第10話 それぞれの現状

この一幕を皮切りに日本各地でAWの来訪者を名乗る存在が現れ始める。


彼等は出現と共に各地で財を投与して日本経済を循環させ、その循環を好景気へと導いていく。その恩恵は瞬く間に日本全国に恩恵を出す事となった。更にその一方で怪事件の頻度は落ち、更に治療薬を謳った薬の一般販売等も始まった事により民間人の凶暴化は鳴りを潜める。

しかし一度無くした信頼がそう簡単に回復する訳では無く、世論は疑心暗鬼の状態が続いていた。


この実情は日本首相や秋月家を通じ、アメリカにいる聖達にも伝わる。


「日本の現在はそんな事になっているのですか・・・」


TV電話越しに日本首相と対話し、そう呟くロザリー。


「はい。国民はその恩恵に預かれる事から今回の交流は大成功だと思っています。ですが・・・」

「当然、落とし穴があるという訳ですね」


首相の発言の真意を見抜く聖。


「はい。魔王の陣営は既に国会議員の大半を自分達の傀儡としています」

「傀儡だと?」

「今の国会議員の内、大半は魔王の陣営と何らかの形で接触した者です。そしてその者達は明らかに日本を魔王の物とする法律を次々と提出し、その成立を迫っています」


そう発言する日本首相の顔は真実を知るが故の不安が滲み出ていた。


「法案を・・・」

「ええ、例えば・・・」


そう言った日本首相はその一部を聖達に明かす。


「そんな法案を・・・」

「ええ、当然私個人としては成立させる訳には行きません。ですがこの状況で拒めば追い詰められてしまいます。更に国民にはこれが提出されている事すら伝えられていません。全体が恩恵に預かっている以上、水を指す様な情報は最早外に出ることすらないのです」


日本の現状を何とか伝えようとする日本首相。


「恩恵を得ているというのも不味いですね。既に他の各国では交流に失敗した事による講義活動が活発化しています。ですがその参加者もお互いを信用していない状態、参加者同士の殺傷事件等が毎日の様に起きています。

このままでは下手をすればこの世界そのものが自滅しかねません」


世界の現状を伝え、危機感を共有しようとするチュアリ。


「そうですね・・・ですが奴等もそれは不本意なのでしょう。なので先程お伝えした法律を作ろうとしているのかもしれません」

「その法律の成功事例を作り、それを世界規模で適応して統治するつもりか・・・何としてもその前に悪事の証拠を掴み、真実を明らかにしなければ・・・」


危機感と決意を改めて強める聖達。だが有効な手立ては見つからない。


その頃、一日は自宅で命、シオン、木の葉、言葉と会話をしていた。


「一日ちゃん、彼等は日本各地で上手くやってくれてるみたい」

「ふふ、楽しんでくれてるみたいで私も嬉しいわ。彼等が楽しんでくれればくれる程この国は良くなるのだから」


木の葉が口火を切ると一日は満足気な笑みを浮かべる。


「其にしても、彼らはいったいどうやって産み出されたのかな?」

「シオン、忘れたの?それを・・・・」

「ううん、忘れてはないよ。ただ、やっぱり気になるなって」


一日の笑みを確認するとシオンは全く違った話を振る。すると一日の顔から笑みが消え、少し現実感がある顔となる。


「そっちの方はどう?進展はあった?」

「今のところはさっぱりだねよ。やっぱりこの世界と違ってガードが固いからね。ただ、彼らがこの世界に来てくれたことで若干変化があったかもしれない」


一日の問いかけに答える命。


「そう、時間はかけても構わないから兎に角察知されないようにお願いね。場合によっては私達の最大の驚異となる可能性もあるのだから。

其はそうと、日本国内の状況はどうなってる?私も色々目にしてはいるけど聞いておきたいの」


更に質問を重ねる一日。


「今のところは傾向としては僕たちがここに来る前の状況に戻りつつあるね。と言っても表面の部分だけ。裏の部分は計画通りだよ」

「例の事件は魔王の仕業、自作自演の交渉だって言う噂もやっぱり一部では流れてるね。そして、逸れに乗じようとしている勢力も居る。まあ、この辺りは・・・」


一日の質問に言葉を続けて応える命とシオン。


「ええ、概ね予想通りね。当然その人たちは例の薬は使用していない。まあ偽薬なんだけど。でも折角だから活用させてもらいましょう」


その回答を概ね予想通りと答える一日、しかしその一部が気になったのか


「活用?」


と言葉が聞く。


「ええ、日本国内の邪魔者を一掃する為にね」と言い、又しても不気味な笑みを浮かべる一日。


それから数日間、日本各地で再び、今度は殺し合いにまで発展した暴力怪事件が起きる。当然このニュースは日本に居る秋月家の目にも入っていた。


「また怪事件が・・・あいつら一体何を・・・」


そう言う未末に


「どうやら奴等は日本国内の特定の団体を狙い撃ちにして居るようだ、これをみろ」


と言い、希有は望と未末にPC画面を見せる。そこには事件の起きた団体が所謂○○団体、○○派の団体、勢力であると言う噂があちら此方のサイトで流されていた。


「これは・・・つまり、奴等は・・・」

「ああ、どうやら日本国内を一色に染め上げるつもりのようだ。そして、自分達を利用しようとした為に制裁を加えた・・そんなところか」


望と希有はその目的を推測し、改めて危機感を覚える。その時


「日本が元々か変えていた問題点を利用する・・・ねえ、見てここ!!」


といい、未末が写っていた写真の一部を指差す。それは今回の事件に対する該当インタビュー映像の写真だった。


「どうかしたのか?」


希有が聞くと


「ほらここ、ここに写ってる人!!」


と大声で続け、インタビューに答えている人の背後に写っている人を指差す。


それを見た望が


「写っているのは・・・えっ!!」と言うと希有も


「これは・・間違いない!!」


と言う。そこに写っていたのは世革だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る