灰の章

序歌

序歌 白雲間



マッシロ。ヌクヌク。キラキラ。

マッシロ。ヌクヌク。キラキラ……


『師匠! これおいしいっすね。なんですか?』

『ほうほう、雲のウィンナコーシーじゃ。うまいじゃろ』

『うまいっす! 最高っす!』


 ここは……

 白い雲間?

 果てなく広がる、ふわふわの雲。

 白い髭の翁が雲の中にいる。

 やわらかそうな雲の椅子にちょこんと座って、ニコニコ顔。

 あれは……カラウカスさまだ。僕の創造主。

 雲のテーブルをはさんだ向かいに、虹色の人の形をしたものがいる。

 雲の椅子に座していて。カップの形をした雲を持っていて。

 ふうふう息をふきかけて雲を飲んでいる。

 この輝きの人は…… 


『師匠! これなんっすか?』


 我が師?


『ほうほう、雲のワタアメじゃ。屋台ちゅうもんでよく売られるんじゃ』

『おお! これが! 俺、これ一度食べてみたかったんすよ。お祭りとか、行ってみたかったなぁ』

『うむうむ。そなた、城住まいでは庶民の祭りは体験できなかったろうの』

『まあねー。部屋から部屋へ移るのもひと苦労だったわ。あの城、人多すぎ』

『州公閣下の居城じゃからなぁ。それはそれはたくさん、人がおるじゃろうて』

『広すぎるよあそこ。隠し部屋も多すぎて、マジ迷子になれるぜ』

『それは楽しそうじゃのう』


 ピンクや青や黄色。色とりどりの綿菓子のような雲を、幸せそうにほおばる我が師。

 そんなわが師を、とても優しいまなざしで眺める白髭の翁……。


『いやぁ師匠はやっぱすごいね! このわたあめおいしすぎるっ』

『副業で屋台を始めようかとおもっとる。魂たちの休憩場所になればよいかと思ってのう。天に昇る前に、ぷはーと一服してもらいたいんじゃ。のんびり人生を思い出すもよし。大いに愚痴るもよし』

『おお! それいいじゃん! 俺、師匠の屋台手伝おっかな』

『そうじゃのう、そなたの魂はしっかり人の形をとれるからのう。それに転生すれば少々やっかいなぐらい魔力が……』

『お?』

『いやいや。そなたほどの者なら、わしと同様、ここにいようと思えばいくらでもおれるぞ。まあ、しばらくゆっくりしておいで』


 あ……よかった……

 お師匠さま、まだ輪廻の波に飲まれてないんだ。

 カラウカス様のもとにいるんだ……

 

『うひ。じゃあ、お言葉に甘えてぬくぬくのんびりしよっと。師匠、お酒ってある?』

『もちろんじゃ。星屑の露でできとるもんじゃ。うまいぞー?』

『じゃあ、俺が一献注いでさしあげまっす』

『おうおう、なんとそりゃあうれしいのう』


 二人は雲に座って楽しそうに語らい。雲を食べて。星のしずくを飲みあう。

 ほがらかな笑い声が空に響きわたる。

 なんて明るくて。幸せそうなんだろう。 


 マッシロ。ヌクヌク。キラキラ。

 マッシロ。ヌクヌク。キラキラ……




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