確かな否定論Ⅳ
講堂に着くと、わたしは氷柱ちゃんと別れた。氷柱ちゃんはパイプオルガンの設置されている二階に向かい、わたしはホールの扉閉めに向かった。そのころにはすでに全員揃っており、集会は始まろうとしていた。わたしも扉を閉め、生徒会のみんながいる舞台裏に向かおうとしたとき始まりのピアノの音楽が響き渡った。
「あ・・・始まった」
わたしも急いで、行こうとすると違和感にふと気づいた。
あれ・・・音違う。楽譜間違えてる?何となくの直感にわたしは足が止まり、振り返り二階のパイプオルガンに向かい歩き出した。
するとピアノの音が止み、会長の演説が始まった。わたしは氷柱ちゃんのことが気になり、話は全然耳に入ってこなかった。なんとなくわかったのは主にもうすぐ行われる聖黎祭についての話というぐらいだった。二階に上がると、氷柱ちゃんの姿が見え近づいていくと座りながら小さく何かを言い続けていた。その姿は朝見た時と同じように手で耳をふさいでいた。わたしは不審に思い声をかけようとすると、何を言っているのかが聞き取れた。
「やめて・・・わたしから音をとら・・・ないで、お願いだから神様」
氷柱ちゃんはずっとその言葉を繰り返していた。
「氷柱・・・ちゃん」
そう声をかけても氷柱ちゃんは何も答えず、かすかに震えていた。
そしてふらつきわたしの方へ倒れ込んできた。わたしは氷柱ちゃんをとっさに抱えた。そうすると氷柱ちゃんはわたしの方をびっくりしたような感じで見て、大丈夫そうに振る舞った。
「ありがと先輩・・・大丈夫…ですから」
わたしは氷柱ちゃんを床に座らせ、壁にもたれさせた。氷柱ちゃんはしんどそうに息を切らしていた。そして、プログラムのことを思い出しわたしはスカートのポケットに折りたたんで入れていた今日のスケジュール部分の一枚のプリントを手に取った。そこには昨日の予定通り、氷柱ちゃんの演奏の時間があった。わたしはこんな状態でできるわけないと思い、下にいる生徒会長や琴音ちゃんに知らせようとしたとき氷柱ちゃんに呼び止められた。
「だめ・・・心配かけさせたくない、やるから」
「そんな状態でできるわけないじゃん」
必死に反論するけど、氷柱ちゃんは聞き入れてくれなかった。
そしてわたしは自分でも意外な一言を発してしまった。
「じゃあわたしが弾く。ピアノの上に楽譜あるでしょ」
「え・・・」
咄嗟に出た言葉に正直自分も驚き、氷柱ちゃんもわたしの顔を見て驚いていた。
「・・・弾けるの?」
「一応、氷柱ちゃんみたいに上手に弾けるかはわかんない。誰もわたしの演奏に感想なんて言ってくれないから」
寂しそうに呟くわたしの言葉に氷柱ちゃんは疲れたせいか、少し汗をかきながら微笑んでくれた。
「わたしが・・・聴いててあげる、ちゃんと感想も言う」
その言葉にわたしは少し涙が出てきた。そしてわたしはピアノの上に置いている楽譜を手に取り演奏の時間までずっと楽譜を暗譜していた。意外と時間がたつのは早くあっという間に時間になった。わたしはピアノのイスに座り、鍵盤の上に手をのせた。幸いパイプオルガンのある場所は一階から見えておらず、わたしが弾いていることはバレないだろうなと思っていた。最悪でもあとで琴音ちゃんに怒られるぐらいかなと目を閉じ最初の音を鳴らしだした。パイプオルガンで弾くのも初めてだし、そもそも家に置いてあったあの白い普通のピアノ以外触れるのは初めてだった。そんな中、わたしはできる限り楽譜に書かれている曲を弾き続けた。まだ名前のない氷柱ちゃんが作った曲を。その様子を氷柱ちゃんはじっと見て誰も聞こえないような小さな声でピアノの音に混じらせながら言った。
「・・・すごく上手い。それに綺麗な、わたしとは違う圧倒的な力量」
氷柱ちゃんは感じていた。きっと先輩はわたしよりずっとピアノを弾いていたんだ。だけど、先輩のピアノを聴いてくれる人はいなかった。先輩の言葉を思い出しわたしはじっと床をみて黙り込んだ。
「この曲・・・先輩にあげようかな、名前を付けて」
そんなことを考えていると、演奏は終わった。先輩は恐ろしいことに初見で覚えた曲を、間違えずに完璧に弾いてしまった。下からは拍手が鳴り始め、わたしはほっとした。そうしていると先輩はわたしのほうを心配そうに振りいた。その様子についわたしは困った顔で微笑んでしまった。
ピアノを弾き終わると、自分でもどうなったのかよくわからなかった。ただ指の動くままに弾き続けた。そして氷柱ちゃんのことが心配になり横を向くと、微笑んでいた。わたしは安堵してピアノから降り、氷柱ちゃんに近づいていった。
そして声をかけようとした途端、琴音ちゃんが焦った顔で現れた。
「氷柱っ、何かあったの。いつもと演奏が・・・」
そして氷柱ちゃんの姿とわたしの顔を見てすべてを悟ったようだった。
わたしは静かにその場を離れ、あとは琴音ちゃんに任せた。下に向かおうと階段を降りようとしたとき、目の前に城乃くんがいた。
「お前・・・兄さんの話、ちゃんと聞いていたのか?ずっと舞台裏に現れないし」
「あ・・・ごめん。色々あってほとんど聞いていない」
そう正直に言うと、城乃くんはめんどくさがりながら話していた内容を確認だと言いながらわたしに教えてくれた。学園内のことやコースに関係ある話、そして一番重要なのは聖黎祭関連の話だった。
「聖黎祭は通年通り、エントリーシートをもって生徒会室に行き兄さんからハンコをもらうと出場決定になる。試合形式は毎回地味に変わるから、本番当日まで極秘になっている。知っているのは・・・宣誓時にいきなり現れるあいつしか知らない、主に規則を決めるのも同じくだ」
「・・・あいつ?」
いきなりの単語にわたしは顔を傾げ、聞きだした。
「神様だよ、むかつく・・・あのガキ」
シーシャのことかとわかりわたしは納得した。
だけど、城乃くんはわたしに
「けど、お前は参加する気・・・無いんだろ」
「わたしまだ戦えるほど、強くないから」
下を向き、そう答えると城乃くんは意外な顔をして
「別に魔法を絶対使用って訳じゃないし、プランセースでも武器使用は認められている。運が良ければ、一回ぐらいは勝てると思うけど。自分の力を試すって目的で出ている奴もいるから」
「自分の力・・・」
わたしは自分の手を見つめた。
そして思い出したことを、城乃くんに聞いてみた。
「そういえば、体育館って放課後開いてるの?」
「・・・?あぁ講堂は基本使用以外閉まっているけど、体育館は自主練用に就寝時間ギリギリでのオートロックになっていると思うけどそれがどうかしたのか」
「置いている道具とかの使用は?」
「その辺も自由だったと思う。まぁ体育館は放課後あまり人は行かないから」
「えっ・・・どうして」
その問いに城乃くんはため息をついて、
「放課後は基本、どこでも魔法の練習は自由だから。そんな中わざわざ体育館まで行って練習する奴なんて誰もいないだろ。寮とは反対側だから帰るのも時間かかるし」
「あ・・・そっか」
その言葉にわたしは確かにと思い、言葉をやめた。
その瞬間、終わりのピアノの音が響き渡った。わたしは上を見て氷柱ちゃん元気になったのかなと思っていると下の方から騒がしい声が聞こえ始め、わたしは驚いた。城乃くんは瞬時に理解したようで、何も変わらず
「終わったようだな、全員講堂に出たら俺たちも出るぞ。片付けは放課後だ」
「あっうん」
わたしは城乃くんの後をついていった。
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