黒衣のフレア(後)

体育館は二階建てで、とても大きかった。一階は主に試着室や小さな競技室になっていた。わたしは各部屋の上にある扉上の方を確認すると、思っていたとおり剣道室があった。チラッと見ると竹刀もあった。

二階に上がると、一面大きな空間だった。教室の何倍もの広さで圧巻された。

「うわ・・・ひろ」

わたしは驚いてそんな声しか出なかった。

「びっくりするでしょ、まぁ魔法を気にせず発動できる広さだし」

なずなはまるで自分のことのように胸を張っていった。

そうしていると、クラスのほとんどがだんだん体育館に集まってきて少しづつ賑やかになっていった。

「ねぇ柚・・・演習の授業って基本的に何するの?」

「えっと、毎回花菱先生が出す課題をクリアしたら終わりって感じかな。あとは自主練」

「この前は、魔弾の複数制御だったよねー。わたし、三つが限界だしアレ神経使うから疲れるんだよねー」

「課題・・・かぁ」

「まぁ初心者は多分、魔導着を纏うことからじゃないかな。それできないと色々支障出てくるし、魔弾の衝撃とか耐えられないから」

「魔導着って・・・何?」

二人に聞くと、なずながえっへんと言ってくるっと回った。

そうするとなずなの制服が若草色に光りを放ち、制服が変化した。全体的に黄緑掛かってレースが目立つ、可愛らしいミニスカート。まるで魔法使いの服のような感じに変わってしまった。

わたしが目をぱちくりしていると、隣にいた柚も

「発動して、レモネード」

そう静かに目を閉じ呟くと柚の制服もひまわり色に光り出し制服が変わった。けれど、柚のほうはなずなとは違って、全体的にレモンイエローで動きやすそうなハーフパンツ姿だった。

ふと、周りを見てみるとクラスのみんなも制服とは違ういろんな色の服に変わっていた。

「これが魔導着・・・」

二人の姿を見つめた。そうしているとなずなが

「とりあえず、演習の授業は基本的にこの姿が基本だから。これを着ると魔法を発動させやすくなるし当たっても武器ダメージじゃない限り傷はつかない優れもの。まぁ体に響くってのはあるけど」

そんな話をしていると、チャイムが体育館中に響き渡った。

そして、階段から花菱先生が静かに上がってきた。

「はーい。みんな揃ってるよね、授業始めるよ。今日の課題は・・・」

みんなの顔がまっすぐ、花菱先生の方を見ていた。先生は全員の顔をじっと見て手を叩いて言った。

「結界張りの練習よ、結界は個人の張れる最高値を。あとで先生が魔弾を打ち込むから、破壊されたらアウトね。さぁ始めて、結界を張れないと自分自身も誰も守れないわよ」

その声にクラス中がはいと声をあげた。みんながそれぞれ一定の距離を開け魔法陣を形成し始めた。その様子にただ見ていることしかできなかったわたしは、花菱先生に声をかけられた。

「藤咲さん、まずは魔導着を纏うことから出来るようになりましょう」

そういうと花菱先生も淡いピンク色の光を放ち着ていたスーツが変わりだした。

「これが基本よ、初めはイメージから始まるから目を閉じてあなたのデバイスに意識を集中させて」

わたしは花菱先生の言うとおりに目を閉じた。そしてわたしは頭の中でわたしのデバイスのロザリスのことを思い浮かべイメージした。そういえばなずなが言っていた。魔導着はイメージによって成り立っている。ふと想像した姿が現実になってしまうという言葉に。その一瞬、ロザリスが頭の中で黒く光り出しわたしの心を染めた。その瞬間わたしは思い出してしまった。ずっと前、わたしがまだ家にいたときすべてを壊してしまいたいと願っていた時に目の前にあった紙にふと描いてしまった世界を破壊する神様の姿を。そしてその姿にロザリスは確かに反応した。

再び目を開けたとき、わたしは黒い魔導着を纏っていた。あのとき描いた神様の絵によく似た格好をしていた。わたしは一瞬まさか・・・となり思考を停止してしまった。その姿に先生は少し驚きの顔を見せ、すぐに何故か懐かしそうな顔をして

「まるで黒衣ね」

と、微笑んでいた。

その姿を見たなずなが駆け足で近寄ってきて、

「すご、黒色だ。初めて見たー。紫じゃなかったんだ」

わたしの姿を興味津々な様子で見てきた。その光景に花菱先生が

「遠坂さん、結界張りは?」

「えっ、いやー・・・その一緒に結界張ろう理架」

そう勢いよく言ってわたしを引っ張った。

「先生、あとはあたしが理架の先生役ってことで!魔弾は勝手に防ぐんで大丈夫です、結界張りは自信ありなんで」

そう自信いっぱいに言うと横から柚も会話に入ってきて

「同じく、だからわたしも理架に教える」

二人に両手をつかまれ、少しだけ照れくさくなってしまった。

結局その後は、二人に魔弾や結界張りを見せてもらった。結界張りは二人とも自信が合った通り先生の勢いある魔弾を完全にブロックしていた。その様子を近くで見ていたわたしは純粋に魔法ってすごいっと魅力に取りつかれいた。

そんなことをしていると、午後の授業はあっという間に終わってしまった。

「理架は用事あるんだったよね」

「うん、琴音ちゃんに呼ばれてるから」

「じゃーバイバイ、また寮で」

二人に別れの挨拶をし、わたしはシュヴァリエの塔に向かって進みだした。




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