神様に出逢う時間(後)

中に入ると、色んな建物や庭がある。女の子一人には広すぎる屋敷。上には、ただの夕日と夕空が見えるだけ、手を伸ばしても届かない。風も吹かないし、雨も降らない。太陽と月が空高く見える。雲も星もない寂しい空。そして、寒くも暑くもない四季のない家の中。冬のはずなのに、寒くない場所。外で雪が降っていても、中に入ると消えてしまう。いやでも、おかしなことに気づいてしまう。

目の前にある屋敷を見つめ、振り返り閉じた扉に触れた。鍵などかけてはいないし、オートロックなどついていないはずなのに押しても扉は動かない、開かない。扉はすでにただの金属の塊になって少女を見下ろしていた。

少女は扉を眺めて、言い放った。

「次にこの扉開くのは、いつだろう・・・学校が冬休みに入ったら開かないんだろうな、いつもみたいに」

ずっとそうだった。なぜか土日祝や学校の休みの時は家に帰ると、学校がある日まで絶対に扉は開かない。わたしを閉じ込める不思議な壁。

少女は、振り向いて家である一階建ての和風建築の建物を見て

「ここがわたしの唯一の居場所・・・」

そう言って少女は家の中に入っていった。


この家に入るとわたしは異常だった。家の中にいる限り、わたしは食事を必要としなかった。おなかがすかない。食欲もわかない。まるでわたしの体の時間が止まっているようだった。

家の中はお金は払っているはずもないのに、ガスや電気、水道もちゃんと出る。けれど、電話もメールもできない繋がらない。

それに、一番厄介なのは友達のひなた。わたしと遊んだこともないのに遊んだと勘違いをしている。小学校の時からずっと。最初は不思議だったけど、認めるしかなかった。学校でその話が出ても、ひなたは違和感など持ってはいなかった。

だからわたしも不思議と会話を合わせるようになっていった。扉の先にある世界にとってわたしは今、存在しない人間。だけど、存在しているわたし。


わたしがいなくても進んでいく日常。

わたしがはずされた異常なこの世界。


そんな世界に、夢や将来なんてあるわけないと少女は制服から普段着のシャツとスカートに着替え、大広間にある低いソファに座り、目を閉じ眠りについた。


一日の始まりと終わりはなんとなくわかっていた。この家に時計やテレビはないけれど感覚でわかっていた。太陽と月だけが唯一のこの家の中での外の世界だった。太陽の光で眩しくなると少女はゆっくりと目を開け、起き上がった。

身支度をして、外にある剣道場に向かった。剣道は小さいころ色んな人に教えてもらった。やることがないときは決まって教えてもらったことの復讐を繰り返していた。そのせいで、止められない習慣になってしまっていた。それに独学や体育の授業、図書室で見た本を頼りに勝手に覚えた剣術や空手、合気道などを疲れるまで永遠と繰り返した。相手のいない練習は凄く寂しくその気持ちを感じないように無心で一生懸命していた。

そして、近くにある弓道場を眺めてもういない顔すら思い出せない小さな弟のことをうっすらと思い出しながら、その場を後にした。

いったん家に戻り、シャワーで汗を流した。髪の毛をポニーテールに結び、気に入っている花柄の白いワンピースに着替えカーディガンを羽織ってもう一度外に出た。

そして裏にある花壇に向かった。そこには季節を無視していろんな花が年中咲いていた。一度も枯れることなく、永遠に。そんな花を見て少女は微笑んだ。

そのとき、吹くはずもない風が吹いた。そして花びらが一斉に吹き荒れた。まぎれもない突風だった。その異常な光景に少女は驚き、目も見開いた。そして、風の吹いたほうを見てさらに驚いた。

先にある古い用具入れの蔵の上に、うさぎの耳が付いた白いフードをかぶっている女の子がいた。ありえない光景に少女は女の子のほうを向いた。

気づいた?と言っているような笑顔を向けて女の子は前に手を差し出して言った。


「キミにはこの世界は何色に見えるの?」


と、------

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