DAY 12

 いろいろ考えてみたけど、解決策としてはあれしかなかっただろう。僕は、クリスマスっていう日に特別のこだわりがあるわけじゃないし、一日二日ツリーがお出かけしたからと言って困るようなことは何もない。単なる気分の問題だけだ。彼女は出費しなくて済むし、レンタルっていう方法は妥当だと思う。方針が固まったことで、僕は飾り付けをどうするかに専念出来るし。


「おう、巧」


 あ、中瀬さんだ。


「おはようございます!」

「昨日は不機嫌そうだったが、今日はすっきりじゃねえか」

「わははっ。ここんとこ変なことばっか続いてて、ちょっとめげてたんですよ」

「例のイタズラか?」

「いや、それはあれっきりだったんでいいんですけど、他にもねえ」

「なんだ、災難だな」

「まあ、大したことはないです。一応、昨日けりがついたんで」

「厄は年内に落としとけよ」

「ですよね」

「でな。ちぃと一部の金型のエッジが甘くなってきてる。止めてチェックしろ」


 げえっ! 慌てて、緊急停止ボタンを押しちゃった。やべえやべえ、一件落着で緩んでる場合じゃない!


「急いでチェックします!」

「そうしてくれ」


 ばたばたばたっ!


◇ ◇ ◇


 ぐええー。危なかったー。始業からまだ十分とかそんなとこだったから傷は浅かったけど、バリのチェックが甘かった。意外に金型のヘタリが早いなあ。少し速度を落として、送りを調整しないとだめかもなあ。制御盤の前であれこれ考えながら設定をいじっていたら、折野部長が僕の肩越しに作業を覗き込んでいた。


「あれ? 部長、おはようございます」

「どうだい?」

「相変わらず、めんどくさい設定に泣かされてます」

「ははは」

「ただ……」

「え?」

「さっき、中瀬さんのチェックが入ったんですけど、金型のエッジのヘタリが早いですね。効率優先で速度上げると、仕上がりが粗くなってしまうかもしれません」

「む。まずいな」

「はい。本体は優秀でも、そういうところはまだ改善の余地ありですね」


 部長が、どこか納得行かないという表情で止まっている打抜機を見回してる。うん。確かにね。そんなに簡単に金型がへたるようじゃ、交換の手間もお金もかかっちゃう。それって、構造的な欠陥じゃん。でも、全部が全部っていうわけでもないんだよなあ。うーん。


「まあ、定期点検の時に、メカニックにきっちりチェックさせよう」

「はい!」

「それにしても、エッジの甘さをすぐに見抜くたあ、さすががんちゃんだよなあ」

「すごいですね」

「がんちゃんの機嫌も直ったみたいだし。面倒なことを頼んで悪かったね」

「いや、いいんですけど」


 僕は、どうもすっきりしない。中瀬さんは、機嫌が直ったんじゃない。変わっちゃってるんだ。


「部長」

「うん?」

「中瀬さん。おかしくありませんか? 妙に丸くなったっていうか」


 さっきの僕へのクレームだって、これまでなら鬼の形相でまくし立てただろう。おまえ、どこに目ん玉付けてんだ、ばかっ! 気ぃ抜かないで、きちんとチェックしろいっ! そんな風に。部長は僕から顔を背けて。それから僕の肩をぱんぱんと叩いた。


「がんちゃんから、三田くんに直接話があるだろう。大事な話だ」


 やっぱりか。


「心して、聞いてくれ」

「はい!」


◇ ◇ ◇


 終業間近になって、ふらっと中瀬さんが来た。


「出来た。明日渡す」

「わ!」


 来たああああっ! 思わず飛び上がってしまった。


「でな、そのあと付き合ってくれ」


 そう言った中瀬さんが、くいっと右手を口に持って行った。飲みに付き合え、そういうことだ。


「もちろんです!」


 さっき部長が言った大事な話。僕はそれを聞き逃すわけにはいかない。ゆっくりと立ち去っていく中瀬さんの背中を見つめながら、僕の心臓は激しく暴れまわっていた。ああ、とんでもなくわくわくする! まるで大泥棒が財宝のまん前に到達した時のような、どうしようもない興奮。高揚感。嬉しくて嬉しくて、今晩僕は眠れるだろうか? まだクリスマスじゃないのに。僕には、明日がもうクリスマスだ!


「ひゃっあっほおっ!!!」


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