信託の飛沫


わたしは、生徒会室の階段の奥にひっそりとある立派な扉の中にある狭い階段を生徒会役員の全員でゆっくり一歩ずつ下に降りていた。中は、とても暗く闇だった。会長は何処からかランタンをもってきて明かりを射してくれた。みんなの真ん中、琴音ちゃんの後ろで歩いていると後ろから一年生の詩奈ちゃんがぶつぶつとお昼ご飯食べたいーと双葉ちゃんにコソコソと言っていた。多分、わたしのせいでこんな所に来ているのだと思うとは何だか申し訳なさそうになってしまった。

そんなことを思っていると、大きな広い空間に出た。壁の周りについている燭台に乗っている蝋燭が一斉に火をつけだし、その場がオレンジ色に光りだした。明るくなると目の前の地面に不思議な模様が彫られていた。わたしはその場の不思議さに足が固まり、ただ前を見つめているだけだった。

「なに・・・ここ」

動揺しながら思っていることを言葉に出すと、会長は奥にある小さなテーブルにランタンを置き足を止めた。

「信託の間だよ、ここで君は世界を変えるまほうを受け取るんだ。あの外側の世界から自分自身を守る自分だけのまほうを」

会長はわたしに向かって手を差し出してきて、こっちにおいでと言った。

「ま・・・ほう」

そのとき、わたしはシーシャの言っていた通りだと思いかえした。

そしてわたしは会長の方に向かい歩き出した。


会長の手をとると、わたしに質問をした。

「藤咲さんの希望はどっちかな。杖で魔法を使いたいのか、それともけんのような武器で魔法を使いたいのか・・・教えてくれる」

その問いかけの後者にわたしはすくんでしまった。剣道ということでなら多少はできると思う、だけれどわたしの前には追い付けない存在がいた。その人に対して何もできない自分。まだの後姿を見て、つるぎを握りしめることもできずにただ腕の中で抱きしめているわたし。わたしは何も変わってはいなかった。変わるのが怖くて、結局わたしは片方の方を選択していた。

「杖で・・・いい」

そういうと、会長は少し困った顔をしてうなずいた。そして、わたしの耳に顔を近づけて囁いた。

「下にえがかれている魔法陣の中心に立つんだ。そうしたら信託が始まりだす、さぁ行って」

そう言って、私の背中をポンと叩いた。


わたしはどういうことと少し考え、よくわからずこの広間の中心に向かって歩き出した。わたしが円の中に足を踏み込むと、少しづつ地面の魔法陣が外側から内側へと薄黒く光り始めた。そしてさっきまで普通に見えていた周りの景色が、いつもいたあの世界のように黒く染まり始めて目の前にたくさんの漆黒の雨粒みたいな小さな球体が静かに宙に現れ始めた。その瞬間、頭の中で誰かが笑った。


そしてわたしの目の前にもう一人の自分がいた、ずっとわたしと一緒にいたもう一人の自分わたし


目の前のわたしは、わたしに妖しく微笑み

「こんな場所に来て何を考えているの・・・理架、力を手に入れてこの世界に生まれた復讐でもするつもりなの?」

わたしはその言葉に目をそらしなら

「・・・そうかもしれないね、理兔りと。わたしは弱いままだから、すべてから逃げ出した」


そういうと、頭の中で誰かの声が小さくこだましていた。次第にその声がはっきりと聞こえてくるようになり、わたしは意識を取り戻した。

「おいっ聞こえているのか返事しろっ」

城乃くんが慌てながら叫んでいる。

そして目の前にあった漆黒の球体が大きくなっていることに気づき、わたしは目を見開いた。その瞬間、球体は一斉に破裂をはじめわたしは反動で足がふらつき地面に座り込んだ。球体は黒い光の欠片を輝かせながらわたしに降り注いだ。光の欠片は、わたしの前に集まりだし小さな漆黒の結晶が生まれた。中まで真っ黒な塊。わたしはそれを手に取った、そうすると足元で光っていた魔法陣が再びただの模様に戻りだした。

わたしは訳が分からず、ぼんやりしていると前から城乃くんと琴音ちゃんが

走ってこっちに来た。

「おいっ、大丈夫なのか一瞬意識とんでただろ・・・心配させるな」

「へーき、つかまって」

城乃くんの意外なやさしさと、琴音ちゃんの気遣いが嬉しかった。気が緩んだその時、広間に拍手が響き渡った。

驚き、その方を見ると会長は微笑みながら拍手をしていた。


「初めてだよ、黒属性の魔法を見たのは・・・」


と、初めて見るような楽しそうな表情で言った。

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