深淵の歌10 蛇腹鋼扇(はりせん)―鋳眞打式6577―


 ふおー、ふおー、と気の抜けたようなラッパの音があたりに響く。 

 銀雨が降る中、金獅子軍の楽隊が勝鬨の音を吹き鳴らしているのだ。 

 湖だらけのこのあたりは、暑い夏になると大量に湖水が蒸発して、雨が降りやすい気候になる。そのため夏は、白い針金のような雨がしとしと降る日が多いという。

 金獅子州の人々はその雨を銀の糸セレブロニトと呼ぶそうだ。

 

「この雨足ですから、都に広がった火は自然と消えましょうぞ」


 雨の呼び方を教えてくれた鎧姿のおじいさんが、左右を赤と桃の巨人二人に守られたトルに向かってニッコリする。

 兜をとって小脇に抱えて天を仰ぐおじいさんは、州都からこの小さな都に派遣されてきた金獅子州公軍の司令官だ。頭が濡れるのもかまわずに、兜を脱いで天を仰ぎ、「恵みの雨」をありがたそうに浴びている。

「すばらしき勝利でしたな」

 勝利。まさしく。

 僕が蛇腹の扇を我が師の脳天に叩きつけた直後。

 黒い影がもわもわと、黒い衣まとう体から飛び出してきた。宵の王はしばらく広場を右往左往、迷い飛んでいたけれど。

 

「地・烈・斬――!」

 

 赤甲冑のケイドーンの戦士の斧に飛ばされ、桃色甲冑の妹君が構えた大きな袋に、ぼすんと突っ込まれた。

 その袋はとても大きな寝袋のごときで、巨人たちは当初我が師の体ごとそこに突っ込むつもりでいたらしい。

 袋はとても特殊な材質と織り方で作られた「封じの布」で作られていて、魂を閉じ込めておくことができるという。

 我が師がごとりと地に倒れ、きゅっと袋の口を桃色甲冑の巨人戦士が引き結んだそのとき――広場の南面入り口から、金獅子州公軍がうわっとなだれ込んできた。

 騎兵数十騎に歩兵数百、荷馬車に、それから……鉄の獅子。

 なんとも絶妙な時宜。司令塔を失ってくろがねの兵士たちが動かなくなったとたんの、突入。それまでじっと高みの見物をしていたような雰囲気だった。

 それと同時に。

 天から雨が降ってきたのだ。

 こうして今、しとしと銀糸の雨が降る中、金獅子の軍は広場一面に広がり、停止したくろがねの兵士を荷馬車に積んで運び出している。

 馬引く荷馬車を護衛するのは、鉄の獅子。これが、金獅子州公家が繰り出したという古代兵器だろうか。全身金属で銀色の獅子はたしかに強そうだけど、戦っていないので実際の力のほどはわからない。

 広場の隅に押された僕ら――僕とリンと兄弟子様は即座に人間の姿に戻り、我が師を広場の隅に寄せた。ケイドーンたちがざざっと隊列を組んで僕らの隣に並んだとき。トルが建物の中から飛び出してきて、僕らはついに会いまみえた。

『ああ、トル! 会いたかったわ!』

 リンが目を潤ませてトルにひしと抱きつき、まさに感動の再会となったのだが。

――『トルナーテ、怪我はないか?』

 トルに声をかけようとした僕の言葉と視界は、ずいっと目前に出てきた赤い巨体に閉ざされた。

『トル、君のことが心――』

『宵の王が君を攻撃しようとしたから心配した。でもあの聖霊召喚はすばらしかったよ』

『トル、会えて嬉――』 

『さすがメキド王家伝来の精霊だ。おかげで助かった。ありがとう』

『ト――』

『それにしてもリンさんは、ここまでよくぞご無事で……』

 なんなんだこの巨大な赤い山は。僕の前から全然どく気配がない。

 いまだにまともにトルと話せてないぞ。

 赤き巨人サクラオ。この巨人、絶対わが師だと思うんだけど、ウサギの僕を見て開口一番叫んで以来、そんなそぶりはまったくみせない。桃色甲冑の巨人にして妹であるサクラコさんと共に、トルとリンを左右から挟んでがっちり護衛している。

「あなたが、トルの婚約者であられるのですね」

 リンの言葉がサクラオの背中ごしに聞こえてきて、僕はどきりとした。

 そういえば……トルからもらった手紙にはたしかに、そう書いてあった――。


『「彼」はとても素晴らしいケイドーンの戦士だ。名はサクラオという。ケイドーンの傭兵団長の腹違いの弟君で、巨人と人間との混血なんだ』


 混血? この大きさで? 他の巨人たちの誰よりも筋肉隆々で背が高い。

「サクラオ兄様、メキド本国をお守りになられている大兄様に、さっそくご報告しましょう」

 桃色甲冑の巨人サクラコさんが鉄仮面をとる。

 サクラオもその動作に同期した。

 あらわになった顔は、涼やかな目もとの超二枚目。金髪で色白でサクラコさんと瓜二つで、ひと目で双子とわかる。

 か……かっこいい。ためいきがでるぐらい、ものすごくかっこいい。

 サクラオ。

 これが、トルと結婚する人――。

「魔力を乗せたケイドーンの技。惚れ惚れいたしました」

 リンがほめると赤い巨人は朗らかに謙遜した。

「ありがとう。褒めてくれて嬉しいよ。しかし我が女王陛下や黒の導師の韻律には及ばぬ」

「その全身鎧、魔力波動を増幅させる金属が重ねられているようですね。あの、サクラオ様とサクラコ様の鎧はもしかして、スメルニアの大鍛冶師マエストロ練美さまがお作りになられたものでは?」

「そうだよ。我ら兄妹の鎧は特注でね。まさしく大陸一の腕と名高いあの練美様が作られたものだ」

「ああ、やはり。胸部の花紋でわかりました」

 父君の皇帝陛下が宮廷儀式の時に必ず、この花紋を打銘として刻む鍛冶師の鎧を着込まれていた――リンが嬉しげにそう話すと、たちまち場が盛り上がった。

 トルはスメルニアの元老院にも招待を受けたらしい。この金獅子州の次は、スメルニアの皇帝陛下と会見するという。

 巨人たちがとても懐かしい、メキドの前は皇国に仕えていたのだと昔話を始める……。

 トルとリン。巨人たち。

 やんごとなき階層のことを和気藹々と話す彼らを、僕はぼうっと眺めた。

 まったく入り込めない。何も知らない僕はなにも言えない。

 大体にして、赤い巨人がほんとに邪魔で仕方ない。せめてトルの顔を見たいのに。

 立ち位置をずらして姿勢を傾けると、赤い巨人はさりげなく動いて僕の視界を遮ってくる。

 この人、わざとトルの姿を見させまいとしてるんじゃなかろうか。

 

――「それにしても、ハヤトは大丈夫なのかぁ?」

 

 いらっとして強引にトルの前に出ようとしたそのとき。兄弟子様がのんびりのたまわったので、僕らは一斉にすぐ背後を振り返った。

 魂が抜けた状態で微動だにしない我が師。その体を、僕らはひさしのある建物の下に横たえていた。

 我が師の貌は僕が鉄扇でひっぱたいたままの状態で固まったまま。

 見開いた目。かぽっと大きく開いた口。

「ぶふっ」

 兄弟子様が、なんだこのアホ面はといいたげに吹き出す。

 我が師は彫像の如し。動き出す気配は微塵もない。

 優しいトルが、もしや宵の王に魂を喰われてしまったのではと心配すると。

 赤い巨人は、「いや大丈夫だ」と請け負った。

「この導師の魂は、きっと体内の奥底にある。宵の王に眠らされているだけだ」

 トルがずいと前に出て我が師の肩をそっとゆする。アスパシオン様、と何度も声をかける。リンが魔法の気配を降ろして覚醒の韻律を唱えた。

 だが、反応はない。

 やはり魂が抜けているのでは?

 皆がそう判断しかけたとき。腕組み姿の赤い巨人が、非常に真面目な顔でのたまわった。

「この導師に声を届けられる者が呼べば、きっと起きると思う」

「声を届けられる?」

 つまり恋人や大事にしている人のことだと、赤い巨人はきっぱり言った。

「瀕死の病人や怪我人が、特別な人の声を聞いて危篤状態から脱したっていう話がよくあるだろう? だからこの導師の家族とか恋人とか、そんな人が呼びかければいいのではないかと思う」

「家族……」「家族といえば……」「ほう、恋人」「家族か」

 ちょ、ちょっと待て。

 みんな一斉に僕を見るけど、僕は我が師の家族でも恋人でも――

「君はこの導師の弟子なんだろう? すなわち息子も同然だ。実に特別な存在だよ」

 赤い巨体が僕を見下ろす。なんだか、異様にうっとりとした目で。

「そういえばギヤマンの棺の眠り姫とか、りんご姫とか、そんなおとぎ話あったよなぁ」

 横から兄弟子さまが余計なことを言い出した。はた迷惑なことにからかう気満々だ。

「そのお姫さまたちって、たしか王子さまの口づけで起きるんだよなぁ。おいぺぺ、ハヤト姫にちゅうしてやれ。ちゅう。そしたら起きるんじゃねえの?」

 い、言われると思った……。

 だれがするか!

「おお! それ! それいいねそれ! 弟子くんぜひそれを!」

 赤巨人が目を輝かせてたきつけてくる。

 お、おかしい。やっぱりこの人おかしいぞ。

 思いっきりひきつった僕は我が師のそばにしゃがみ、閉じた鉄の扇でつっついてみた。

「お、お師匠さま。起きてください?」

「弟子くん、もっと必死に叫んで」

 赤巨人がダメ出ししてくる? やっぱり怪しい。怪しすぎる。

「お師匠さま、お願いします。目を覚ましてください」

「だめだ弟子くん、そんな棒読みの言葉じゃ、心に響かない。もっと情熱的に胸にすがるんだ」

 じょっ? 情熱? 胸に、すがれ?! 

 な、何を言ってるんだこの人は。

 や、やっぱりこの人は。やっぱり……!

「いっ……今すぐ起きろ!! でないとっ、」 

 僕は我が師の胸倉をつかみ、やけくそになって怒鳴った。

「もう二度とっ、靴紐結んであげないぞ!」 

「え」

 赤い巨人がぎくりとたじろぐ。

「あ、朝に起こしてあげないぞ! 着替え手伝ってやらないぞ! 破れた衣も直してあげないからな! もちろんお給仕だってしてやらない!」 

「えええっ!?」

 赤い巨人が明らかにうろたえる。

「もう二度と! オネショしないように夜に起こして、厠へ連れてくのもなしだーっ!!」

「うわあああああ!」 

 突如赤い巨人は大声を出し。それからがくりと両膝を折って地につけた。一瞬、気絶したかのように頭をがくりとうなだれる。

「サクラオ! 大丈夫かっ?」 

「お兄さま、また貧血ですの?」

 トルとサクラコさんが同時に声をあげる。皆が巨人に注目した瞬間。

「……ああああああ! ごめんなさい弟子! すみませんでした! 起きた! ほら起きた! 俺起きたぞおおおお! だから俺のお世話してえええっ!」

 いきなりがばりと我が師が起き上がって、僕にすがりついてきた。 

 かたや赤い巨人はぐったり意識がない。

 やっぱり……我が師の魂は赤い巨人の中に入っていたか!

 ん? あれ? それって……

「サクラオさんは、大丈夫なのですか?」

「大丈夫だリン、サクラオは最近時々こうなるんだが、すぐに回復する」

「ええ、お兄様は頭が時々ぼうっとするらしいんですの。でもほら」

「う……」

「お、目を覚ましたな。こんなにがたいがいいのに、貧血症か。ちょっと意外だぜ」



 それっていつから・・・・・・・・



「弟子! 会いたかったぁ! 弟子いいい!」

「うわ?!」 

 思考が邪魔された。我が師がぎっちぎち僕の腰に抱きついてきて、ものすごくうっとうしい。

「腰巻姿が、なんてせくしいいいい!」

「なっ!? はっ、はなれろこのクソおやじ!!」

「ああー、でも俺やっぱり弟子にちゅうしてほしかったなー。ちゅうー。な、今からでいいからちゅう――」

「なんでやねん!!」

「うひっ?!」


 あ。しまった……。


「あ」「あら」「うわ」「あ、アスワド」「うう?」


 いらついた僕は思わず、鋼の扇で我が師をぶっ叩いていた。

 きらきらと、鋳眞打イマダ式という銘が輝いている扇で思いきり。

 自分の体に戻ったばかりの我が師の魂は、すこーんとすっこ抜けて。


『でしいいいいい!?』


 軽やかな、風になった。





「いやあ、これでめでたしめでたしといけばいいけどなぁ」

 杯をかかげる兄弟子様がくつくしのび笑う。

 広場正面の大きな建物――このカウエの都の庁舎にして領主の宮殿にて、メキド軍及び金獅子州公軍に合流した僕らは、領主のもてなしを受けた。

 広間の晩餐に呼ばれたのは女王であるトルと、未来の夫君サクラオ、未来の義妹サクラコさん。そしてなんとかまたおのが体に戻った我が師とアステリオン様、二人の導師。僕とリンは蒼き衣の見習いなので固辞したが、トルがなにを水くさいことを、と僕らの席を作ってくれた。

 これでやっとトルと話ができると思ったら。

 彼女の席はかなり離れていて、両脇には赤と桃色の巨人の壁。

 僕の隣には我が師と兄弟子様が鎮座あそばし、皿に取り分けろだの酒注げだの、ひっきりなしに給仕を求めてきて、そんな暇はなかった。

 晩餐には金獅子州公軍のおじいちゃん将軍や副官たちも呼ばれた。

 招待主の領主のそばには都の高位役人がずらり。

 他の卓には肉料理が並んだが、僕ら寺院組の卓には魚料理だけ。

 肉の匂いに生唾が出たけど、僕はなんとか我慢した。

 晩餐は終始堅苦しく、明るく華やいだ雰囲気はなかった。話し合われたのは、都の復興策。それから――

「なんですと? 金獅子州公の後見人が身罷られた?」

「州公閣下が昨日把握なされた。それで公家はしばし混乱し、我ら州公軍のこちらへの到着が遅れた次第。領主どの、あいすまぬ」

 おじいちゃん将軍は、最長老レクサリオン様の死をひっそりと告げた。 

「州公閣下はただちに、寺院に新しい後見人を要請なされた。金獅子州の望みはこの州出身の導師の就任であるが、さてどうなるか……寺院は追って沙汰するとの返答であったらしい。それに加え、くろがねの兵士を阻止する導師を派遣すると通達がきたのだが」

 それは必要ないと金獅子州公はお答えになったと、おじいちゃん将軍は誇らしげにおのが顎を撫でる。   

「古代兵器など、我が州にはおそるるものにあらず」

 すごい自身だ。荷馬車の護衛についていたあの鉄の獅子。あれは本当にすごい性能なんだろう。

 しかし相手は、あの二位の御方。宵の王は封じ込めたが、それでも油断はならない――。

「お師匠様、いいかげん教えてください。一体いつから、サクラオにとりついてたんですかっ」 

「ねええ弟子、なんで俺には酒注いでくれないの?」

 いまいましいことに我が師はしらばっくれるばかりだ。

「兄弟子様の応援報酬として、お師匠さまのお酒をさしあげる約束をしましたので」

「なんだよそれ!」

「くけけ、まじだぞハヤト。大人しくおまえは水でも飲んでろ」

「はぁ? おいエリク、俺のことはアスパシオンって呼べよ」

「だまれ、おまえこそちゃんとアステリオン様と呼べよ。俺様が来てやったことに深く感謝しろ」

「あーありがとー」

「なんだその棒読みは! あ! なにすんだおまえ! 俺の酒とるな!」

「いいじゃんひと口ぐらい」

「あーっ、それひと口じゃねえだろ、一気飲みすんなこら!」

 うう、なんかこの席嫌だな。両脇にがなり合うむさいおじさんとか。向かいにリンがいるのがせめてもの癒やしだ。

 それにしても。宵の王に身体を乗っ取られたのは幽体離脱であちこちふらついてたせいだが、その時すでにサクラオに取り憑いていた可能性は……ある。

 何のためにって、それは……

「お師匠さま、トルのことなんとかしてくれるって、ゆる神ピピちゃんが言ってくれましたけど、もしかしてそれ実行してたわけですか?」

 だとしたら我が師ってすごい……い、いやいや、一番肝心なことはしてくれてないだろ。

 なんでサクラオを、トルの婚約者にするんだ? この人、寺院を抜け出そうとまでした僕の気持ちを知ってないわけないだろうに。

「はあ? なにいってるんらー?」

 うわ。もうできあがってる。我が師ってほんとにお酒に弱い。

「弟子い、俺は信じてらぞ。ぜえったい、金獅子州にきてくれゆって、信じてらぞ」

「は、はいはい」

「いい子らな~」

 ひ。しなだれかかってくるし。

「しっかしこれおいしーなー。魚、だけどぉ」

 うん、いつもの塩だけの味付けと違う。この茶色いソースなんだろう。

「うま。うま。うま。ぐふ」

 あ。詰め込みすぎてむせた。

「んんんんぐ」

 あああ喉につまらせてる。背中叩いてやらなきゃ。

「お、お師匠さま! だ、出して!」

「んぐうー」

「きったねえぞハヤト! 外行け外!」

「すみません兄弟子様! 吐かせてきますっ」

 ああもう、ほんとに……世話が焼ける……。

 我が師の腕をつかんでずるずる引っ張り広間から出る。日がすっかり暮れて暗い廊下は、寺院の回廊よりもだだ長い。淡い灯り玉がかなり間を空けて壁のくぼみに収まっていて、橙色の光が幻想的に見える。

「んぐう……でし」

「はいはい」

「でし……」

「廊下にぶちまけないでくださいね」

 洗面できるところってどこだろうか?

 廊下を急ぎ足で突っ切る。中庭があるから、最悪そこで?

「あい……し……」

「はい?」

「んぐ。あいし、てるぅ」

「はあ?! 何言って……」

「……ったい、だれにも、やらないからにゃ?」

 な、何言ってるんだこの人。

「ぼ、僕はその、トルが」

「トルはぁ、サクラオの。でしはぁ、おれの」

「な……ち、ちょっと待て、だ、だまれ」

 こんなところでこんなおそろしい言葉を耳にするとか、一体なんの悪夢だよ?

「あ……もしかしてあんた」

 だれにもやらないって。おい……

「あんたわざと、トルとサクラオを……」

「はーい! ひっつけまし、たー! 俺、てんさーい!」

「な……あんた一体、なにしてるんだよおおおっ!」

 思わずカッとなって我が師の胸倉をつかんだそのとき。 

 ざわりと、足元に何かがまとわりついた。

「え?」

 見下ろしたとたん、僕の息は止まった。

 それは生ぬるいどろっとした、黒い……黒い……   

 刹那、僕は我が師を突き飛ばし。あらん限りの声で叫んでいた。


「クソオヤジ! 逃げろぉっ!!」


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