漆黒の結晶Ⅱ


琴音ちゃんに付き添われ、職員室の中に入ると静かな感じの中から、いきなり目の前に髪の毛をふんわり巻いている若い女性がが現れた。

「あー転入生さんでしょ、コースはどっちを希望したの。教えて教えて!」

唐突の質問にわたしは一歩後ずさんだ。

「花菱先生のクラスだと思いますよ、彼女プランセースを志望しましたから」

そう呆れた顔で琴音ちゃんが言うと、花菱先生はパッとさらに笑顔になって

「本当、うれしいわ。生徒が増えたら今度の聖黎祭せいれいさいがまた盛り上がりが増すわね」

「聖黎祭、何それ?」

琴音ちゃんを見て聞いた。

「んー・・・簡単に言うと、シュヴァリエとプランセースの学年同士で戦うお祭りかな」

「戦う、お祭り」

「うん、全員参加形式ではないけど参加は自由よ」

「けど・・・戦いなんてできないよ、わたし」

そう自信なく言うと花菱先生が

「まぁ転入生に、強制はしないから年に何回もやるしね。自信がついたら参加すればいいから」

そういい、わたしの肩を叩いた。

そうしてわたしは琴音ちゃんと別れ、花菱先生と共に教室に向かった。シュヴァリエとプランセースコースは一クラスのみで生徒は各クラス約十五人ぐらいだと教えてもらった。二つのコースは、職員室を中心に左右二つの塔に分かれていた。わたしたちはプランセース側の塔に向かって二階の教室の前に来た。

そして先生が扉を開き、わたしをクラスの全員に紹介してくれた。

「初めまして、藤咲 理架です。よろしくお願いします」

そう全員を見て挨拶をした。

わたしは窓側の席に座り、普通の授業が始まった。教科書やノート、筆記用具を先生は教卓の机の下から取り出しわたしに渡してくれた。

「これは一応予備だから。藤咲さんのは、寮の自分の部屋に置いているはずだから帰ったら確かめてね」

幸い授業内容は柊木に通っていた時とあまり大差なかったので、なんとか授業はついて行けた。午後の授業がすべて終わると、わたしはこれからどうすればと困っていた。

そんなことをしていると、前に座っている帰り支度の話を友達としている少女が突然わたしのほうへ振り向き話しかけてきてくれた。

「藤咲さんカルミア寮だよね、一緒に帰らない?いいよね柚」

「かまわない、同じプランセースの仲間は大切」

もう一人の少女もそう言ってくれて、わたしたちは一緒に帰った。道案内をしてくれたのでわたしはすごく助かった。

わたしの前の席の遠坂とおさか なずなちゃんと、そのお友達の鳩羽はとば ゆずちゃん。

遠坂さんはツインテールの髪形が凄く似合っている可愛らしい女の子っぽい雰囲気で着ているピンク色のボレロタイプの制服がすごく似合っている。

その一方で鳩羽さんはセミロングの綺麗なストレートで左右に編み込みがされていた。制服はジャンパースカートで上品な雰囲気の女の子だと感じていた。

わたしは、昼休みの話をすると、シュヴァリエの琴音ちゃんの友達だと話すと二人は興味津々だった。そしてシュヴァリエの生徒はほとんどが放課後自主練をしていることを教えてくれた。

「亜月さんって言えば有名人だよ。あれで一応私たちの学年の女子の中のシュヴァリエのトップだもん、ワルツ組んでる後輩の倉科くらしな 氷柱つららちゃんは一年生の中は二つ名持ちで目立ってるし」

そう遠坂さんが、勢いよく歩きながら教えてくれた。

「二つ名って何?」

「もうすぐある聖黎祭で優秀成績の生徒の何人かに神様がくれる称号のことよ。生徒会役員は全員あるけど、あの人たちは自分で二つ名を言いふらしたりしていないから」

「その点、倉科さんは面倒ごとになると二つ名でビビらせてから戦いを挑んで圧勝してるから色んな意味で目立ってるんだよ」

鳩羽さんと遠坂さんの会話を真剣に聞いていたら、あっという間にカルミア寮に着いた。寮は全体的に薄ピンク色で周りの柵の白色とマッチして可愛らしい建物だった。

中に入ると、明るい雰囲気の玄関が広がっていた。きょろきょろ見渡していると、スリッパの足音が聞こえた。

「藤咲さん、はじめましてカルミア寮の寮母の皐月です。これからよろしくね」

目の前には優しそうな雰囲気の二十代前半ぐらいのショートカットのお姉さんがいた。

「よろしくおねがいします」

わたしは頭を下げあいさつをした。


遠坂さんと鳩羽さんとは一時的に分かれたけど、夕食は一緒に食べようと言ってくれた。一通り寮の中を皐月さんに案内してもらうと、わたしは三階の奥にある部屋に案内された。部屋の中に入ると、ベッドと机と小さなクローゼットと観葉植物が窓側に置かれていた。机の上には、この学校に来た時に着ていた私服と日用用品一式、教科書などの学校で使うものがきっちり重ねられて置かれていた。ベッドの上には、着替えのパジャマなどの衣類も置かれていた。わたしはそれらを片付けだしていると、私服のポケットの中に入っているブローチを取り出した。

「これ・・・持ってきちゃったんだ」

アリスとの帰り道に見つけた、アリスが投げてしまったかもしれない大切なブローチ。もし本当にアリスのものなら、いつか返せるかもと思い持ち帰ってしまったもの。わたしは見つめ、そっと机の引き出しの奥に置いて引き出しを閉めた。


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