突然の訪問者(後)


目をこすり蔵の壁に手を当て立ち尽くして視界が戻るのを待っていると壁に当てていない方の手をいきなりつかまれ、引っ張られ振り向かされた。そして目の前にわたしより少し背の高い少し変わった感じの制服っぽい臙脂えんじ色の服を着た赤髪の少年がいた。

少年は心配そうにわたしの顔を覗き込み

「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ・・・」

「えっ・・・?」

目の前が霞んでよく見えず、わたしは彼の手を借りて蔵の壁に向かって座りもたれかかった。彼はわたしに向かって何か言っていた。

少し聞き取れないところもあったけど、わかる範囲で答えた。

「どうした、何があった。怪我でもしたのか・・・もしかしてあのしつこい御堂みどうにやられたのか・・・ってあいつは先生だから生徒に危害は加えないか一応・・・じゃあ何だ・・・思い当たることないのか・・・答えろ、おいっ」

男の子らしい乱暴な問いかけに少しだけ呆れ、思っていることを言った。

「疲れてるんだと思う、体力ないんだよ、きっと・・・」

か細い声でそういうと、納得していないような顔でわたしを見た。

すると思いついたかのように、

「そうだ、ハラ減ってんじゃないのか。もう夕方みたいだしよ、晩飯はもう食べたのか?」

予想外の考えていなかった質問にわたしは普段通りのことを言った。

「食事なんて・・・そんなもの、必要ないでしょ」

目の前の少年は驚いた顔で、はぁ?っていう声をあげてわたしの見ていた。

「・・・じゃあ、昼飯は?何食べたんだよ、ダイエットとかしているわけじゃないんだろ?答えろよ」

わたしは少年の問いかけに少しイラッとして

「・・・食べて・・・ない」

それがどうしたのと思いながら、霞んでよく見えない目をこすりながらこの状況をどうするのか考えていると、何人かが集まってきて、少年が何かを説明していた。

わたしはうっとおしく感じてしまい、ため息をつくと目の前に大人の男性がしゃがみこんできて、わたしの体の前に右手をそっと広げた。誰だろうと思ったけれど、霞んでいる目の先に見えるのは、大人の男性だろうということ以外わからなかった。

そうしていると、男性の出していた右手がゆっくりと光りだした。そして、男性は納得したかのように手を直した。

そして、わたしに向かって予想外の一言を言った。

「栄養不足だな。ちゃんと食事をとっているのか?」

と、呆れた感じに言い放った。

わたしは男性の発した言葉に驚き、顔を上げた。

すると横にいた少年がわたしが食事をとっていないを告げた。

それを聞くと驚いた顔で男性はもう一度わたしの顔を見て怒った。

「いったい何を考えているんだ、食事をとらないなんて死んでしまうじゃないか!」

わたしは瞬きを繰り返し、訳が分からなかった。そうすると、また一人少女が近づいてきた。その手にはグラスに入った水を持っていた。

わたしに近づき、男性に向かって言った。

「駄目だよ、せんせー。りんちゃんに言われて家の中探さぐってみたけど冷蔵庫の中何にも入ってないの、すっからかんだよ。お茶すら入ってないもん。

空っぽの冷蔵庫なんてみぞれ、初めて見たよー。だから一応、水道からお水入れて持ってきたよ」

その言葉に、目の前の二人が言葉なく驚いているのが微かな視界から見て取れた。そんなに驚くことなのだろうか、まぁけどペットボトルの一、二本ぐらいは入れといた方がよかったのかなぁとどうでもいいことを思っていた。

そうしていると、水を渡されゆっくり飲むと少しだけ落ち着き視界がクリアになってきた。なんとなく、のども乾いていたのかなと実感した。


少し落ち着いてあたりを見ると、目の前に4人の男女がいた。

見上げていると、赤髪の少年がぶっきらぼうに

「おい・・・大丈夫なのか、水だけで?」

「えっ・・・あ、うん。たぶん平気だよ」

蔵に手を当て、立ち上がろうとした。

さっきとは違い力も少し入った。壁越しに立ち上がって歩こうとすると、ふらつき少年の体に抱き着いてしまった。

「・・・おい先生。こんな状態で学園に連れて行って大丈夫なのか?日を改めた方がいいじゃねーのか、なぁ」

すると、あたりを見渡していた男性が少し顔を引きつって苦い顔で告げた。

「いや、問題があるのはこの場所だ。俺たちは今、よくわからないが特殊な結界の中にいるのと同じような感じだろう。早めにここから出た方がいい。」

「結界って・・・ここに住んでるんだろ、こいつ?」

じっと抱えているわたしを見た。

「一部、結界が不安定な所がある。そこから少しづつ乱れ始めている。彼女が具合を悪くしている原因のひとつかもしれない。早く学園に連れていき、健康状態をみるべきだ」

確信をもっていう言葉にみんな納得し、彼はわたしの体を軽く持ち上げてお姫様抱っこのような態勢をとった。

そして、また草むらのあった方に向かって歩き出した。草むらの茂みに入り、少し歩いていくとみんなの足が一斉に止まった。

そして、男性が着ているスーツのポケットから一枚の扉のイラストが描いてあるカードを取り出した。それを水平に投げ出すと空気の壁にコツンとあたり、目の前に魔法のように、光の扉が現れた。その扉をめがけて、一斉に潜り抜けた。

目の前が真っ白になりわたしの記憶は途絶えた。

そしてわたしは、世界から消え世界を越えた。




そのようすを、シーシャはニヤニヤしながら見ていた。

「また一つ、理想の駒が手に入った」

すると、もう一度指をパチンッっとならし開いていた扉を元通り完全に閉じてしまった。

そして、蔵から飛び降り

「この事実に気づいたとき、はどんな反応をするのかなぁ」

と言いながら、この世界から消え去った。


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