第七十一話 管理社会と楽園と

「つまり・・・この世界は機械に管理されていた・・・そういう事ですか?」


唖然としているのはソルジャ達だけでなく、ヒリズ達も同様であった。


「そう、この機械を完成させた存在は生命の感情を正と負に分離し、負の部分を浄化する事でこの世界の安寧を図ろうとした。そしてその計画は殆ど成功しかけていたんだ」

「でも、そうは問屋が卸さなかった」

「そう、本来浄化される筈だった負の感情は自身の生き残りをかけて異なる世界への扉を開き、そこから脱出したんだ。その脱出したのが僕、フリーチェだよ」


解説の体を取り、自身の過去を語るフリーチェ、その最中に命が口を挟むものの、フリーチェのペースは変わらない。話す事で自分自身の整理をつけようとしているようにも見える。


「しかし、どうして次元を開く魔法を使用できたんです?それに・・・」


回帰がフリーチェに問いかけると


「この世界の住民は元々魔法を使う事が出来た。その力の源は感情であり心、そして感情が一つに偏った事により増幅されたその力は大掛かりな魔法を使っても余りあるエネルギーを生み出した。システムの製作者の大きな誤算はここにあった」

「だとすると、私達が得たフリーチェ様の力というのは・・・」

「元々はこの世界の住民が持っていた魔法の力だよ。それが感情と共に流し込まれた物、それが君達の力だよ。最も、今やその力は僕の管轄下を超えて君達自身の物になってる。君達が感情を受け入れた時点でね」


フリーチェは回帰の疑問の原点、自身が与えた力について説明する。


「成程・・・つまり、あの機械を活用すればあんた達を・・・」


そういった望は中央の機械の元に走って行こうとする。だがそれを見た一日が


「黙する束縛!!」


と言い、黒い鎖を出現させて望達全員を拘束する。


「くっ・・・離せ・・・」


望達は口々に言うがそれを聞いた一日は


「そんな事出来る訳がないでしょう!!下手をすればこの世界が消滅しかねないのだから!!」


と一喝する。それは敵に対してというより、寧ろ無鉄砲を止めるような言い方だった。


「しかし・・・どうして皆さんは対照的な性格に分離したのでしょうか?ただ単に負の感情と魔法の力を注がれただけなのであれば・・・」

「恐らく力を注がれた人間の抑圧された感情である内なる子供に影響したのだと思うわ」

「内なる子供・・・」

「そう、内面に秘めた抑圧された感情の事をそう呼ぶ事があるの。私の場合はそれが幼い少女となって表れた。でも私は気付いていた。この少女も又私なのだと。だから私は受け入れた。そしてその結果気付いたの。フリーチェ様達の謎とこの世界の歪みに」


暗の発言に答える一日、その顔に揺らぎや困惑はなく、自分を持って発言している事が伝わってくる。


「それじゃ、貴方が使っていた子供兵士へと変貌させた魔法は・・・」

「そう、この体験に基づいて利用した物よ。でもその抑圧された感情は本来否定するのではなく許容するべき物。それを無理に抑圧し、否定するのは自分で自分の一部を殺していることになる。

だから、一部を殺そうとした彼等は許容する事を決めた先輩達やフリーチェ様に勝つ事が出来なかった」

「それじゃ、今目の前で起こった事も、テレサ達が取り込まれたように見えたのも・・・」


驚愕の表情を浮かべ、おどろおどろしい声を上げるムエ。それは淡々と話す一日に対する恐怖ともテレサ達の真実を知った上での動揺とも取れる。


「だから先程も告げた通り、先輩達は本来あるべき状態に戻っただけであり、決して消滅したわけではないのです」

「だが、それでも・・・それでも、このシステムが世界を滅ぼすという事の説明にはならない!!現にこの世界は俺達が来た時、輝いていた。笑顔を見せていた。それを・・・」


希有がそう言いかけるが、その瞬間一日が


「その輝きと笑顔こそが滅ぼす元凶!!それを肯定してしまったら世界に待つのは馴れ合いという螺旋!!」


とこれまでにない強い口調で切って捨てる。


「滅ぼす・・・元凶・・・」


口調にも言葉にも動揺を隠せない生花に


「貴方達は変だと思わないのですか?この世界の住民が貴方達がぶつかっても顔色一つ変えずにニコニコしている事に」

「それは・・・気付きました。ですが・・・」


命の問いかけに返答するキーパー、その返答を聞いて


「ですが・・・何なのです?何故ぶつかられたのに怒りも泣きも、そして指摘すらもせずにニコニコしていられるのか、それはその痛覚ともいえる感情が失われたが故に他なりません!!」


苛立ちを込めたとも取れるきつめの口調で攻め立てる暗。更に


「その不自然な笑顔と輝きは偏に負の感情を消す事で感情が不完全な物になるという事に気付いていないが故の事。それを肯定してしまったらそもそも感情等存在しない事がいいという結論しかありません」


と続ける。


「私達はこの世界の住民の感情を戻しているだけです。現にこの世界の浄化システムにフリーチェ様を構成している負の感情の一部を混ぜ込んでも双方は反発せずに融和した。つまり、この世界の輝きはまやかしに過ぎないのです。このシステムを作った存在の独善による」


一日が放ったこの一言、だがそれを聞いてもなお


「それでも・・・それでも争うよりはましよ!!」


とあくまで肯定しようとする望。その言葉に生花達も続く。


そしてシステムの方に向かっていこうとするがそこに言葉と木の葉が立ち塞がり望と希有に回し蹴りを喰らわせ壁に叩き付ける。


「フリーチェさん、そして一日ちゃんの邪魔はさせない!!」


声を揃えて啖呵を切り、すぐさま交戦体制を整える二人。


「お前達はあの時の・・・どうしてその少女に味方する!!」


二人を見たムエが基地を爆破した時の事を思い出しつつ問いかけると


「一日ちゃんは私達に進む道を示してくれた。親に捨てられ、途方に暮れていた私達にね!!だからその恩を返し、ともに新たな世界を見る。それが私達の希望よ!!」


とやはり声を揃えて返答する。


「でもそれは・・・」


生花が何かを言いかけたその時、その腕を命が撃った銃弾が掠め、そこから血が流れ出て生花は腕を抑える。


「二人の発言に弁護ですか。やはり同業者は身内に甘いのですね」


これまでの敵意に加え、明らかに軽蔑した目で生花を見下げる命。その目はともすれば人間の目ですらないといえる鋭さと冷たさがあった。


「甘い・・・どういう・・・」

「あんたも同じ事をした同罪者でしょう。それを弁護するという事は自分を弁護しているに等しい。だから甘いといったのです」

「命・・・私は・・・」

「言い訳は無用、最早情などないのですから!!」


生花の必死の呼びかけにも耳を貸さず、冷酷にも命は銃弾を撃ち込み続ける。両手両足、更には顔等に掠めたり当たったりする銃弾に耐えられず、生花は崩れ落ちてしまう。


「くっ・・・生花さん・・・」


壁から立ち上がった望が生花に駆け寄ると生花は


「はあっ・・・はあっ・・・」


と苦し気に声を上げるも息はしっかりとあった。


「息はある・・・でもこのままじゃ・・・」


望はそう言って一縷の希望を持とうとするがソルジャは


「いや、今の銃弾は明らかに急所は外していた。一体何が狙いだ!!」


と指摘し、命を睨み付ける。


「狙い?そんなの簡単ですよ。敢えて生かして苦しめたいからです。自分達が望んでいた世界が崩れていくのを眺めることでね!!」


そう言い放つ命。その言葉は絶対零度よりも冷たく響く。


「くっ、ならもう容赦は!!」


キーパーはそういうと魔法を放とうとするが


「エアーズ・バースト!!」


と言う暗の声が響くと同時にキーパーの周囲で爆発が起き、その爆発によって床に叩き付けられる。


「ぐううっ・・・あ、貴方はサンク君なのでしょう・・・どうして・・・」

「そう、私は嘗てサンクと呼ばれ、狭い世界で過ごしてきた。でも一日ちゃんが外の世界を、その広さを教えてくれた。だから私は一日ちゃんと、そしてチュアリやチュアリとともにいる回帰さんと共に行かせてもらう。それだけよ!!」


キーパーはサンクに呼びかけようとするが、命と同様、その呼びかけは無残な結果に終わる。

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