7
三浦仁は総合病院へと到着していた。
そこにいるという巫女のアドバイスを受けた彼は、死神と青葉もとい恵里に助力を断られるという遠回りを経て、ついに目的地へと辿り着くことができた。遠かったな、と彼は感慨に耽る。ここからが本番であり、彼が件の男子児童をどうにかすることもできないことは頭からすっ飛んでいた。
「とりあえず病室へと行かないとね」
一人呟く。
総合病院の中へと足を踏み入れると鼻先にスンとした薬品の人工的な匂いが触れた。自然的な環境で過ごしてきた仁はこの匂いが好きにはなれなかった。しいて言えば注射も嫌いである。ただ人工物が嫌いというわけではない。ゆえに自分の部屋に人工物で地層を作ったりするのでタチが悪いと巫女を腹立たせていた。
ナースステーションに向かい、男子児童の名前を尋ね、病室を割り出した。病室は四階だった。
その病室へ向かうまで様々な人の姿が仁の目に入った。健康な人、体調が悪そうな人、医者、子供、もうこの世の人ではない人。最後の人物らは仁だということに気付くと様々な反応の違いをみせた。会釈だけで済ます人もいれば、良いみやげ話ができたとばかりに握手を求める人、気まずそうにそそくさと足早にその場をあとにするなどだ。
そんなこんなで手間取り病室まで辿りつくのに時間が掛かった。
男子児童がいる病室は個室だった。ベッドの近くにある机には花瓶と元気だった頃の写真が飾られていた。その中に移る男子児童は少女のような軽やかさがあった。
その男子児童は腕に管が刺され、心臓の動きを捉える機械に繋がれていた。一ヶ月以上寝ていたせいで少女のような可憐さの見る影もなく、全身が腫れ上がっていた。この状態が続いているのならば、もう長くないだろうと仁は理解した。
仁が目を凝らす。男子児童の体から微光を発する小さな風船のようなものが飛び出ていた。
「ほとんど出かかってるなぁ。はやくどうにかしないと」
ここでようやく仁は自分が何もできないことを思い出した。
どうにかできないか昔の感覚を思い出しながら手をかざしたりもしたが、お父さんが運動会で頑張った結果怪我するのと何ら変わらない結果に終わった。
仁は胸を抑える。与え分けた力はもう使えないよなぁ、とうなだれた。
コトンと仁の背後から靴音がした。
似非超能力者のようなところを見られたかと思った仁は恥ずかしさから振り返り確認する。少女の姿があった。前髪が長めのロングヘアに黒の水玉カチューシャをした子供らしい可愛さをしていた。しかし、少女はいわゆる幽霊と呼ばれるものであった。
少女は怯えていた。
仁は考えた。近い年代の子が植物状態に陥ったのを知ったこの病院の幽霊が毎日お見舞いに来ている。たまたま見知らぬ人が病室にいて、変な真似をしているから怯えている。
その子に仁は微笑みかける。
「どうしたの?」
少女は一歩下がる。
「怖がんなくて平気だよ?」
少女は逃げ出した。
仁が追いかける。
看護師に走るなと怒られた。
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