確かな否定論Ⅲ

次の日は集会の準備のせいで放課後はかなり忙しかった。

わたしは昨日約束した通り、授業の終わりのチャイムが鳴ると同時になずなと柚にバイバイっと言い生徒会室に直行した。

二人には昼休みの時に集会のことを聞かれ、正直戸惑ってしまった。

「え・・・手伝うだけで、何の話をするかなんて知らないよ?」

「あ、そうなんだ」

「一応、生徒会役員でしょ・・・知ってるとばかり思ってた」

二人の的確な問いかけにわたしは笑ってごまかすしかなかった。

生徒会室の前まで来ると、双葉ちゃんと月陰くんが扉の前にいた。

「あっ、藤咲先輩も来るの早いですね。まぁ、いつも先に来るのはプランセースってお決まりなんですよ生徒会長を除いては」

双葉ちゃんは軽やかに声を出してわたしを呼び止めた。

そうしていると、遅れて詩奈ちゃんが慌てた様子で急いできた。

「うにゃーごめんごめん、遅くなったぁ」

「大丈夫だよ、詩奈ちゃん」

わたしは可愛く謝る詩奈ちゃんの姿に少しだけ和んでしまった。

「霙ですっ、理架先輩!」

頬をぷくーと膨らませた詩奈ちゃんにわたしはえっ、と驚いた。

「霙、苗字で呼ばれるの歯痒いって言って嫌がるんです・・・まったく、めんどくさい」

双葉ちゃんが少しめんどくさそうな顔をしてコソコソとわたしに教えてくれた。

「そっか、わかった霙ちゃん」

そのとたん霙ちゃんの顔は一瞬で笑顔に変わった。

「仲良くなるの早いね、理架は」

「えっ?」

突然の声に後ろを振り向くと、琴音ちゃんと疲れた顔をした城乃くんが立っていた。全員が揃うと、扉の内側・・・生徒会室の中から会長がタイミングよくわたしたちの前に現れた。

「みんな揃ったね、じゃあ講堂に行こうか。さっさと準備して軽くリハーサルしないとね、特に氷柱は」

会長は氷柱ちゃんの方をチラッと見て、その様子に琴音ちゃんも頷いた。

「琴音ちゃん・・・氷柱ちゃん、何するの?」

隣にいた琴音ちゃんにわたしは聞いてみた。

「ピアノ演奏があるのよ、講堂には巨大なパイプオルガンがあるのよ。氷柱はそれで演奏するってお決まりなの」

琴音ちゃんはまるで自分のことのように微笑みながら教えてくれた。


生徒会室のすぐ近くにある講堂にわたしは目を奪われた。

体育館とはイメージが違い、いかにもクラッシック会場ぽい洋風の立派な建物だった。わたしは立ってじっと見つめていると、城乃くんに声をかけられた。

「おい、何つっ立ってる早く中に入るぞ」

乱暴な呼びかけにわたしは少し焦り、入口の方に向かって走り出した。

中に一歩踏み込むと、汚れのない綺麗なタイル床のフロントがあった。

そして奥の扉を会長が鍵を使い開けると、まるで本当にコンサートが軽くできそうなステージがあった。イスも全校生徒が座れるぐらいに敷き詰められていて上を見ると二階席まであった。

「・・・ひろ」

純粋な感想を言うと、近くに来た霙ちゃんが教えてくれた。

「びっくりするでしょこの広さ、けど実際使うのは前半分ぐらいだけど」

それでもわたしはこの光景に目を奪われた。みんなが明日の準備で、色々出したり片付けたりしていると講堂内ををピアノの音が響き渡ってきた。壁は音を響かせ綺麗な旋律がわたしの耳に入ってきた。そうしていると、みんな動きを止め聞き入っていた。

「これ・・・何て名前の曲なのかな」

ふと思ったことを口にすると、琴音ちゃんが現れて答えてくれた。

「氷柱の作った曲よ、こういうことには昔から天才的だったから。まぁ題名はあまりつけないのよね」

「昔・・・から」

琴音ちゃんは少し寂しそうな顔をして、わたしに言った。

演奏が終わると、再び準備をはじめ終わった頃にはすっかり日も暮れかけていた。

「お腹すいたー、今日はいっぱい食べてやる」

「いっぱい動いた・・・ねむぃ」

そんな会話をしながらわたしたち女の子は全員で寮に戻った。


次の日の朝、わたしは微かな足音に目が覚め起き上がった。

そして扉の外側から

「氷柱、私・・・先に行って自主練してるから。髪の毛は自分でするんだよー」

そんな声が聞こえてきた。そのすぐ足音が聞こえてきて琴音ちゃんが学校に向かったのだと予想した。

わたしは制服に着替え部屋から出ようとすると横の扉から物音がし、どこからだろうと思うと琴音ちゃんと氷柱ちゃん部屋の扉が少し開いていた。わたしは近づいていくと、隙間から氷柱ちゃんが制服姿で床に座り込んで手で耳をギュッとふさぎ下を向いて震えているのが見えた。

「・・・氷柱ちゃん?」

わたしが声をかけても、氷柱ちゃんは聞こえていないようで返事をしなかった。

そしてふと顔をあげ、わたしと目が合うと掠れた声を出してきた。

「ぁ・・・せんぱい」

涙をためながら、ぐちゃぐちゃになった髪をぎゅっとつかみ氷柱ちゃんはしゃべった。

「どうしたの・・・大丈夫?」

わたしは氷柱ちゃんの近くに座り、顔を見た。

「平気・・・だいじょうぶだから・・・」

そういうとふらつきながらも静かに立ち上がった。わたしも手を貸しながら立ち上がった。そうしたら氷柱がわたしの顔をじっと見て

「ねぇせんぱい・・・髪の毛、してくれませんか」

「えっ・・・うん、わかった」

突然のお願いにわたしは戸惑い、だけど頷いた。そして渡してくれた櫛とゴムを使いわたしは丁寧に結び始めた。

「琴音ちゃんみたいに上手じゃなくてごめんね、三つ編みとかわたし似合わないからあんまりしなくて」

「別に問題ないです・・・」

小さな声でそう呟いた。

結び終わり、一緒に下に降りるともう人は少なくなっていた。

「ごめんなさい、わたしのせいで朝食遅れてしまって」

「平気だよ全然」

そんな中、まだなずなと柚はわたしを待ってくれていた。そして横にいる氷柱ちゃんを珍しそうな顔で見て近づいてきた。

「あっ倉科さん、今日の演奏楽しみにしてるから」

「わたしも、あなたのピアノ好き」

二人の言葉に氷柱ちゃんは小さな声で

「ありがとう」

と呟くと二人は笑った。

わたしは集会のとき全体の見張り役だと教えると、二人は先に行くねと言い講堂に向かって言ってしまった。そんな様子を見て氷柱ちゃんは申し訳なさそうに

「ごめんなさい・・・先輩、わたしのせいで」

「そんなことないよ、早く行こう」

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