第5話
「ありがとう。断られるかと思った。」
自分でも驚きが隠せず、取り敢えず落ち着こう、と駐車場の喫煙所に座っているとまた俊樹君が私の隣に座った。
「そうね。私も断るつもりだった。今でもなぜ断らなかったのかわからないけれど、取り敢えず一ヶ月一緒に居てみたらそれもわかるのかもしれないね。」
人は他人に物事を説明することによって自分の脳内を整理することがある。俊樹君とは10以上も年が離れているのに気を抜いて整理しながら話してしまった。
「僕はいつだって落ち着いていたいんだ。琴音さんは僕には関心がないようだったから。」
にっこりと笑う俊樹君に何も返す言葉がなかったのは、その顔があまりにも年齢に似つかわしくなかったからだった。
養育費と呼ぶにはあまりに大きな額の小切手をおばあちゃんから受け取ると、その小さな体の何倍もの大きさの荷物を持った俊樹君が出てきた。
なんとか俊樹君と荷物をコペンに乗せて、重い車を走らせる。
車に乗っている間二人の間には何の会話もなかったが、不思議と琴音はそれを嫌だとは思わなかった。
「ここが私の家。」
ドアの鍵を開けると油絵の具と消臭スプレーの混ざった匂いがした。私は慣れているけれど、俊樹君は平気だろうか。
「ありがとう。独特な匂いがするね。」
「仕事で油絵の具を使っているからどうしてもこうなっちゃうの。嫌だった?」
わけもなく言い訳がましく喋る自分を不審がりながらも俊樹君に目線を合わせる。
「まさか。お父さんから琴音さんの話はよく聞いていたからわかっていたことだしね。気分を害したようなら謝るよ。」
この子が小学生だということを忘れさせる口調だった。
「それより、僕の服を買いに連れてってくれない?」
例え3ヶ月分であってもあまりある程の一ヶ月分の養育費は俊樹君の服を買ったとしてもなんら問題はない。
しかし彼の大きな荷物に疑問が残る。
「服は持ってきたんじゃないの?」
彼はイタズラっ子のように笑った。
「この一ヶ月で必要なものを持ってきたら服は持つことができなかったんだ。」
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