四人目、弟

 兄弟って、とても厄介だ。

その人は言った。

年は違うけど間違えられる、見分けられる人はいないものか。

性別が違うなら、とても良かったろうな。

「それは、兄である私に言う事ですか」

「まぁそういいなさんな、えーと、マスターさん」

弟は、ふらっとやって来てカウンター席に座り込んでずっと愚痴をこぼしている。

「昔からいい子だもんなぁ、兄さん。話し方も、性格も、それにくらべて俺はだめだ、悪いとこ取りで。」

ずっと愚痴をこぼして、彼の好きだと話していた青いドリンクを一口も飲もうとしない。海が好きだと言ったので、開店して一年経った記念に追加したメニュー。

「俺はこれが好きだった、空みたいで、海みたいで、見ていて幸せだよ。」

弟の右目は少し青みがかっている。これは昔からだ。それこそ、兄である自分も左目に青を持っている。

「……どうしたんです、何か、ありましたか?」

「あのさ、これ、もう飲めないんだ、さいごに残念だけど。」

弟はそう言って席を立ち、青いドリンクの横に4つ折りにしたメモ用紙を置いて行った。

 彼が出ていったはずの、扉の鈴は鳴らなかった。

その時間はとても奇妙だった。

4つ折りのメモ用紙を開くと、綺麗な文字が並んでいた。

『今までありがとう。それだけ、最後はお礼は言わないとダメだって教えてくれたろ。約束は守ったよ。』

読み終えてすぐ、父から電話がきて弟の訃報を知った。海辺の廃屋で自殺をしていたらしい。

 彼は青色に囲まれて苦しかっただろうか。

そう考えながら、彼の好きな青を飲み込んだ。

海の宝石という名前を付けたこの青色。これは私にとって特別だったけれど、もう必要が無い。この気持ちを提供する人がいない。

「……ごめん。」

そこに黒い線を引いた私を、弟は許してくれるだろうか。

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