第20話 世界にある暗部

「あの報告とは一体何だ」


真剣に聞くフリーチェに


「各地のレジスタンスの残党がそこに結集していると言う連絡です。彼は電子機器に強いので制圧した基地の通信回線を利用して調べたと言うことですが、これで次の戦いが最終決戦になるでしょうね」


一日はそう告げる。


「つまり、リベリオン・フォートレスを落とせばこちらの勝利となると言うわけか」

「ええ、最後の砦に全戦力を集結させる、セオリーと言えばセオリーですね」


ヒリズの質問にあくまでセオリー通りでしかないと言わんばかりの声色で言う一日。


「で、どうするの?今すぐに仕掛けるのか?」


今すぐにでも・・・と言い出しそうな神消。そんな神消を見た一日は


「いえ、せっかく各地に散らばっている敵を集めてくれているんです。少し猶予期間をあげましょう。絶望の底へと沈むまでの猶予期間をね」

「猶予期間・・・」


その言葉にどこか恐怖を覚える回帰。


「と言う訳でフリーチェ様、リベリオン・フォートレス攻略戦を開始するまでの間、彼等と共に観光旅行に行ってきても良いでしょうか?」


直後に一日の発した言葉は普通であれば緊張感のない言葉としてスルーされそうなものであった。だが彼女が言う事でその言葉にどこか不気味さが入り込む。


「あ、ああ、それは構わないが・・・観光とはどこにいくつもりだ?」

「まあ、気の向くままに行きますよ。折角異世界に来たんです、少し見て回りたいんですよ」


フリーチェもそれを感じたのか、どこか歯切れの悪い返答をする、それでも返答は返答と言った感じで一日は部屋から退出する。


「一日ちゃんお疲れさま」


部屋の外に出ると立っていた命が一日を労い、


「命、それに皆こそお疲れさま。いきなりの実践で疲れたでしょう」


と一日も命達を労う。


「まさか異世界に来ていきなり実践とは、流石に思ってなかったから。でも初戦にしては上手くいったよ」


そう自信ありげに言うシオンだが


「もう、シオンったら調子に乗りすぎじゃない?」と直後に言葉に諭され、二人とも笑い出す。このやり取りを見て、一日も思わず笑みを溢すのであった。


「ふふ、頼もしい限りね、これからもお願いね。あ、そうそう、今回の作戦のご褒美としてこの世界の観光旅行の許可が降りたわ。みんな思い思いの好きなところにいっていいわよ」


一日は早速本題を告げる。


「観光?でもどこにいけば・・・」


いきなりの話に困惑する木の葉。


「確かにね。でも、こうした事を決めていくのもこれから必要な事」


といきなりになれる事も必要だと遠回しに言う一日。


「そうだね、じゃ、地図を見て決めようか」


命の提案に賛同した一日達は早速地図を広げ、そしてそれぞれ思い思いの場所を指差す。


「じゃ、皆、今からそこに送るわね。帰り方は・・・分かってるわよね」

「ええ、忘れたりしませんよ」


一日の確認と問いに迷いなく返答する一同。


「じゃ、行くわよ。繋がりし指標」


と言って命達の周囲に青い光を出現させてその光と共にワープさせる。


それを確認すると


「じゃ、私もいくかな」


と言って自分にもその技を使う。


一日がワープを終了すると、そこには都会と言える光景が広がっていた。


「ここがこの世界の首都、サンクチュアリ・コアね。流石機械文明が発展した世界、どこもかしこも機械と技術で溢れてるわ。ふふ、こんなに好奇心が刺激されるのは何時以来かな?」


辺りを見渡した一日は楽しげな表情を見せながら歩いていく。そして各所を見て回り、時にこの世界の通貨で買い物を楽しんでいると一人の子供が泣いている所に遭遇する。


「どうしたの君?」


一日が目線を合わせて話しかけるとその子供は


「家族の皆と逸れちゃったの・・・」


と心細い泣き声で言う。


「それは大変、一緒に探してあげるね」


そう子供に接すると更に


「揺蕩う求め!!」


と声にならない声で言う。


その数十秒後、


「お姉ちゃんと一緒に行きましょう。皆の居場所、分かったから」


一日がそういうと子供は何処か困惑しながらも


「う・・・うん」


と了承し、一日は子供の手を引いて一緒に歩き出す。


「こうしていると平穏ね。ここが占領下とは思えない。まあ、あちこちに魔王軍の兵士が跋扈している様子だと一度悶着が起きれば厄介な事になるわね」


周囲を見渡しながら、一日は状況を分析する。


そして子供の手を引き、その引率者の元に向かうとそこでは子供の家族らしき人達に対し魔王軍の兵士が


「おら!!どこ見てんだ?」


と恫喝していた。


両親らしき人が


「す、すみません・・・子供を探していて・・・」


「その探している子供と言うのはこの子の事ですか?」


割って入った一日はその人と手を引いてきた子供を合わせる。


「ええ、この子です。ありがとうございます」


出会った瞬間、その人と子供に笑顔が戻る。


「それは良かった、そして・・・直ぐにこの場から離れて下さい!!」


親子の再会を見届けた一日、だが続けて出た言葉に


「え・・・でも・・・」


と子供が躊躇いがちに言う。


「いいから早く!!」


一日の思いに押されたのか、その家族は


「・・・分かりました!!ありがとうございいます。」


と言ってその場から走っていく。


「おい、お前・・・」


割って入られたことで当然の様に不機嫌になる魔王軍兵士。しかし一日は


「私の身分ならこういう者よ」


そう言うと魔王軍の身分証を突きつける。


「・・・失礼致しました!!あなたが新たに・・・噂には聞いておりましたが・・・」


身分証を見た兵士が一転してと敬礼するが一日は


「敬礼はいいわ。それよりも、もう直ぐ一大決戦が始まるの。その前に変な悶着を起こして戦意を煽る様な事はしないで頂けないかしら?」


と諭す。


「え・・・しかし・・・」


どこか納得がいっていない様子の兵士に


「力による支配は必ずより強い力を求めた反発を生み出す。故に上手くいかないの。私はそれを何度も身をもって経験してきた。

まあ、いきなりやり方を変えろと言っても上手くいかないのも分かるから、少しずつでいいわ。力以外の方法を考える事だけは続けてほしいの。貴方にも、他の皆さんにもね、それじゃ」


と更なる諭しを行う一日。だがその直後


「柄にもなく気取った言葉ね・・・自分自身、それが出来ているのかどうか疑問なのに・・・でも、私は・・・」


と自分に向かって呟くのであった。


そして暫く歩いていくとそこには大きな墓地があった。それを眺める一日。


「墓地・・・か、どうやらこの世界にも死者を埋葬する文化はあるみたいね」


どこか胸を撫で下ろした雰囲気を見せて呟く、それは自己皮肉の様にも見えた。


「あれ?彼処にいるのは・・・」


一日の目に誰かが飛び込んでくる。その人物の元に駆け寄るとそこにいたのは木の葉であった。


「木の葉ちゃん」


墓地の中に入り話しかけると


「一日ちゃん、貴方も来てたんだ」


そう木の葉は返す。


「ええ、お互い妙なところに来ちゃったわね」


そう微笑みながら言う一日に


「そうね。もうすぐここにまた新たな名前が刻まれる。そう考えると、せめて下見くらいはしておいた方がいいのかなと思って。それに私、幽霊とか結構好きだし」


と返答する木の葉。


「幽霊?」

「うん、例えばそこに有る穴、以下にも幽霊が出そうじゃない」


そう言う木の葉は近くにあった穴を指差す。そこは階段が備え付けられた明らかに出入り口と言える穴であった。


「階段・・・何でこんな物がこんな所に・・・」


明らかに不釣り合いな存在に違和感を感じる一日、そんな彼女を横目に


「ね、一寸入ってくるね」


と言って下に降りていく木の葉。それを見た一日は


「ちょ、一寸木の葉!!」


と言って後を追っていく。そして下に着くとそこには機械が装着された人間が数人倒れていた。


「何だ、幽霊だと思ったら足は有るんだ、動かないけど」


何処か残念そうに言う木の葉。そこに後から入ってきた一日が合流する。


「木の葉、そこに何が・・・危ない!!」


急に声を強めて木の葉に飛びかかる一日。次の瞬間、倒れていた人間が左手と同化した大砲を木の葉の居た場所目掛けて撃ってくる。


「いきなり動き出した!?」


困惑する木の葉を庇う様に重なりながら


「これは・・・見する啓発!!」


といって瞳を赤色に染め、動き出した人間を見る一日。


「一日ちゃん・・・」

「あの人間達は繋がれた機械を動かすパーツとしてしか既に存在していない。もう人間としての意思は無いわ。生きているとは言えない・・・」


赤い瞳で対象をみ、その詳細を分析する一日。その結果を聞くと


「じゃ、私達に出来る事は・・・」


と木の葉は回答し銃を構え、それを見た一日は


「ええ・・・楽にしてあげることだけよ」


と先程までの笑顔とはうってかわった少し沈んだ声で言う。


木の葉は機械部分に向けて乱射して破壊した後


「さっきの作戦時に武器として与えられたこの世界の技術で作られた銃・・・フリーチェさん達が事前に入手してくれていたものがこんな形で役に立つなんてね」


と呟くが、顔に笑みは無く、一日と同様にシリアスな顔を見せる。そして乱射が終わり、全ての機械を破壊すると


「ここは墓地・・・安らかに眠ってください」


二人はそういって祈りをささげ、その場を去る。


「今のは一体・・・」

「新技術か何かの失敗作が放棄されていた。そしてその機能の一部が生きていた。そう考えるのが妥当な線ね。やっぱり、どこの世界にも暗部はあるのね・・・」


木の葉の疑問に答える一日、この世界にも暗部がある事を知った為か、言葉の沈みは続いていた。


そして墓地を出ると


「泣いても・・・いいのよ」


一日と木の葉にそう告げるがそれを聞いて


「いえ、大丈夫です。其よりも旅行を楽しみましょう」


と木の葉は気持ちを切り替えようとする。


「そうね、それがいいわね。じゃ、また後で」


一日もあえて言及はせず、別れた二人は其々観光を楽しむのであった。

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