DAY 24
そして、クリスマスイブ。と言っても僕には仕事があるから、イブだからという特別のことは何もない。
「今日は、早出だよね?」
「うん。今のところトラブルで遅れた分はちゃんと取り戻してるから、たぶん定時に上がれると思う」
「七時過ぎ?」
「そのくらいかな。いおりのバイトは?」
「今日は入れてないの。シフトから外してもらった」
「そっか。じゃあ、落ち着いてパーティーが出来るね」
「うん!」
「楽しみにしてる」
「わたしもー!」
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」
戸口で、ぱたぱた手を振るいおりの方を振り返って。僕はそっと手を掲げる。今日で、何もかもが変わるってことはないだろう。でも、今日を確かなきっかけにしたい。ずるずるとなし崩しに、ではなくて。僕の中で出すもの、片付けるもの、それをきちんと整理して。いおりと向き合うことにしよう。
◇ ◇ ◇
「よう」
「あ、中瀬さん。おはようございます」
「どうだ?」
「機械ですか?」
「いや……あっちの方さ」
中瀬さんが小指を立てた。
「ははは。そうですね」
親がいない僕にとって、中瀬さんは間違いなく親以上の存在だ。僕のことをずっと心配してくれてるし、いっぱいアドバイスをもらってる。僕は、中瀬さんにだけは隠したくなかった。
「彼女の返事次第ですけど」
「ああ」
「僕は……まだ居て欲しいなあって」
「惚れたか?」
「はい!」
にっ。中瀬さんが顔をくしゃくしゃにして笑った。
「じゃあ、がんばれっ!」
ばしっ! 力一杯僕の背を叩いた中瀬さんは、高笑いを響かせながら、愉快そうに歩き去った。決めたらぐらつくな! さっきのど突きは、中瀬さんなりの僕への闘魂注入だろう。
「よおおおっし!」
僕もがっつり気合いが入った。
◇ ◇ ◇
いおりには、ボーナスが出たからイブくらいはけちらないで豪華にやろうよって言ってある。食材は自由に買っていいよって。
「ただいまー」
帰ったら、部屋中にすっごいおいしそうな匂いが充満してて、お腹がぐうぐう鳴りだした。ううう、たまらん。
「おかえりー!」
「すっげえ! めっちゃ豪華じゃん!」
「そう? なんか、うまく出来なかったのもあるけど……」
「いやあ。どれもおいしそうだよ」
「ふふ。うれしー」
さっとテーブルの上を見回す。限られたお皿の数だと、料理が全部は盛り付けられない。はみ出た分は紙皿に乗ってる。料理も、ものすごく凝ったやつっていうんじゃなく、いろんな種類を少しずつ。もし食べ切れなくて余っても、ちゃんと翌日以降のご飯で食べられるように。実用的なんだ。
これまで付き合ってきたカレシには、そういう面は見せてこなかったんじゃないかな。豪華に、しみったれず、どーんとって。でも、それは自分の実態とはまるで合ってなかった。無理して、張りぼての自分を作って、大きく見せて。がりがりに痩せてしまうほど自分を削ってカレシに捧げても、その見返りは何もない。そんなの、プレゼントでもなんでもない。いおりは、思い切ってそれを止めることにしたんだろう。等身大の自分で、そのままの姿で。捧げた分をちゃんと返してもらえるように。うん。そうだよね。
まだ忙しそうにしてるいおりを横目に、僕は今日作ったオーナメントをこっそりツリーに下げた。そして……いおりからのプレゼントはなんだろなあと、にまにましていた。いいの。それが何であっても。心がこもったものであれば、何でも構わない。だって、僕は今までプレゼントをもらったことがなかったんだから。
「さて、と」
シャワーを浴びよう。ちゃんと油の匂いを落としてからじゃないと雰囲気が出ない。いつものようにその場で服を脱ごうとして、そこではっと思い返した。そう。ここ数日ずうっと付きまとわれてきた、あの違和感のことを。僕はいおりのことが好きだ。でも、それを本当に口に出せるんだろうか? 僕の中に奇妙なほど封じ込められていて、すんなり出ない好意の表現。それをちゃんと出せるんだろうか。
大判のバスタオルを出す。服を脱いだ後、それで腰を隠した。
「シャワー使うね」
「うん」
料理に夢中のいおりは、僕に目を向けなかった。半分はほっとして、そして半分は焦燥感を覚えながら。僕はユニットバスの扉を閉めた。
ぱたん。ざああああっ……。
◇ ◇ ◇
「メリークリスマス!」
「ハッピークリスマス!」
「きゃほー!」
「いえーっ!」
ぱん! ぱん! ぱぱん!
パーティーハットを被り、派手にクラッカーを鳴らして、僕らはイブの宴会を始めた。安物のスパークリングワインを開け、それで乾杯。いおりの手料理をうまいうまいと食べながら。BGMのクリスマスソングを鼻歌でハモる。ああ……クリスマスなんかのどこがいいんだろうって思ってたけど。やっぱ、いいよなあ。
ちびっとアルコールが入ったことで、なんだかいいムードになってきた。本格的に酔っ払ってしまわないうちに、きちんと告白しよう。僕の想いを伝えよう。とろんと目が潤んだいおりを前に、そういきむんだけど。声が……手が動かない。まるで、がんじがらめに縛られてるみたいだ。
出ろ! 僕の声! 動け! 僕の腕! だけど、そういきめばいきむほど頭が割れそうに痛くなってくる。ぐ……う……いったい……どうなって……るんだ!?
僕の異変に気付いたいおりが、血相を変えた。
「ちょ、ちょっと! たっくん、大丈夫?」
「う……」
頭を抱えてうずくまってしまった。そうしたら……。
ふっ。いきなり部屋の明かりが全部消えた。
「な、なんだあ!?」
「えー? 停電?」
僕らが戸惑っていると、陽気な大声が戸口で響き渡った。
「ほーっほっほう! メリークリスマス!」
ぱっと部屋の明かりが点いて。まるで絵に描いたような、恰幅のいいサンタのおじさんが。白い大きな袋を背負ってのしのしと上がりこんできた。
「え? えっ? なにっ!?」
いおりが慌てる。
「これって、たっくんのサプライズ?」
「いや、僕はこんなの頼んだ覚えは……」
でも次の瞬間。僕の中に畳まれたまま固く封印されていた記憶が放たれ、僕は電撃ショックを受けたみたいに跳ね上がった。
「あああっ!!」
同時に、僕の姿も変わってしまった。日本人ではなく、まるで西洋の絵画から抜け出してきたかのような、金髪碧眼の若い男に。
「ルーテス。久しぶりじゃの」
「マスター! どうしてここへ?」
「おまえの追試がちいとも進まんから、尻を叩きにきたんじゃが」
マスターはそう言って、口をへの字に曲げた。
「かえって成績が落ちてるじゃないか!」
信じられない光景に呆然としてたいおりが、おずおずとマスターに尋ねた。
「あのー……これは、どういうことですか?」
「ああ、済まんね。アクシデントが起こらないよう、慎重にあんたらから切り離しておいたはずなんじゃが」
「??」
「元の出来が悪いと、結局こういうことになる」
サンタとしてはとことんお行儀が悪い、傍若無人なマスターが、膨れ面の僕を冷ややかに見下ろした。
「サンタってのは認可制でね。誰でも出来るわけじゃない」
「え!? そうなんですか? わたしはサンタクロースは一人だけだと……」
「それじゃあ、身が保たんよ。クリスマス一日でとんでもない数のプレゼントを届けないとならん。わしのような老体にはきつい」
マスターがとんとんと腰を叩く。
「ただな。サンタクロースはみんなの夢と憧れの存在。その職務を完璧にこなすためには、高い資質が要るんだよ。志願者がすぐサンタになることは出来ない。グレードがあってな。資格試験をパスしてクラスを上げていかないと、現場に出られんのさ」
いおりが、姿が変わってしまった僕をこわごわ見てる。
「だが、こいつは志願者の中で一番出来が悪くてな」
「どうしてですか?」
「与えられたプレゼントをただ配るだけじゃつまらん。そう言いよった」
「え?」
「配られるプレゼントは、受け取る者が望んでいる物。わしらはそれを一つ一つ確かめてから配っておる」
「そうなんですか……」
「じゃから、サンタは配送を粛々とこなさねばならん。私情を挟むことは絶対に許されん!」
「だって、それじゃまるでロボットじゃないですか!」
僕はむきになってそう反論した。マスターはやれやれという表情で、いおりにぱたぱたと手を振った。
「ずうっとこれなんじゃよ」
マスターは、厳しい声でびしりと僕を突き放した。
「サンタがプレゼントを汚すことは出来ん。それがどういう形であってもな! おまえはまだ分からんのか!」
どすん! 偉そうにあぐらをかいたマスターが、いおりに向かってぶつぶつこぼした。
「だから、こいつから全部剥奪して地上に落としたんじゃよ。俗界で苦労し、勉強して一から出直してこいと言ってな」
あっ!!!
「そ、それで……か」
親の記憶がないのなんか、当たり前だ。僕は、白紙なことが不自然でない子供の姿でここに放り込まれたんだ。
「しかしな。こいつはほんとに強情でのう」
ほとほと困り果てたという表情で、マスターが首を振った。
「何もないなら自分で作る。そう言って、反省も勉強もせんで、せっせと『自分』をこしらえてしまった。三田巧という人格をな」
いおりのこしらえたフライドポテトを、行儀悪くひょいとつまんだマスターが、長い白ひげを揺らしながらぶつぶつこぼし続ける。
「じゃが、こいつの本体はあくまでもルーテスじゃ。見習いと言っても、サンタであることは間違いない。そして、サンタにはビギナーからマスターまで共通の禁止事項がある」
「それ……は?」
いおりがおっかなびっくり確かめる。
「サンタは人間ではない。人間として振舞うことは絶対に許されん。恋愛、結婚、情交。全てタブーじゃ!」
「!!」
「サンタの
「うう」
いおりが頭を抱えた。一体なんなの、どうなってんのって感じで。
そうか……。僕はマスターの説明で、今までずーっと抱えてきた違和感をきれいに解消できた。
「ねえ、マスター。そうすると、僕は今、三田と混じってしまってるってことですね?」
「そう。異常事態なんじゃよ。だから、わしが来たのさ。それでなくてもおまえは強情なんじゃ。サンタとしては振る舞えなくても三田を意識下で支配している。だが、人間としての三田は、もうその支配から逃れようとしておる。このままじゃ」
マスターが、ぱっと手のひらを開いた。
「両方とも砕けてしまう。どっちも残らん」
「なっ!!」
「本当は、追試に合格だとは絶対に言えん。だが、壊れてしまっては元も子もない。お情けで合格ということにするから、引き上げろ」
「って、それじゃ三田は……」
「それは、仮の姿じゃろ?」
いおりの血相が変わった。
「そ、そんな! いや、いやよーっ! そんなの、絶対にいやあっ!」
マスターに掴みかかろうとしたいおりを慌てて止める。
「記憶は消去する。あんたが彼のことを思い出すことはないよ」
いおりは、崩れるように床に突っ伏して激しく泣きじゃくった。
僕は、天を仰ぐ。ああ……ルーテスの時に常々思っていたことを、今鮮明に思い出した。サンタってのは、なんて残酷な仕事なんだろうと。確かに、サンタの仕事はプレゼントの配送だ。それには感情も何も必要ない。犬だろうがゴキブリだろうが、サンタの格好してりゃ出来るってことになっちゃう。それじゃつまらないじゃないか。
それだけじゃない。サンタには何も見返りがないんだ。子供達の喜びの表情がご褒美だって? ばかを言うな! 身を粉にしてプレゼントを配って歩いても、僕には何も残らない。自己犠牲だけしか求められないなんて。虚しくて……虚しくて虚しくて仕方がない。どこが聖なる仕事だって言うんだ! ふざけんな!
僕も何か欲しい。僕も何かもらいたい。プレゼントを受け取ってくれた人が、僕にも何かあげたいって思ってくれるように。僕が贈るプレゼントを選びたい。作りたい。細やかにカスタマイズしたい。それのどこがいけないの? おかしいの?
「マスター」
「うん?」
「ここへ来て。僕は、ますます自分の信念が正しいことを確信しました」
「確信じゃと?」
「サンタは……どうしようもない自虐です。僕は、そういうサンタには絶対になりたくない」
「ほう」
「どうしても僕が使い物にならないのなら、三田を残して、僕を消してください」
マスターは、ぐっと身を乗り出した。
「それでよいのか?」
「僕は未来永劫、サンタとしては役に立たないでしょう。僕の我を消せない以上、プレゼントを待ち焦がれている大勢の人たちに、無心にそれを届けることが出来ないから。ならば。今僕からプレゼントをもらうのを心待ちにしてる彼女にだけ。僕の手から、直接プレゼントを届けたいんです」
「ふむ」
「僕が消えることでそれが叶うのならね。僕の自己犠牲はその一回だけで充分です」
苦笑いしたマスターは、それでも大きく頷いた。
「よかろう! 後悔はないな」
「ありません」
「まったく! どこまでも強情なやつだ」
立ち上がろうとしたマスターを一度引き留める。
「ああ、マスター」
「なんじゃ?」
「あの空箱。置いたのはマスターでしょ?」
「そうじゃ。あれがおまえに課した最終問題じゃよ。おまえがあれに何を入れ、誰に贈るか」
ああ……そういうことだったのか。
「自分を入れ、誰かに捧げれば合格。他人を入れ、自分が抱え込めば落第。じゃが……」
マスターは輝くツリーを見て、目を細めた。
「おまえは、そのどちらでもなかったな」
マスターが、ずっと泣き伏していたいおりに声をかけた。
「せっかくのクリスマスじゃ。わしからもプレゼントをあげよう」
抗議しようと、きっと顔を上げたいおりの真ん前に顔を突き出して、マスターが満面の笑みを浮かべた。
「あんたが本当に欲しいものは、ルーテスからもらえる。わしのはほんのおまけじゃ」
さっと手を振り上げたマスターは、僕の顔の前に手をかざすと、何かをむしり取るような動きをした。
ばりっ! その途端、僕は体が裂けるような激痛を感じて……意識を失った。
◇ ◇ ◇
気を失っていたのは、ほんのわずかの間だった。僕が意識を取り戻した時。僕からは、外見も含めてルーテスの痕跡がほとんど取り払われていた。ほとんどっていうのは、全部ではないってこと。そう、僕はルーテスのことを鮮明に覚えてる。ルーテスの理想を現実化するために作られた僕は、もうルーテスと完全に分離することが出来なかったんだろう。
マスターは、まだ僕の目の前にいた。僕といおりを見比べるようにして、マスターが謝った。
「済まんな。不出来なやつが迷惑をかけた。だが、それも含めてプレゼントだと思ってくれんか?」
「は……い」
「ほっほっほ。よいクリスマスを!」
白い袋を担ぎ直して立ち上がったマスターは。僕らに背を向けるなり、ふっと姿を消した。その次の瞬間!
ひょ。
ひょ。
ひょ?
ひょひょひょ!
「うわっ!」
「ちょ、なにこれっ!」
ツリーのチープな土台を隠すために、その上に被せておいた雪を模した脱脂綿。それを押し上げるようにして、次から次へとハムスターが顔を出し、それが箱から飛び出して部屋中を駆け回った。
「うわ、すっげーーっ!」
「きゃあっ! くすぐったあい!」
僕やいおりの体にも駆け上がり、部屋がまるでハムスター屋敷みたいになった。それがふっ、ふっと姿を消していき。最後に真っ白なハムスターが一匹だけ。ちょこんといおりの手の中に座っていた。
「これ……」
「うん。あの子の、ひぃちゃんの生まれ変わりじゃないかな?」
「わたしたちに会いに来てくれたのかなあ」
「そう思うことにしようよ」
「そうだね」
ハムスターを見ながら、二人してどっと脱力する。
「まさか、こんなことになるなんてさあ……」
「それは僕のセリフだよ。こんなの聞いてないよ」
はあああっ。でも、ルーテスがその遺志を遂げるには、僕がいおりにプレゼントを渡さなければならない。ルーテスの代わりに。そして、僕自身の意思として。
「ねえ」
「うん?」
「ひぃちゃん。ちょっと置いて」
「え? うん」
大人しくテーブルの上に鎮座してるハムスターを確かめて。さっきいっぱい泣いて目が腫れぼったくなったいおりを、正面からぎゅっと抱きしめた。
「きゃっ」
「好きだよ」
「!!」
「好き。大好きだ」
これまで。いおりにだけじゃなく、誰にも言えなかった、僕にとっての禁断の言葉。それが溢れて溢れて止まらなくなった。
「うん……うん!」
「大好きだ。大好きだっー!」
バカみたいかもしれない。でも、僕は心ゆくまで、気が済むまで『好き』を連呼した。いおりには、僕の言葉がプレゼントになるんだろう。だけど僕にはそう言えることが……プレゼントだったんだ。ルーテスからの、かけがえのないプレゼント。
ルーテス。僕を創ってくれてありがとう。僕は、マスターもルーテスも恨むことはないよ。だって、これが僕だもん。もう誰かに操られているわけじゃない。これが正真正銘の僕なんだもん。
◇ ◇ ◇
涙の後のサプライズプレゼントを満喫して。今度は自分で部屋の明かりを消し、ツリーのイルミネーションだけにした。
「これ、乗せようよ」
「うん。二人でいっぱい考えて、作ったよね?」
「そうさ」
ワイヤーワークのトップスター。ゴールドとシルバーのワイヤーを編んで、ステンの枠を包んだ僕らのオリジナルだ。僕がいおりに告白した後で、返事がおっけーだったら二人で取り付けようと思ってたんだ。だから、まだツリーに乗せてなかった。それを二人でツリーの上に慎重に据えた。金糸、銀糸が電飾の光を反射して、幻想的な輝きを見せる。僕らはしばらくの間、無言でじっとそれを見つめていた。
「うん、予想以上にかっこいいじゃん!」
「さいっこう!」
顔を見合わせて笑って……そのままキスをした。このまま時が止まって欲しい。そう思うくらい、長く長く。ずっと。唇を離すのが惜しかった。もう二度といおりと離れたくない。離したくなかった。でも……。
ゆっくり顔を離して。ふうっと溜息をつく。
「どうしたの?」
「明日も早番なんだよなー」
どごーん! いおりが派手にぶっこけた。
◇ ◇ ◇
楽しかったパーティー。でも、終わる時が寂しいね。テーブルの上のものを片付けて、ツリー以外の飾り付けを外した。ツリーだけは、どうしてももう一日飾っておきたかった。そこには、僕に贈られたものがいっぱい輝いていたから。中瀬さんといおりの手作りのオーナメント。二人で作ったトップスター。そして……。
僕がこっそり下げた手作りオーナメントをじっと見てたいおりが、くすくす笑いながら僕をつついた。
「ねえ、たっくん」
「うん?」
「同じって……すごいよね」
「はははっ。僕もびっくりしたよ」
僕がいおりに贈ったもの。そして、いおりが僕に贈ってくれたもの。それは物ではなくて、メッセージだった。いおりの作った布のオーナメント。そして僕が作った鋼板のオーナメント。そのどちらにも。
『ずっといっしょにいたい』
同じメッセージが刻まれていたんだ。それはとても大切なメッセージだけど、今日までしか意味がない。だって、僕かいおりがこの世から失われない限り、僕らはずっといっしょにいるだろうから。
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