第9話 世界の浸食

一方、帰還したフリーチェは配下のヒリズ、回帰、神消と今回の一件に着いて話し合っていた。


「一日、本当に凄いな・・・俺たちには考え付かない手でこの世界の一部を手中に納めやがった」


そう神消が口火を切ると


「ええ、ま、流石にフリーチェ様に会談に出てくれなんて行ったときはちょっとビックリしたけど、思えば全てがこのための布石だったんだね」


ヒリズが言葉を続ける。


「その一日はまだ来ないのか?」


フリーチェがそう言ったまさにその時


「申し訳ございません、最終確認を行っていた為遅れました」


と言う声と共に一日が入ってくる。


「今までの我々にはなかった作戦でこの世界の一部を手中に納めるとは、見事な手だ」


そうフリーチェが上機嫌な言葉をかけると


「もったいないお言葉です。ですがありがとうございます。此で奴等はこの世界での協力者、拠点を大きく失う事になるでしょう。一致団結を誓っていた各国首脳までもが奇病で暴れだした。この事実があれば民間レベルでの連携は著しく低下する筈です。奇病発生も続いていますし」


と一日は謙遜しつつも満足げな笑みを浮かべる。


「で、次は何をするつもりなの?」

「日本国内に残っている反乱分子の対処、そして次なる一手として中東エリアへの侵攻を行うつもりです。そろそろこちらの戦力も投入して良い時期に差し掛かってきましたので」


ヒリズの問いかけにも一日は笑みを崩さずに答える。


「こちらの戦力って・・・軍の兵士を差し向けるってこと?」

「それもあるにはありますが、横槍が入りにくいあちらの兵士を先に投入しようと思います。まあ、みてて下さいよ」


そう告げると一日は部屋を後にする。


「一日・・・やはり恐ろしさが何処かにある・・・」


神消しがそう告げると


「ああ、もしかするとあの子は私たちの手に終えない存在なのかもしれない・・・」


フリーチェも魔王らしからぬ不安を含めた声を出す。


部屋の外に出た一日、すると部屋の前には命が立っていた。


「一日ちゃん、これで・・・」


命に声を掛けられた一日は


「まだ完全とは行かないわね。交流を締結させたとはいえ得体の知れない連中が行きなり来るのはやはり警戒するもの。先ずは此方の信用を得て置くことが大事。だから彼らに遊びに来てもらいましょう」


と返す。その両者の間にはどこか不気味な笑みが満ちていた。


一方、聖達は日本、秋月家を訪れ、今回の経緯の詳細を説明していた。動画を送ってくれた秋月家には事情を知っておいてもらった方がいいと考えたのである。


「そんな・・・魔王と日本が・・・」


ショックを隠し切れない様子の未末。


「ええ、恐らく今回の事件そのものがこの国を支配する為の布石だったのでしょう。怪事件で信頼関係を断ち切り、その事件が会談中に起こってしまった。そう考えさせることが魔王陣営の狙いだったんです」


聖がそう伝えると


「既に日本政府は魔王の国との交流準備を進めています。首相だけは真実を承知してくれていますが現状では押さえ込もうとしても逆に辞任に追い込まれ、それこそ魔王の思う壺となってしまうでしょう」


ロザリーも念押しに続ける。


「各国代表の皆さんは・・・」


様々な心配が入り混じった声で聴く望、そんな望の気持ちを察したのか


「私達が保護した後事情説明、一度自分の国に戻られて今後の行動を思考されています」


と聖が現状無事である事を伝える。


「それが・・せめてもの救いか・・・」


希有は何とか希望を持ち続けようとする。それは弱さ故か、それとも・・・


「私たちは今拠点をアメリカに移して行動していこうと思います。皆さんは・・・」

「私たちはこれまでどおり日本に残り、日本の情報を皆さんに伝えます」

「せめて魔王陣営が例の事件を引き起こしている証拠を掴む事が出来れば・・・」


聖が今後の方針を告げると望と希有は引き続き協力する意思を伝える。


「分かりました。では、引き続きご協力をよろしくお願いします」


チュアリがそう告げると聖達は秋月家を後にする。


「其にしても気になるな・・・」

「何が気になるんだ?」


呟く聖に質問するテレサ


「今回の奴等の動きのタイミングだ。私たちが日本に要ることを承知の上で仕掛けてきたんだろうけど、それだけじゃない何かがある、そんな気がする」

「今回の一件で各国首脳の関係もガタガタになっちゃったしね。今は私たちがいるから辛うじて繋がっているけど、もしこのままの空気が続けば・・・」


聖とロザリーの返答、それは現状の不味さをそのまま物語っていた。


翌日、日本のとある街にて小さな子供が買い物をしていた。


「おや、坊や一人でお使いかい?」


それを見かけた鯛焼き屋の店主が話しかけると


「ううん、観光だよ」


そう子供は返答する。


「観光!?」

「うん。僕はこことは違う世界の一つ、AWって世界から来たんだ」

「違う世界って事は坊やは・・・」

「うん。この前交流することを決めた世界から来たんだよ。あ、お金ならキチンと両替して持ってるから心配しないで」


予想と違う返答に驚きを隠せない店主、更にその後の会話もどこか子供離れした

内容が目立っていた。

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