第24話 新たな可能性 進む絶望

絶叫を聞き終えた一日がその場から立ち去り、牢屋の入り口に着くとそこには命、シオン、木の葉、言葉が居た。


「あら・・・皆来てたのね」


まるで出先で偶然会ったように話しかける一日に


「当然でしょ、彼等を捕らえたのは僕達なんだからその後どうなるのか興味はあるよ」


と笑顔で返すシオン。


「それもそうね」


一日は軽く返答する。


「彼等にも与えたの?新しい可能性と選択肢を」


木の葉がそう問いかけると


「可能性と解放は行ったけど選択肢はまだよ。いきなり一気に差し出しても選べないでしょう。さて・・・どんな選択をするのかしらね?勿論選択肢次第では・・・」

「任せてよ」

「頼もしい一言ね」


一日の言いたい事を察し、先に返答を返す木の葉。そんな彼女に一日も頬を緩める。


「所で話は変わりますが、今回もヒリズ先輩はあのロザリーって女を取り逃がしてしまいましたね。それにあの展開・・・どちらも本気を出しているはずなのに・・・」

「毎回互角の勝負になって終わってしまう・・・ね。しかもそれはヒリズ先輩に限った事じゃない。回帰先輩、神消先輩もまた同じ様な状況を繰り返している・・・となるとやはり・・・」


何処か不自然な点があると言いたいと言わんばかりの命、それは一日も同じであった。


「うん。一日ちゃんが以前言っていた可能性がさらに高くなったね、でもそっちの方については未だに何の手掛かりも掴めていないよ」

「そう簡単に手掛かりが見つからない話とはいえ、こうまで続くと流石に一寸焦ってくるね」

「そうね。なにか手掛かりがあればいいのだけど・・・」


この言葉を皮切りに議論が始まる一行、先ほどの談笑の空気はもうどこかに行ってしまっていた。


「手掛かりか・・・」


そう内心で考えた一日は


「ならダメ元で今回制圧したレジスタンスの拠点を調べてみましょう。もしかしたら先輩達のデータが残っているかもしれない」


と告げ、他のメンバーも黙って頷く。そして少しの沈黙の後


「拠点で思い出したのですが、各地のレジスタンスの残党はどうするんですか?最大拠点を落とした事で空中分解するとは思いますが・・・」


と言葉が正に思い出したと言わんばかりに唐突に発言する。


「すぐに抵抗が止む事はないでしょう。でも放置もしてはおけない。ならば利用させてもらいましょう」


と不気味な笑みを浮かべる一日、その笑みの不気味さは以前にも増していた。


その頃、ヒリズは自室で一人佇んでいた。そして机に突っ伏しながら


「今回も結局、いつもと同じ展開になっちまったか。どうしてああなるんだ?くそっ、考えれば考えるほど分からなくなる!!」


と髪をかき乱す。そして暫くすると気が収まったのか


「まあ、今回はあの忌まわしい組織を大方潰せただけでも由とするべきか。だが、それにしても一日はどんな方法でこの世界を統一する気なんだ?力による支配は望んでいないようだし・・・」


と冷静に呟く。その時、ドアのノック音が響く。


「はい?どうぞ」


そう返答すると扉を開けて一日が入ってくる。


「一日か、どうかしたの?」


先程まで疑問を抱いていたことを悟られないように平静を装うヒリズ。


「解析を任せたこの世界の技術について進行状況を聞きに」

「それなら進行はそこそこって所だね。レジスタンスが抵抗を続ける筈さ。僕達に差し出していなかった技術だらけなんだから」


一日の質問内容から先程までの疑問との関連性はないと判断したのか、落ち着いて返答していくヒリズ。


「その技術・・・一体何処が出所なのでしょうか?」


技術の疑問点を話す一日、どうやらこれが目的のようだと悟ったヒリズは


「一日も検討はついているんじゃないか?」


と返す。

そう返された後


「先日の墓地の事件ですね。だとは思いますが、だとすると直ぐには全部を出さないでしょうね」

「ああ、だから・・・」


と返し、ヒリズの考えが見通せたのかその言葉を遮って


「いえ、それは得策ではないでしょう。ここは・・・自分達から差し出すようにすればいいんですよ」


と告げる一日。


「自分達から差し出す・・・?」

「ええ、奪うのではなく、与える事によって。あ、既にフリーチェ様の許可は得ていますので」

「既にそこまで回していたか・・・」


笑顔でさらっとそういってのける一日にヒリズは頼もしさと共にどこか恐怖心を覚えていた。


その頃、ロザリーの世界から退却した聖達はその先に繋がっていた元居た望達の

世界におり、同行したレジスタンスも含め今後の事について話し合っていた。しかしその空気は重苦しく、沈んだ物であった。


「他の世界と共に戦う・・・その筈だったのに・・・」

「はい・・・まさかこの様な事になってしまうとは・・・」

「しかも私達があの世界に行った瞬間に奴等は急に攻勢を強めてきた・・・これは・・・」

「私達の行動が筒抜けになっていた・・・そう考えるしかないの・・・」


それぞれが話す言葉はどれも重く苦しい物ばかり、希望等欠片も感じられなかった。


「ロザリーさん・・・」

「・・・まだ、滅ぼされた訳じゃありませんから」


希有が心配そうな声を挙げるとロザリーは辛うじて前向きな言葉を絞り出し、口にする。


「でも、一体どこから情報が・・・」


生花の疑問に


「考えたくはないですが・・・」

「滅多な事は言うんじゃない!!上空から見張られていた可能性だってあるんだ!!」

「・・・はい」


レジスタンスメンバーが言いかけたことを察し、大声をあげて制止するソルジャ、それを察したのか、メンバーも仕方なく言葉を飲み込む。


「この世界の状況も更に悪くなっていますね・・・日本内部は平穏ですが、フリーチェに対し疑問を呈する事は最早表だって出来ない状況になっています。韓国の宣戦布告以来、日本に自衛戦力の提供までしている様ですから」

「つまり、奴等との交流無しでは日本を守れないと?」


世界の現状を告げ、楽観視出来ない事を知らせる聖。


「ええ、今や自衛隊にも奴等の開発した武器が支給されている状態です。今はまだ訓練状態でありますが、場合によってはその照準が私達に向いてくる可能性もあるでしょう。

それに、この事実によって言葉やルールでは何も守れない事が露わになり、自分以外の人との関わり方にも徐々に変化が現れているとの事です。」


聖の口から語られるのは更に残酷な現実であった。


「人との関わりに変化?」

「ええ、心の奥底から信頼すると言う事が遠い夢の話になり、合理的、最小限の関わりが世界規模で蔓延しています」


生花が聖に聞くと、聖はその非常な現実を更に説明する。


「そんな世界で・・・そんな世界で人は生きていけるのでしょうか・・・」

「生きていける・・・では無く生きて行かざるを得ない・・・その状況を作りだす事こそが奴等の狙いなのかもしれませんね・・・」


望の疑問に返答し、何とか前を向こうとするロザリー。


「生きていかざるを得ない?」


疑問を抱かずにはいられない表現をするロザリーにテレサが聞く。


「ええ、今は変化と言うものが起こっているから戸惑い、苦しみ、葛藤しているけど、やがてその状況がスタンダートになってしまえば変革など起き様が無くなる。恐らく自分達の息がかかった国会議員を使い、この心理状況においても世界を循環させるシステムを作り出す事を考えているんでしょう。

そして、それに反対する声も既に挙がらなくなっている・・・」


テレサの質問に淡々と答えるロザリー、その抑揚の無さはやはり隠し切れない。


「ええ、宣戦布告と今まで信じてきた物の崩壊と言う極端な危機に晒された事により、既に国全体で思考が麻痺しています・・・しかも其はこの国だけでなく、世界規模で起こっています。本来であれば一致団結を呼び掛けたいのですが・・・」


話を続ける聖だが打つ手は見つからず、八方ふさがりの状態であった。


「この世界の状況は理解しましたが、皆さんは此れからどうなさるおつもりですか?」

「どうする・・・か。本来であれば更に別の世界に行き、協力を要請したい所なんだけど・・・」


ソルジャが問いかけるとロザリーは懸念を強く浮かべた声で答える。


「ああ、情報漏洩の原因が分からない以上、このまま次の世界に行っても又同じ事の繰り返しになる可能性が高い。だが、かといってこのまま手をこまねいている訳にも行かない・・・」


聖はそう呟く。その呟き通り、この会話は一日達に筒抜けになっていた。


「一日ちゃん、次はどうするの?」


筒抜けの会話を聞き、今後の方針を考えている一日に待てないとばかりに命が聞く。


「奴等は次の行動をどうするべきか迷っているわね。ならその間に私達は足場を固めましょう」

「足場って・・・もう十分固まってない?」

「ええ、でもまだ不安要素が全部取り除かれている訳じゃないわ。不安要素となる反乱分子を見逃した為に此方の計画に綻びが出る可能性も十分考えられる。だから先手を討っておくの。」


そう方針を告げる一日。


「それには彼らも同行させるの?新たな可能性を選択した彼らも」

「命がそうしたいのならそうする?」

「それは・・・其はまあ、実践投入は早い方が色々と訓練になるしね」


何かを希望する命にそれを促す一日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る