確かな否定論Ⅰ

シュヴァリエの塔は放課後、どこからか常に剣と剣がぶつかり合って刃こぼれする音が常に聞こえていた。そしてわたしは琴音に言われた通りの場所に向かって進んでいた。見かけないわたしの姿に何人かの生徒はわたしをみて誰だとコソコソ話しているのが耳に入ってくる。そうしていると、琴音ちゃんの姿が目の隅に入ってきてわたしは足を止めた。そして、わたしは目の間の光景に目を疑った。

琴音ちゃんが、鎖を使い城乃くんの持っている剣を引っ張っていたからだ。二人とも制服じゃなかったからあの姿が魔導着なんだと二人を見て思った。琴音ちゃんの右手の小さな魔法陣から出ている鎖は剣にまとわりつき、離そうとはしていなく鎖のの先端は剣のように鋭くとがっていた。琴音ちゃんはそれを引っ張り、逆に城乃くんは顔を強張らせ必死に抗っていた。その様子をみていた周りの生徒の話し声が聞こえてきた。

「すげーな生徒会同士の戦いは、見てるだけでハラハラするよ」

話し声にわたしは心の中で肯定し、じっと見ていた。

そうしていると、琴音ちゃんと目が合った。

琴音ちゃんは思い出したかのようにわたしの方を向いた瞬間、気が緩んだのか何故か琴音ちゃんの持っていた鎖が城乃くんの剣からはずれ、わたしにむかって勢いよく真っすぐ光を放ちながら襲い掛かってきた。

わたしはびっくりし、急に防がなちゃと無防備にも思ってしまいさっきの演習の授業で二人がやっていた結界の魔法を思い出しながら目を閉じ、形成した。その瞬間、わたしの制服はあの時と同じ黒い魔導着に変わり、わたしのまわりを一瞬だけ結界が張った。だけどその結界は鎖に当たると簡単に崩壊し、わたしに向かって直撃した。そしてわたしは勢いよく、後ろに吹っ飛び衝撃により背中にあった窓が割れ宙に投げ飛ばされた。

わたしは頭の中はましっろになり、ただ落ちていく体。怖くなり、どうすればと焦るわたしの頭の中にある言葉が浮かび上がった。わたしは目をぎゅっとつぶりその言葉を口に出した。


『プリューム』


その瞬間、わたしの体はふわりと重力に抗ったかのように落下スピードが緩やかになった。そしてなにかに包まれるようにわたしの体は仰向けに着地した。ゆっくりと目を開けて地面を触ると、光を放っている不透明な黒い羽根がわたしの体の下一面に敷き詰められていた。信じられない光景にわたしは戸惑っていると、上から魔導着を身に着けたままの琴音ちゃんが勢いよく下に向かって飛び降り綺麗な姿勢で着地してわたしに駆け寄ってきた。

「理架、大丈夫?」

慌てた様子でわたしに声をかけた。真っ青な顔にわたしは申し訳ないなと思ってしまった。立ち上がると、今度は城乃くんも琴音ちゃんと同じように上から下に降りてきた。ただし魔導着からいつも通りの制服に戻っていた。

「無事そうだね、怪我してないか?」

「うん、どこも痛くないから平気」

自分の体を見渡すと、魔導着は鎖が当たったところ以外傷がついているところはなかった。

「で、プランセースの未熟生がなんで放課後シュヴァリエ側に来てたんだよ。危険だって知らないのか」

「ごめん、私が呼んでたの。生徒会の仕事の資料、渡そうと思って」

城乃くんがため息をつき、呆れた顔でわたしたちを見ていた。

その様子に、わたしもふと起きたことの衝撃に疲れ軽く深呼吸すると魔導着と下にあった羽根が微かな光を放ちながら消えて元の姿に戻っていった。

「不思議だなぁ・・・」

そう目の前に起きていることに感想を言っていると、城乃くんが上を指して

「あっちの現象の方が、俺は不思議でしょうがないけど」

と言っていた。わたしは、えっとなり上を見ると目を見開いた。さっきわたしが吹っ飛ばされた窓が時間が巻き戻ったかのように元に戻っていっていた。それを見ていると城乃くんは

「あれがここでの常識、建物などの基本的オブジェクトは一応は壊れるが一定時間がたつと自動的に再修復を始めだす。まぁだから気兼ねなく壊せるんだけど」

妙な知識を教えてもらい、わたしは首を振ってうなずいた。

再び、琴音ちゃんと城乃くんのいた教室に戻りわたしは琴音ちゃんから何枚かの束になったプリントを渡された。

「明後日ある、講堂での学年集会があるの。あなたにも手伝ってもらいたいと思って。わたしこれから用事がって、お願いなんだけどこのプリントをプランセースの塔の三階にある第二音楽室にいる氷柱に届けてくれないかな。この時間なら必ず弾いてるはずだから、音ですぐ気づくわ。三つ編みの女の子だから」

そう申し訳なさそうに言われプリントをもう一束渡された。

「わかりました・・・けどどうして、倉科さんに?」

苗字を知っていたわたしに琴音ちゃんは少し驚いて話をつづけた。

「毎回、集会の時は氷柱に講堂にあるパイプオルガンを弾いてもらっているから。そのプリントには集会のタイムスケジュールが書いてあるから渡してほしいの、曲名とか色々書いているから」

なるほどと納得し、わたしは琴音ちゃんに平気と言って音楽室に向かって歩き出した。



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