっちり書き込んできました。それは、巧のクソまじめさを描き出すのが主目的ではありません。実は、中瀬さんをしっかり描写するためなんです。
ルーテスの影響で、巧の性格にはあちこちに歪みがあります。その歪みの印象は、本人、いおり、中瀬さんでそれぞれ違います。本人には自他の評価のズレ。いおりは恋人として見ようとする時の違和感で、いずれも感覚的なものです。しかし中瀬さんによる歪みの指摘は、親や上司としての心配が
なんか違う、しっくり来ない。そういう巧といおりの感覚的な違和感だけだと、なかなか話が前に進みません。第三者の立場から巧に直に強い突っ込みを入れられる存在がないと、とても二十五日間ではオチが付かないんです。巧が心酔し、工場を実質仕切ってる中瀬さんをきちんと描き出すことで、その発言に重みを与え、話を加速してもらったということなんです。
ルーテスの枷が外れた後に巧ががたがたっと崩れないことは、中瀬さんとの最後のやり取りを見れば分かります。中瀬さんをきちんと作り込んでおくと、そういうフォローも出来るんです。実においしいキャラですね。
職場の描写を厚くしたもう一つの理由は、巧の現実をしっかり描くことで夢物語が読後にすぐ霧散しないようにするためです。それで、ラブストーリーでありながらいおりの登場が遅かったんです。
最初から現実を踏み外したふわふわのストーリーにすると、焼きたてスフレみたいなもので、余韻がすぐに冷めて萎んでしまいます。ですから、これでもかと現実要素を突っ込んでぐつぐつ煮込み、日持ちするようにかーなりしょっぱくしたってわけです。なのでこの話、ラブラブハッピーよかったねという単純なオチでは決してありません。感情表現がまだまだアンバランスな巧と、寂しさが募ると男依存が激しくなるいおりの今後は、中瀬さんの最後の警告にあった通り決して平坦ではないでしょう。いおりの両親も付き合いに猛反対するでしょうし。
それでも心の交流を愛情にまで高めた二人は、どんな難局もプレゼントを交換し合いながら乗り切ってくれるんじゃないかと。ハッピーエンドではなく、ハッピースタートの話にしたい。わたしはそういう願いを込めて二人を造形し、この話を書いたつもりです。
一方で、工場の作動音に紛れてしまって、巧といおりの恋情や仲が進むステップの描写が不十分だったかもしれません。でも、ルーテスのブレーキを、ぎりぎりまでかけておかないとならないので。まあ、そこはクリスマスということで、物足りないところはサンタさんからもらってください。
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