第25話 進行する絶望

「ねえ、彼等はどうしてる?」

「元の世界に戻っていったわ。この世界の残党と一緒にね」


一呼吸おいて命が改めて一日に聞く。


「そっか。じゃ、僕達も・・・」

「ええ、久し振りに学生を楽しみましょうか」


その質問に答え、嬉しそうな笑みを浮かべる二人。翌日、これまでと変わらぬ顔で元の世界の学校に一日と命は通い始める。それは一見すると争いとは無縁の平穏であった。だがニュースをつければ先日の宣戦布告についての不可解な報道が未だになされ、その勢いは留まる所を知らず拡大し続けていた。


「これが・・・今の世界・・・」

「ええ、一見すると平穏、でもその裏は争いと不信で包まれている・・・先日の宣戦布告の結果、世界中で同じ様に宣戦布告するべきだと言う声、それに便乗したテロ行為等も増加傾向にあります。そしてその結果、人々の心は荒み、日常にも影を落としています・・・」


テレビのニュースを眺める生花が呟くとチュアリもそれに続ける。


「早く奴等の目論見を・・・」


テレサが焦った口調で言いかけたその時、聖の元に日本首相から連絡が入ってくる。それに応対すると


「はい・・・何ですって!?」


と驚愕する聖。


「聖さん、一体何があったんですか!?」


望がその連絡内容を聞くと


「日本は現時刻を以って、指定した44カ国に対して独自の支援を行う事を決めた・・・と言う事です。そしてその国は・・・」


と言い、その対象の国を挙げる。


「その国って・・・つまり、奴等はこれを足掛かりにして外部にも戦力を提供するつもりなの・・・」

「そういう事に・・・なりますね」


望が震えた口調で言葉を辛うじて出すと聖も声を震わせながら答える。


「くそっ、何てこった!!この状況で奴等に海外への戦力提供を許したら・・・」「日本と同様の恩恵を受ける国が増え、崩す事が一層困難になる・・・」


腕を振り下ろして苦悩する希有とチュアリ。更に残酷な事に


「既に法案は通っており、覆すのは極めて困難な状況です。そして例の情報操作により、この事実すら知らないのが今の国そのものです」


と言う追い打ちをかける言葉が聖の口から発せられる。


「良いの?折角日本が防衛戦力を整えてきたのに・・・」


一日経由でこの話を盗み聞きしていたシオンが一日に聞くと


「ええ、今回持ち出したのは先日制圧したレジスタンス基地から押収した型落ち品。性能上では私達の方が上だし、使いこなせる熟練者も育っていない現状ではそれを使って反乱を目論むのは馬鹿だけよ」


一日は余裕の返答を浮かべる。


「レジスタンスの基地を制圧したのはそうした狙いもあっての事だったんだね」

「ええ、リサイクルはしっかりしないと。環境の為にもね」


木の葉の発言に皮肉めいた返答をする一日。


「そして当然、それを運搬するのは・・・」

「勿論私達の仲間よ、既に出発してる。もし彼等が動いてきても、それはそれで好都合よ」


一日の笑みを浮かべた会話はさらに続くのであった。


一方聖達はこの情報を掴めても尚、何も出来ない事に苛立ちを募らせていた。


「何か手は討てないんですか・・・」

「残念ながら・・・奴等が海外に物資を運び出す手段も分かりませんし、それに分かったところで其を妨害すれば私達がこの世界の敵と見なされてしまいます」

「奴等の事だから恐らくそれも考えた上で行動してきたんでしょうね・・・」

「くそっ、これ迄の力ずくとは違うってか!!」


改めて今回のケースの異例さを認識したものの、それだけで事態を好転させる事など出来ず、先の見えない状態が続いていた。


「やはりあの霜月一日と言う嘗て世革だったと言う女子がその鍵なのでしょうか。だとしたら彼女の事を知る事が出来れば或いは・・・・」

「反撃の糸口がつかめるかもしれない・・・ですか。であれば、先日命君を尾行した時に現在の居住地を突き止めておけば良かったのですが・・・」


一日に何かの鍵があると改めて認識する聖達。そして一瞬の沈黙の後


「・・・今からでも探してみませんか・・・」


と生花が呟く。

「探すって・・・そうですね。どうせここにいても何も出来ない。なら動いた方がまだ良いかもしれません」


とロザリーも賛同し、一行は外に出る。だがこの会話も又、一日達に筒抜けであった。


「どうやら彼等は私達の家を捜索する気のようね」

「そんな事をしてどうするつもりなのかな?」


一日の伝達にどこか見下したような発言をする命。


「何も考えていないのか、それとも何かの奇策あるのか・・・ま、何れにしてもここは下手にリアクションを見せず、普段通りに振る舞っておく方が良いわね。先日の世界の戦闘で彼らも情報漏洩の事実を疑い始めている。此方の手の内をあまり見せたくはないわ」


一日もそれに同調するが、警戒は緩めなかった。


「じゃ、こっちは予定通りに物資を運び込むね。」

「頼んだわよ、シオン。今回の支援先の国にはあなたの祖国もあるのだから」

「言われなくても分かってる。僕の祖国を救済する戦いを始めますよ。半ば密入国に近い形で日本に来て、気がつけばこんな大きな事をしてる。ビックリしているけど嬉しいよ。この嬉しさを少しでも祖国の人達と分かち合いたいから」


一日がかけた贈る言葉に満面の笑みを浮かべるシオン、この笑みに不気味さはなかった。


「そろそろ時間ですね、じゃ、私達は作業にかかります」


言葉がそう言うと命と一日以外のメンバーはその場から離れていく。それから一時間後、とある自衛隊基地より輸送艇が数気の戦闘機の護衛の元、飛び立つのであった。


その頃、聖達は先日命を尾行した道を辿り、世革の偽物と交戦した公園まで来ていた。


「命を見失ったのはこの辺りです。だから・・・」

「小学校への通学であればそんなに遠い場所には居住しない筈。この辺りにある可能性が高いと思います」


生花の発言に聖がつづけ、一行は捜索を続ける。しかし、探せども探せども怪しい建物は見つからず、時間だけが無情に過ぎていく。


「あるのは普通の家ばかり・・・いえ、この場合・・・」

「ええ、その中に紛れていると考えるのが常識なのでしょうが・・・」


生花とロザリーの予測に


「だとすると下手にうろうろしていたら不審者に間違われかねない。一度公園に戻りましょう」


と聖は懸念を示し、公園に引き返す。


「皆さん、どうやら彼らの居住地は住宅地の中に紛れ込んでいる。そう考えて間違いなさそうですね」


状況を整理し、確定事項とする聖。


「ええ、でもそうだとすると・・・」

「怪しい子供が入っていく家があればそこが・・・ですが、それでは私達が付け狙う不審者に思われてしまいます」


予測が当たっていた場合の懸念を表明する希有と望。


「その点を何か考える必要がありますね・・・今日の所は引き返しましょう。何か策を考えることが必要です」


聖が何かを考えようとしたその時、再び日本首相から連絡が入る。


「ええっ!!・・・分かりました・・・」


応対した聖が驚愕すると


「今度はどうしたんだ?」


と聞くテレサ。


「先程、支援を表明した国に正式に補給物資が届けられたと連絡が来たよ。恐らくはその中に奴等の息がかかった物資が積み込まれているんだと思う」

「首相からその事が伝えられたのは二時間前・・・でも日本から・・・と言う事は!!」

「うん。超高速で移動する手段か或いは瞬間移動の技術を提供したんだ」


手際からフリーチェの息がかかったことは容易に想像出来た。


「此でこの世界の混乱は益々激しくなり、フリーチェ達の目論見を暴くどころではなくなってしまう・・・」


焦燥の顔色を隠せない生花。


「しかし・・・我々の世界の時とは本当に何もかもが違いますな・・・我々の世界の時は単なる力押しでしかなかったのに・・・」


ソルジャが相違点を改めて知ると


「ああ、だから俺達の対応が悉く後手に回ってしまっているんだ」


とテレサがそれ故に対応が後手後手になっていると話す。


「兎に角戻りましょう。話はそれからです」


そう言って公園を後にする聖達。だがその直後、砂場で遊んでいた二人の子供が


「ふふっ、今の聞いた?」

「聞いた聞いた。自覚はできていても何も出来ない。無能って嫌だよね」

「あれが僕達の・・・って考えるとだね」

「本当本当。救済のしようがないよ」「そろそろ帰ろっか。遅くなると一日ちゃんも心配するだろうし。あと命君やシオン君、木の葉ちゃんに言葉君もね」


と薄ら笑いを浮かべながら話すのであった。


一方、帰宅した聖達は例の支援の話がニュースはおろか、ネットですら流れていないことに戸惑いと憤りを感じていた。


「どこでも流れていません・・・こんなに重大な事なのに・・・検閲でも掛けられているのでしょうか・・・」


片っ端からニュースをチェックする希有に


「日本はおろか、その対象の国でさえ流れていない。だとするとその国の情報網は既に押さえられている可能性もありますね」


チュアリはそう告げ、事態がより深刻な状況に陥りつつある懸念を示す。

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