第26話 シオンの策略 繰り返される敗戦

「ぐうう・・・厄介な手を使ってきますね・・・」


歯を軋り、唇を噛み締めるソルジャ。


「これで支援を受けた44カ国は私たちの敵となる・・・そう考えてまず間違いないと思います」


残酷な現実を告げるロザリーに


「何故です!!まだそうだと決まった訳じゃ・・・」

「いや、ロザリーの言う通りそれらの国は私たちの敵になると思う。恐らく奴等の目的は今回の支援を通じてそれぞれの国に息を吹き掛ける事だからね」


反論しようとする生花を諭す様に話す聖。


「息を吹き掛けるって・・・」

「つまり、此を切っ掛けにしてそれぞれの国の政府に入り込み、政治面から牛耳ろうとする・・・そう言う事ですね。それもかなり上の方まで侵食して」


困惑を隠し切れない望に開設するように話すチュアリ。


「どうすればいいんでしょう・・・」


途方に暮れるような声を挙げる望。


「この件に関しては私たちではどうしようもない。其よりも今出来る事はこの近辺に有ると思われる霜月一日の住居を突き止め、彼女を問い詰めることだろう」


聖は何とか気持ちを切り替えさせようとし、それを察したのか


「そうですね・・・命と一緒にいたあの子を探し出すことが出来れば・・・」


生花も同意する。


「しかし・・・私達は以前の交戦時に軽くあしらわれてしまっています・・・このまま真っ正面から向かっても勝ち目は・・・」

「ああ、ぶつかるのは未だ先になるだろうな。だが今は居住地を突き止めることだけを考える。戦い方はそれから考えても遅くはない筈だ」


不安が抜けきらない希有にあくまでも前を向く様に促すテレサ。そこには絶望を振り払いたいという思いが強く滲み出ていた。


同時刻、自宅の玄関で佇む一日。そこに


「ただいま、一日ちゃん」


と声を揃えて公園で遊んでいた二人の子供が入ってくる。


「お帰り」


そう一日が返答すると


「ねえ、さっき公園でさ、例の人たちが話してるのが聞こえてきたよ」


と先程聞いた会話の事を話し始める。


「例の人って、彼らの事?」

「うん。どうやらこの家を探しているみたい」


一日と二人の子供がやり取りをしているそこに


「それは穏やかじゃないね」


そう告げながらシオンが帰ってくる。


「シオンお兄ちゃん、もう帰ってたの?」


少々不思議な顔で見つめる子供に


「うん。何しろ光速で移動するステルス輸送機だからね。誰にも見られることなくあっという間に移動できたよ」


と誇らしげに語るシオン。


「それはそうと、彼等がこの家を探している・・・か」

「どうするの?このままにしておく?」


子供が一日に聞くと一日は


「発見される可能性は低いけど、もし発見されたら乗り込んでこられるかもしれないわね。そうなれば先輩達やフリーチェ様の手も煩わせることになる。先手を討っておきたいわね」


その時シオンが


「だったらさ、こういう作戦はどう?」


と何かを思いつき、それを話す。其を聞いた一日は


「良い作戦ね。任せても良いかしら?」

「勿論だよ!!一日ちゃんの為にもストーカーは追い払わないと」


と一日はシオンの作戦を採用し、その指揮を執らせる事を決める。


そして翌日、聖達は以前と同じ見張り部屋で命や一日が通学する小学校を見張る。


「今日もやはり裏口から出るつもりでしょうか?」

「そう考えていいでしょうね、なので放課後になったら・・・」


希有の問いかけにロザリーが答えるがその途中で玄関のチャイムが鳴る。


「チャイムが・・・鳴った?この建物は買い手がおらず、持ち主のいないマンションの筈なのに・・・」


チュアリがそう呟いた瞬間


「そうなんですか・・・それは好都合ですね」


と言う声と共にシオンが現れる。


「貴様、何者だ!!」


想定外の来訪に声を荒げるソルジャに対し


「おやおや、子供に向かって貴様とは、如何やら僕の事を察している様ですね」


と一日譲りの挑発めいた発言を吐き捨てるシオン。


「と言う事はやはり、お前は・・・」


テレサがそう口にすると


「ええ、一日ちゃんの仲間ですよ。僕はシオン、シオン・エパナス」


と自らの名前を名乗る。


「貴方は命の事を知っているの!?」

「命君なら仲良くさせてもらってるよ。でもそれをあんたに、そしてあんた達に話す義理は無いね」


必死の表情で聞き出そうとする生花をあざ笑うかのように対応するシオン。


「なら、少々強引な事をしてでも・・・」

「そうだね、黙ってもらいましょうか」


ロザリーが交戦体制をとった次の瞬間、シオンは手元に何かのリモコンを出し、そのスイッチを押す。すると部屋の天井が爆発し、崩れた天井が降って来る。


「くっ、セント・アーク」


聖は光の膜を張り、瓦礫を防ぐがその直後下の床も崩れ聖達はその下の階へと落下していく。聖は膜を下にも展開して落下する一行が叩きつけられるのを防ぐが防いだと同時に床が崩れていき、一行は更なる下へと落ちていく。

それが一階ホールまで繰り返され、漸く落ち着いた時、光の膜はボロボロになりながらも辛うじて展開され、一行も打ち身はしていたものの全員無事であった。


「皆さん、大丈夫ですか!!」

「ええ、何とか。ですが今はそれよりも早く外へ!!」


チュアリの心配する声を合図に一行は外へと走っていく。だがそこでシオンとシオンが引き連れている子供達に取り囲まれてしまう。


「あれだけの落下と衝撃に耐えうるなんて、やっぱりあの戦いを生き延びたのは伊達ではないという事ですか」


外に先回りし、待ち構えたシオンの挑発的な発言に


「あの戦い・・・貴方達も参加していたの?リベリオン・フォートレス戦に!!」

と問いかける。するとシオンは


「この子達は参加していませんが、僕は参加していましたよ。一応本拠地と言う事で少しでも戦力が欲しいというお話でしたから」


と自慢げに語る。


「この子達も命と同じ様に・・・」

「ええ、命君は僕と同じ様に一日ちゃんの理念に共感し、共に戦う事を決意してくれた子達ですよ」


引き続き自慢げに話すシオン。そんなシオンにテレサが


「何が理念に共感だ!!無理矢理・・・」


と怒りの発言をしようとするがその瞬間に子供達はテレサに向かって一斉に発砲する。


「くっ!!」


そう言いながら側転で銃弾を躱すテレサ。それを見たシオンは

「駄目だよ君達。どんなに薄汚れた汚い言葉でも一応最後まで聞いてはあげないと。それにこのままじゃ銃弾の無駄遣いだよ」と諭す。


「どうします、取り囲まれている以上・・・」

「止むを得ない・・・強行突破する!!殺傷は避けて!!」


動揺する望に聖は決断するが


「心配ご無用だよ。僕達はあんた達に殺られる程やわじゃない」


と挑発を繰り返す。


「そうかい!!なら子供と言えど、叩かれること位は有るってことも知ってるんだろうな!!」


希有はシオンの回りにいる子供に向かっていくがその子供は意図も容易く身を翻すと希有の手を足場にして浮かび上がり、顔を蹴り飛ばし、希有を地面に擦らせながら元の位置に戻す。


「貴方!!」

「何だ、この子達は・・・今の力は・・・」


心配の顔で希有に駆け寄る望と戸惑いの表情を浮かべながら立ち上がる希有。


其を見たシオンは


「子供に手をあげようとしたばかりか、返り討ちにされるなんて、無様だねえ」


と嘲笑い、希有は悔しそうに唇を噛み締める。


「今の体術・・・あれって!?」


その一部始終を見たロザリーは何かの疑問を抱くのであった。


「さあ、どうしたの?もう来ないの?なら今度はこっちからいくよ!!」


シオンは子供共々聖達に迫り、そしてその銃撃と体術の見事な連携に聖達は追い詰められていく。


「おい、やべえぞ!!このままじゃ・・・」

「こうなれば・・・」


テレサと聖は身構えるが


「ディメンジョン・ゲートを使用しましょう。この状況で逃れるには其しかありません」


とロザリーは断定する。


「ロザリー、この程度の相手なら・・・」


テレサはあくまで戦おうとするが


「恐らく奴等はここで私達が子供達に倒されれば良い、もし倒されなくても私達が子供達を殺傷する光景を記録出来ればそれはそれで良い。そうした計画を立てている筈です。だとするとこの状況を打開するにはそれがもっとも確実です」


とロザリーが告げると止むを得ないといった表情で頷く。


「相手が相手なだけにね・・・」

「ディメンジョン・ゲート展開!!」


ロザリーはディメンジョン・ゲートを出現させ、その中を他のメンバーと共に潜って逃走する。


「ちっ、逃がしましたか!!」

「いや、いいんだよ、これで・・・」


悔しがる子供にシオンはこれでも別に構わないといった口調で告げ、別の子供が


「いいって・・・どういう事です?」

「次から網を張るのが楽になるってことさ」


と、ここまでも又計画通りであると言わんばかりの表情で告げる。


ディメンジョン・ゲートで離脱した聖達は秋月家に戻り、今回の一件を整理していた。

「・・・又ですね・・・」


聖がそう呟くと望は


「何が又なんです?」と聞き


「こちらの動きが完全に読まれた事です」


そう聖は返答する。


「そう言えば、ロザリーさんの世界に向かった時も・・・」

「やはりどこかから情報が漏れているのでしょうか?」


その疑念をますます強める聖達。


「だとしたら一体・・・この話を知っているのは俺達だけ・・・だが、もしそうだとしたら!!」

「否、だとしたらあれだけ容赦なく攻撃してくるのは妙だ。だとすると、私たちには想像もつかないような手段で入手しているのかもしれない」


良からぬ方向に話が進みそうになるのを何とか制止する聖、それはそうであってほしくないという渇望の表れでもあった。

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