時を迎えるまで


このまま、家にいようかと何度も何度も心の中では思っていた。

けれど、わたしの足は玄関のほうに向かって歩いていた。扉は神様の言った通り、本当に開いていた。わたしは制服以外の姿で初めて、この家の外に出た。

昼過ぎの街並み、凄く新鮮な日常だった。散歩をしている人々、買い物途中の親子、学校帰りの小学生。わたしは行く当てもなく、適当に進んでいた。

そして、橋の上で足を止めた。ただ無心で遠くを見ていた。

ふと下を向くと、同じ年齢ぐらいの髪をツインテールに結んでいる銀髪の少女がいた。少女は真っすぐ橋の下に流れている川を見ていた。そしてスカートのポケットから何かを握りしめて取り出し、川に向かって思いっきり投げた。

わたしはとっさに

「あっ!」

と、声に出してしまった。

それに気づいたのか、少女はこっちをじっと見てきた。わたしはとっさにその場を立ち去ろうと歩き出した。そして、橋の中心に来たぐらいで後ろから足音が聞こえた。わたしは下にいた少女に手をぎゅっと、つかまれた。

そして、

「待って、行かないで、話を聞いて」

と、きれいな声でわたしを呼び止めた。

呼び止められたわたしは足を止め少女のほうに振り向いた。

直接見ると少女はすごく綺麗だった。スタイルはいいし、服も清楚で髪の毛もサラサラで見惚れてしまった。

少女はわたしを真っすぐ見つめて

「わ・・・わたし、えっとアー・・・そのあっ、アリスといいます。

あ・・・あなたのお名前は何でしょうか?」

緊張気味の言葉に戸惑ってしまい、

「えっと、理架です・・・ふじ」

途中まで言った時、後ろから自転車がやってきてわたしは言葉を止めてしまった。

すると、アリスは

「理架・・・?」

「うん、そうだよ」

そういうとアリスは満遍の笑みでわたしを見た。


橋から移動して、歩いている途中で公園を見つけ入った。そして中にあったベンチに二人で座った。話していると、アリスはわたしより少し年下みたいな印象があった。

そして外国から来た事と、さっき投げたのは大嫌いな人からもらったブローチだと教えてくれた。

「アリスは、なんでこの街に来たの?」

ちょっとした興味で聞いてみたらアリスは少し悲しそうに、

「にげて・・・きたの、にげて・・・

その、家出みたいな感じかな・・・はは」

アリスの顔が少し沈んだので、わたしは先を聞くのをやめた。

そして、二人は公園の遊具で夕日が沈みそうになるまで走り、はしゃぎ、遊びまくっていた。

あたりが薄暗くなって、わたしはアリスに別れの挨拶をした。どうやら今日、外国に帰るみたいなのだ。

「飛行機・・・間に合うの?こんなに遅くなったのに」

「大丈夫だよ遅いって言っても、まだ5時だよ!」

と、元気に言ってきた。

公園の入り口に着くと、アリスはわたしに

「また会える、理架?」

と、聞いてきた。

わたしは、その答えに戸惑った。

わたしは世界を拒絶した。この世界からいなくなる。戻ってくる確信などないのに、約束できるだろうかと。

けれど、そんなのこ説明しても信じてくれるわけないのでわたしはアリスを見て

「うん、きっといつか会えるよ絶対」

そういうと、アリスはニコッと笑って

「次に会った時は、私が理架のために何かしてあげる。もし、わたしの国に来たら道案内でもなんでもするから。いっぱい色んなことをしようね、理架は私のこの国での最初のお友達なんだから!」

手を振ってアリスは走り去っていった。

わたしはアリスの最後の言葉を素直に嬉しく、心の中に留めておいた。

そしてわたしも、家のほうに向かって歩き出した。

帰り道にアリスを初めて見た橋の上に再び立つと下の方でキラキラ光るのを発見した。わたしは興味津々に近づいて手に取ってみると丸い形の真ん中に小さな宝石が付いた赤色のブローチだった。もしかしてアリスの・・・と思ったわたしは、その場の勢いで、後先考えずポケットにブローチを忍ばせていた。


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