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 関は総合病院に到着した。ここへ来た理由は白虎が少女の気配をここから感じると関に教えていたからだ。しかし、傍らには白虎の姿はなく、彼一人である。白虎はヒトガタの姿に戻っていた。もう一度呼び出し、さらに精度の高い居場所を教えて欲しいと関は思ったが、人の目が絶えない病院で呼び出せば騒ぎになるのが目に見えているため自粛していた。

 昔の関ならばそんなことは気にも止めずに呼び出していた。本人にとっても「よくあんなことができた」と怖いもの知らずさに呆れてしまうほどである。

 ロビーで周りを見渡すと様々な人がいた。老若男女等しく椅子に腰掛け番号を呼ばれるのを待つ組と健康や不健康といった概念を持たない体になった組の二つである。

 病院はよく幽霊と呼ばれる者の憩いの場として集まることが多い。浮遊霊となったあと、幽霊とはなんぞやと思う人が多く、そのため幽霊が多そうな病院へと集まる傾向がある。実際にそのような幽霊で溢れているため、その循環でさらに多くの幽霊が集まる。また、幽霊が作るコミュニティのきっかけになったりするのも病院が一番多い。

 しかし、それを放置することはできないため定期的に死神があの世と呼ばれる場所へ集団渡航したり、悪さをする幽霊がいる場合は関のような専門職が呼ばれている。そのため病院という場所にいる幽霊は他の場所にいる幽霊よりも地元のあの世事情に通じている場合が多い。

 その幽霊たちの視線を集めている男がいることに気付いた。優男風の男は優しさの概念として語られるナースに怒声を浴びせられ、ペコペコと頭を下げていた。面白いといえば面白い光景ではあるが、病院ではありがちな光景であると思い少女探しを再開した。

 関は少女を探しつつ、黒服らに捕まえるように指示をした「神様」とは何者であるかを考える。

 この街には神が住んでいる。それは周知の事実である。関も年端もいかない頃、神様に謁見したことがある。幼き関は神という者がどれほど力を持っているか知ることがワクワクして夜も眠れなかった。謁見の日にいきなり式神をけしかけるという計画を画策したりもした。待ち遠しく望んだ謁見の日、幼き関は愕然とした。すだれで隠された向こう側に神様はいた。だが何の力も感じなかったのだ。興が醒めた関は大人しく一日を過ごした。大人しくしたことで周りの大人から褒められた記憶が鮮明に残っていた。

「……やはり吾輩が神と認めるのは後にも先にも彼女一人だけですね」

 二十数年前、青葉という少女と出会った。

 これが関が改心するキッカケとなった。

 口元が歪む。ぞくぞくとした身震いが体を走った。

「いけませんねぇ。昔の癖が出てしまいました」

 口元に手を当て、口を閉じた。

「あの子は一体どこにいるのでしょう」

 ハーフの女性が攫われたことと執拗に少女を追いかける黒服、それを指示した神様というのは関わりがあると確信した。関が本来向かうはずだった場所は神社。そこは神様とか関わり深い土地。中でもこの土地の神は創造神として奉られている。そこで神様を騙る――あるいは本物の神様が黒服をそそのかしている。

 問題は神様が誰かわからないことである。

「とにかく保護しないと始まらないですしね」

 一階、二階と見て回る。四階に差し掛かる階段で辺りを警戒心たっぷりに見回す少女を見つけた。向こうも関の姿を認めると一目散に走り去った。

 関も走って追いかける。

 少女を捕まえるよりも早くナースに捕まった。

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