第六十九話 魔王覚醒

「今のは!!黒い雷撃・・・」


その場に居た全員がその雷撃が来た方向に目を向ける。するとその視線の先には一日とそう変わらない背丈の黒いローブに身を包んだ少年が立っていた。


「幹部の少年たちとは違う・・・だが、この威圧感は・・・」

「あの少年達以上です・・・まさか、まさか・・・」


その少年から感じる威圧感、それを感じ取ったムエとキーパーが困惑すると


「そう、僕はフリーチェ、貴方方のいう魔王フリーチェですよ」


その少年はその外見相応の高さとは裏腹のドスの聞いた重い声で告げる。


「私達の世界で会議をしていた時とは全く違う姿ですね・・・」

「ええ、皆さんの世界では魔法で取り繕っていましたから。でも最後の大舞台に誤魔化しをして出演するのは失礼というものでしょう。それに、これは僕自身の望みでもある」


望の質問に淡々と答えるフリーチェ、魔王故か、何気ない一言にも重さが加わっている。そこにヒリズ、回帰、神消も現れ


「フリーチェ様、一日ちゃん、上手くいったよ!!」


三人共に同時にそう告げる。すると塔内部の色彩が変化し、白が灰色に変わっていこうとする。


「これは・・・まさか、あの施設と同じ!?」

「そんな、それじゃこの塔も・・・」


その光景を見た希有と生花が動揺の声を上げるがヴェルナーは


「いえ、ご心配には及びません」


というと自らの体を光り輝かせる。すると塔内部の色は再び白に戻り始めていく。


「つっ、流石にそう簡単にはいかないか・・・」

「ええ、ですがやってくれた報いは受けてもらいます。ホーリー・ライト」


ヴェルナーはそういうと一日に向かってその輝きを収束し放つ。


「つっ、流石に・・・」


そう呟いた一日は回避行動をしようとするがその瞬間聖が背後に回り込み一日の体を捉える。


「つっ・・・しまった!!私がここで動けば・・・なら!!守護の成就」


そういうと目の前に黒い膜を出現させ、光を防ぐ。だがその光は勢いを止める事無く押し込んでいこうとする。


「一日ちゃん!!」


命の叫び声も空しく、黒い膜は押し返され、一日に光が当たりそうになる。そしてその場に居た誰もが一日に光が当たると覆われたその時、突如としてフリーチェが一日の目の前に飛び出し、一日の身代わりとなってその光を受ける。


「!!フリーチェ様!!」


その誰もが予想出来なかった行動に困惑の声が上がるのは当然だった。


「一日・・・君を失う訳にはいかない。まだ、君には・・・」


そういうとフリーチェは両目を閉じ、自ら視界を遮断する。


「この感覚・・・僕と対になる、否違う、これは・・・そうか、一日ちゃんはこれを・・・」


目を閉じたフリーチェは何かを悟る。


「魔王が光に・・・・だが、これは好機です!!」


一日を捕まえながらの聖が叫ぶと望達は一斉に攻勢に打って出ようとする。


「そうですね、魔王を倒す事が出来ればその力の・・・」


望もそれに続き、他の面々も立ち上がろうとする。そして一同が立ち上がった直後、光を浴び続けているフリーチェの体が輝き出す。


「やったのか!?」

「フリーチェ様!!」


思わず大声を出す希有と回帰、だがその直後その光は突如としてその輝きを弱めていく。


「!?これは・・・エネルギーは十分に有り余っているのに・・・」


ヴェルナーも困惑し、その顔が僅かながら歪む。


「どうなっている?あれだけのエネルギーを受けて居ながら・・・」


主の動揺が伝わったのか、聖も動揺した声を上げる。その隙を見逃さなかった神消が


「サーベル、キック!!」


と言いながらその名の通りサーベルの如く鋭利な横蹴りを聖に叩き込み、その体を捻り切る様にして一日から離し、壁に叩きつける。


「助かりましたよ、神消先輩」

「お礼は後で良い。それより、どうなっているんだ?」

「恐らく、フリーチェ様も先輩達と同様に・・・」


彼等が状況を理解するのはその言葉だけで十分だった。


「フリーチェ様が受けている光が弱まっている・・・」

「いいえ、弱まっているのではありません。フリーチェ様が吸収しているんです」


ヒリズの解説を訂正し、真実を伝える一日、だが一日自身の顔にも困惑が見られる。


そのまま光を聖達の認識では浴びる、一日達の認識では吸収し続けるフリーチェ、その体の輝きは光と反比例するかの様に強まり、そして


「ダークネス・インパクト!!」


と言って手から黒い球体を出し、それを光の中から飛ばす。その球は光を潜りながらヴェルナーに直撃し、光を消滅させつつダメージを与える。


「ヴェルナーさん!!」


生花が叫ぶとヴェルナーは


「馬鹿な・・・私のエネルギーが・・・」


と先程よりも更に顔を歪ませる。


そして輝きが終わると一見先程と変わらない、しかしどこか雰囲気が違うフリーチェが立っていた。


「フリーチェ様!!」


そう叫びながらフリーチェに駆け寄る一日。


「やっと分かったよ、君を仲間にしてから感じていた違和感の正体、君達が達した境地、そして、これが本来あるべき状態だという事に」


そう語るとフリーチェは一日の方を振り向き、これまで見せた事の無い笑顔を見せる。


「本来、僕とヴェルナーは一つであるべき存在。そして、その先にこそ、本当に得るべき物がある」

「フリーチェ様・・・やはり、そういう事なのですね」


フリーチェの言葉に返答する一日、その内心ではある確信を持っていた。


「女王様と魔王が一つであるべき存在!?どういう事だ!!」


希有が納得出来ないと言わんばかりの大声で叫ぶ、するとフリーチェは


「ずっと忘れていた・・・いや、目を背けていたよ。僕とヴェルナーは元々この世界の住民の正の感情とと負の感情を一度一つに結集し、正の塊、負の塊として生み出された存在。つまり、僕がヒリズや神消、回帰にした事はそもそも僕がこの世界でされたことでもあったんだ。

そしてヴェルナーはその感情を更に増幅させてこの世界その物に還元し、一方の僕は消滅させられそうになった所で結集時に知った異空間への移動魔法で辛うじて逃れることが出来た」


と目を閉じた状態で語り始める。


「答えになっていない!!一体どうしてそれがここまでの事になる!!」


希有が尚も叫ぶとフリーチェは


「そして別世界に逃れた僕は悪意の塊として、その欲のままに次々と異世界に侵攻していった。悪意と善意を結集させる力を使って配下を増やしながら」

「それで増やした配下がそこの面々、切り離された存在がロザリー達って言いたいのか」


ソルジャがそう問いただすと


「ええ、僕とロザリーは、いや、他の面々もそう、元々一つの存在だったのがフリーチェ様の影響で二つに分かれた存在だった。だから力も互角だったし、決して相いれない存在となっていた」


とヒリズが答える。


「力づくでの侵攻を繰り返したのも欲望と悪意に後押しされたが故に他の方法を考えなかった為か!!」


続けてムエが問いただすと


「そうだ。そして、フリーチェ様は元の世界のへの復讐の為か、単に欲望を満たすためかは分からないが他の世界への侵攻を繰り返した。だがヴェルナーはフリーチェ様を始末する為か、追跡者を送り込んできた。それがそこにいる男だ」

「聖さんの事を言っているの・・・」


神消の返答後、生花が続けると神消は首を縦に振る。


「その男は私達の片割れを引き入れ、それで私達を追撃し、侵攻も食い止めてきた」

「だが、それならそこにいるその少女は一体何なんなの!」


回帰が続けるが望はその言葉を遮り口を挟む。まるで言葉を聞きたくないと言っている様だ。


「彼女も当初は他の面々と同じ、僕が力を使って正と負の分裂を狙った存在だった。でも一日ちゃんは当初から気付いていたんだ。感情、心は正と負の両方があって初めて一人前として成り立つという事に」


そんな望に対し、フリーチェはなおも話を続ける。

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