第七十話 一日の真意

「そう、あの時私は秋月世革としてフリーチェ様の力を浴び、その影響で二つに分離する所だった。でも感じた、二つが離れたがっていない事を。身を切られるような痛みを。そこで私は発送を逆転させ、その力を拒絶では無く、許容した。だから私は力を得る事が出来た。ずっと欲しいと思っていた世界を変える力を!!」


フリーチェの話に続き、一日も話し始める。それを聞いた希有が


「じゃあ、お前は本当に・・・」


と問いかけると


「だから初めから言っているでしょう」


と一日は呆れた声で返す。だがその返答は望と希有にとって、最も認め無くない現実を認めざるを得なくなるのに十分過ぎる重みがあった。


「そして一方で気付いた。フリーチェ様や先輩達がどうして互角にしか戦えなかったのか、その違いは何なのか、それを突き詰めていった時、私の責務は見えてきた」

「やはり、君は最初から分かっていたんだね。でもそれを直ぐに言われて僕達が受け入れられる訳が無い、だから・・・」

「ええ、回りくどい手を使わざるを得なかったのです」


最初から気付いていた事を語る一日、その様子にヒリズも神妙な声を上げる。


「だ・・・だけど、それと命達にした事とどういう関係があるの!!何故命達が・・・」


尚も反論しようとする生花に命は


「五月蠅いよ。黙ってくれない?会話の主導権を横取りしたがる小母さんは嫌われるよ」


と言う低い声と銃弾を生花に向けて放ち、声は心を、銃弾は右腕を撃ち抜く。そして生花は右腕を抑えてその場にしゃがみ込む。


「生花さん!!」


キーパーが駆け寄ると生花は右腕を抑え、震えている。その震えは恐怖とも怒りとも取れ、更にその体に走る痛みも心的要因、外的要因のどちらとも取れた。


「一日ちゃんは気付かせてくれただけだよ。僕達には製の感情と負の感情の両方があり、その両方を受け入れてこそ初めて真の存在となれるって事に。負の感情を認めた時、僕の心はずっと軽くなった。まあ、その後やり返していいか否かは別だけどね」


そう語る命に生花は


「それでも・・・そんな感情があると認めてしまったら・・・」


と必死に反論しようとするが


「認めずに否定し続けてもその存在を完全に消し去る事は出来ないよ。何故ならそれは感情であり、人の感情と言うのは死ぬまで根絶される事は無いのだから。そうやって自分で自分を殺していく、それでどうしようって言うの?」


この言葉を聞いた時、望達の脳裏に


「自分で自分を殺しているのでは」


と一日が言った光景が浮かんでくる。


「そう、喜び等の正の感情だけでなく、憎しみのような負の感情も受け入れていく。それこそが人として本来あるべき姿。でもそれを歪めた。ここにいる女は、いえ、正確に言えばこの女を作り出したシステムが!!」


そう語尾を強める一日に対し


「けど、それでも・・・それでもそれで幸福に・・・」


とあくまで一日の主張を否定しようとする望。そんな望を見て苛立ったのか


「だったらその目で見てみろよ!!あんた達が希望と信じるその存在をな」


神消が突然声を荒げ、先程壁に叩き付けた聖の方を指差す。その指の先に視線を動かす望達、だがその顔は聖が目の中に入った瞬間に歪む。


「!!聖・・・さん・・・」


生花はそういうと言葉を続けられなくなる。彼等の目に飛び込んできたのはこれまで度々出現したアメーバと酷似した部分を体の一部に出し、その部分を手で押さえていた聖だった。


「く・・うっ・・・」


手で押さえながら苦しそうな声を上げる聖。


「一体・・・一体これはどういう事なんです・・・」


一行を代表するかのように困惑する声を上げるキーパー。その声に対し


「どうしたもこうしたも見ての通りだよ。彼もヴェルナーと同じ、この世界のシステムによって作り出された存在。この世界の防衛システムであるあのアメーバの上位種にして最高指揮官、それが彼の正体さ」


と返答したのはフリーチェだった。


「つまり、彼は人間では・・・」

「完全に人間ではない・・・とは言えないかもしれない。元を糺せば彼もヴェルナーもその体を構成しているのはこの世界の人間の感情なのだから」


フリーチェは更に会話を続け、聖の正体を語っていく。


「この世界から僕達を追放した後、別世界への侵攻を知った為か、あるいは防衛戦力を整える必要性を考えたのか、そのどちらか或いは両方の理由で作り出されたのがそこにいる聖という男さ。その男は僕が侵攻先の世界で力を注いだ後、片割れとなった存在を加えてなおも僕達に迫ってきた」

「片割れ・・・それじゃ、チュアリ君やテレサさん、ロザリーさん達が吸収されたのは・・・」

「そう、本来一つだったからさ」


更なるフリーチェの言葉に困惑を続けつつも何とか質問を出して気持ちを整理しようとするキーパー、だがその質問にもヒリズがあっさりと答え、困惑はさらに深まっていく。


「く・・・くうっ・・・どこまでも勝手なおしゃべりを・・・」


そうこうしている内にヴェルナーが立ち上がる。だがその顔はここまで攻撃されていながらなおも笑みを絶やしていない。


「この状況下においても尚も笑みを絶やさないんですね。それが物語っているんですよ、貴方達の言う平穏の不自然さを!!」


ヴェルナーに対し強い口調をぶつける一日、その口調は不自然な笑みに対する苛立ちと言うよりも否定に近い感情があった。


「不自然・・・不自然だと・・・だが、この力で・・・」

「もう止めよう、ヴェルナー」


尚も食い下がろうとするヴェルナーの言葉を遮り


「ダークネス・セイバー」


そう呟いて剣を出現させると共にヴェルナーに接近し、その体を貫くフリーチェ。だがその体から返り血は吹き出さない。


「ヴェルナーさん!!」


光景を見た望が叫ぶがヴェルナーは


「い・・・嫌だ・・・こんなのを・・・こんなのは・・・」

「これも君であり、僕なんだよ。僕達は魔王でも女王でもなんでもない、下手をすれば生命ですらなくなっていたのかもしれない。でもこれは・・・」


フリーチェがそう語るのと同時に崩れ落ちるヴェルナー、だがフリーチェはそんな彼女を両手で受け止める。そしてヴェルナーは光の粒子となり、フリーチェに吸収されていく。


「ヴェルナー様!!・・・ああああっ」


その光景を見た聖はこれまで見せた事の無い形相となり、フリーチェに飛び掛かろうとする。だが


「インパクト・ブレイク!!」


神消がそう言いながら聖に肘打ちを入れて体制を崩させ、そこに


「リターン・オブ・バースト!!」

「マジカル・ビッグバン!!」


ヒリズが周囲に出現させた魔法球体と共に黒いビームを放ち、回帰もそれに合わせる形で魔法を放って大爆発させる。それらを纏めて受けた聖は消滅こそしない物の、全身がボロボロとなり最早人の体を留めてはいなかった。


「聖さん!!」


ムエがそう叫ぶと時を同じくして塔の中の輝きが再び陰り始める。


「これは・・・ヴェルナーさんが消滅したから・・・」


生花がどよめくと命は


「そう、そして僕達の戦いはもう直ぐ終わりを迎える。」


と告げる。


「終わりを・・・どういう事なの!?」


キーパーが動揺しながら叫ぶと


「この感じ・・・皆、来るよ!!」


それを軽く流す様に一日がその場にいる面々に発破をかける。そして部屋の中心部分まで陰りが進行するとそこに菱形の核を持ち、上下に異様な機械を繋いだ何かが現れる。


「あれは・・・!?」


ソルジャが思わず声を上げると


「この世界の浄化システムそのものですよ。この世界に生きる全ての生命の感情を集約し、正の感情と負の感情に分離するシステム。ヴェルナーはこれを隠す為の隠れ蓑に過ぎません」


とフリーチェが回答する。

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